介護業界には、訪問系や入所系、通所系といったさまざまな施設形態があります。その中でも「訪問介護」で働く人は、介護業界においては少数派です。
なぜ、みんな施設を選ぶのでしょう?
それは、施設のほうが仕事内容がわかりやすく、訪問介護の中身がわかりづらいからではないでしょうか。
訪問介護の魅力を知れば、きっとあなたも働きたくなると思います。
いま抱えている悩みも、訪問介護で働くことによって悩まずに済むかもしれません。
訪問介護で働きたい人もそうでない人も知って得する、訪問介護の魅力をデータを用いながら紹介します。
目次
訪問介護とは
訪問介護サービスとは、利用者さんの居宅を介護福祉士やホームヘルパーが訪問して、身体介護サービスや生活援助サービスを提供することです。身体介護サービスとは、食事や入浴、排泄や更衣、移動などの支援です。生活援助サービスとは、調理、洗濯、掃除、買物代行などの支援です。
ヘルパーが自宅に訪問して介助をしてくれるため、その利用者・家庭に合った介護方法を提供できます。
データから分析!訪問介護員のニーズの高さ
厚生労働省のデータを用いながら、訪問介護員のニーズの高さを解説します。
※単位は万人
参考:厚生労働省 介護人材の確保対策と外国人介護人材に関する動向(平成29年4月20日)
グラフからは、要支援・要介護者の人口が毎年着実に増えており、6年間で139万人増加しているのがわかります。一方で、訪問介護員の人口は、ほぼ横ばいで、6年間では10.5万人の増加でした。
介護職員には、訪問系の職員以外にも、入所系や通所系などの職員がいます。訪問系以外の職員は、訪問系職員の2倍以上の人数のため、介護職員全体の3分の1以下が訪問系職員となります。
下記の円グラフを見てみると、訪問介護員は、介護職員の中で少数派にもかかわらず、在宅介護を受けている高齢者は、施設介護を受けている高齢者の約4倍ということがわかります。
参考:厚生労働省 3.要介護度別の施設・在宅割合(2012年3月)
つまり、在宅介護を利用する人は施設介護を利用する人の4倍の人数、かつ要支援・要介護者の人口が毎年増えているため、在宅介護サービスのニーズはとても高くなっているにもかかわらず、もともと少数派である訪問介護員の人口は、ほとんど増えていません。
すなわち、多くの高齢者が訪問介護員を求めており、介護業界の中でも高いニーズがあるといえます!
訪問介護員の特徴
訪問介護員はどのような人が多いのでしょうか。下記では、厚生労働省のデータをもとに属性別の訪問介護員の特徴を紹介します。
【性別】86%が女性
介護業界では、女性の割合のほうが高いのですが、訪問介護員以外の介護職員と比べると1割ほど訪問介護員のほうが女性の割合が高いです。
訪問介護では同性介助を希望する利用者さんが一定数いるため、女性の利用者さんが多い日本ではヘルパーも女性が求められる傾向にあります。
といっても、訪問介護に男性が必要ないということではありません。男性の同性介助を希望したり、むしろ力のある男性にしかできない介助だったりするケースもあるので、どの訪問介護事業所も男性の訪問介護員を重宝しています。
【雇用形態】半数以上が非正規社員
訪問介護員の半数以上はパートなどの非正規社員です。訪問介護員以外の介護職員では非正規社員の割合が3割強程度なので、訪問介護員は非正規社員の割合が高いことがわかります。
5名程度の社員と50名程度のパートといった人数構成の訪問介護事業所も少なくありません。つまり、ほとんど非正規社員であるヘルパーの力で事業所は成り立っています。
一見、立場の弱そうな非正規社員という働き方ですが、訪問介護では雇用形態関係なく活躍することができます。
【年齢】約半数が50歳以上
訪問介護員の5割弱が50歳以上です。訪問介護員以外の50歳以上の介護職員は3割程度なので、訪問介護員の年齢層が高いことがわかります。
パートであるヘルパーの年齢が高い傾向にあり、事業所によっては70代のヘルパーもいます。身体介護は断って生活援助は引き受けるなど、自分にできる仕事だけを選ぶことができるのもヘルパーならではです。無理なく働くことができる環境であるため、訪問介護はいくつになっても続けることができる特徴があります。
参考:厚生労働省 訪問介護員のための魅力ある就労環境づくり
施設では味わえない!訪問介護の魅力
施設介護と訪問介護の違いを比べながら、訪問介護の魅力を紹介します。
臨機応変な対応力が身につく「1対1の介護」
訪問介護の一番の特徴は、「1対1の介護」です。
施設では、一人の職員が複数の利用者さんの対応をします。どこかで転倒しそうな人はいないか、様子がおかしい人はいないか、常にアンテナを張っておく必要があります。そのため、利用者さん一人ひとりとじっくり関われる時間は少なく、利用者さんによって関わりが多い少ないの差がでることもあります。
一方で訪問介護は、利用者さんの自宅へ訪問するため、基本的に1対1で介護を行います。30分や60分といった決まった時間をその利用者さんのためだけにサービス提供できるため、施設介護よりも密なコミュニケーションがとれ、信頼関係も築きやすいでしょう。
また、一人で介助を行うため、一通りの仕事をこなせるオールマイティな人が多いです。
施設であれば、苦手なことを補ってもらえたり指示を仰いだりできるかもしれませんが、訪問ではすべて自分一人で行うので、まんべんなく仕事ができるようになります。
他のスタッフと協力することも少ないので、自分のペースで仕事をしたい人にはピッタリですね。
アクシデントやトラブルが起きたときは、事業所に確認することもできますが、急を要することもあるため、知識と判断力が求められます。臨機応変な対応力が身につくでしょう。
個別ケアができる!利用者さん宅での介護
利用者さんの家に訪問し、仕事をするのも、施設との大きな違いです。
施設に入所すると、施設のやり方で介護を行うことも多いと思いますが、訪問では利用者さんの生活に合わせた介護を行うことができます。
調理であれば、味付けを聞いたり、味見してもらったり、掃除であれば、利用者さんの今までやってきたやり方を聞いて行います。
利用者さんの生活スタイルを尊重し、徹底した個別ケアが行えるのは、訪問介護の魅力のひとつです。
また、利用者さんの自宅から次の利用者さん宅まで、移動があるのも訪問介護の特徴です。移動時間や空き時間は、気分転換になることもあるので、メリハリつけて仕事をすることができます。
パートのヘルパーであれば、毎回直行直帰ができます。社員でも、場合によっては直行直帰ができるので、ルーティンワークが苦手な方にはピッタリです。
学びがたくさん!さまざまな介護度の利用者さんを対応
訪問では、要支援1から要介護5までの利用者さんがおり、高齢者だけなく障がい者の介護をする場合もあります。
たとえば、特別養護老人ホームであれば、要介護3以上でないと入所できないといったルールがあるため、介護度が高い人利用者さんのみの対応をすることになります。
しかし、訪問では障がい者やさまざまな介護度の高齢者対応をするため、多くのケースを学ぶことができます。
といっても、在宅介護を受ける方は自立度が高い傾向にあるため、介護度の高い人のケアや医療ケアなどは学ぶ場が少ないかもしれません。
ただし、少数派であってもゼロではないので、必要な時に備えて知識は得ておく必要があるでしょう。
さまざまな方の対応力がつくのも、訪問介護の魅力のひとつですね。
主婦が活躍!生活援助も仕事のひとつ
身体介護(オムツ交換や入浴介助、食事介助など)がメインの施設介護とは違い、訪問介護では「生活援助」のサービスも提供します。
調理や掃除、買い物などを行うため、家事に慣れている主婦の方であれば、スムーズにサービスを提供することができます。
訪問介護の利用者さんは自立度が高い傾向にあるため、身体介護よりも生活援助を希望する利用者さんは多いです。厚生労働省では、この生活援助の回数をめぐって議論を交わし、介護の必要度に応じて基準回数を設け、ケアプランを市町村へ提出することを義務付けることを決定しました。
これにより、少しずつ訪問介護から生活援助の頻度が減るかもしれませんが、ニーズが高いサービスであるため、家事能力の高いヘルパーさんの活躍の場はまだまだあるといえます。
参考:官庁通信社 介護のニュースサイト JOINT(2018年3月26日)
夜勤をしなくても正社員になれる
定期巡回型訪問介護や重度訪問介護など特別な場合を除くと、訪問介護には、基本的に夜勤がありません。
施設で正社員で働くとなると、ほとんどの場合は夜勤必須となり、小さな子どもがいるお母さん世代や持病などで夜勤ができない人にとっては難しい働き方になります。
訪問介護では、夜勤をせずに正社員になれるため、夜勤ができない方にとっては働きやすいでしょう。「サービス提供責任者」になれば、夜勤をしている施設の職員と変わらないくらいのお給料をもらうこともできます。
有資格者のみの責任のある仕事
訪問介護では、有資格者のみがサービスを提供することがでます。
ある程度の介護スキルのある方が集まるため、無資格の介護未経験の方を一から教育するといったケースは少ないでしょう。
忙しさから、教育を怠って現場の雰囲気が殺伐とする……そんな介護現場も珍しくないと思いますが、訪問介護ではそもそも教育の必要がある場面が少なく、かつ一人で仕事をすることが多いため、そういうことも起きづらい傾向にあります。
有資格者のみと限定されていることから、一定のスキルを求められる訪問介護では、責任もやりがいも大きなものとなります。
時給が高い!融通もきく!自分に合った働き方ができる
訪問介護の時給は、比較的高い設定の事業所が多いです。
身体介護であれば、時給2,000円以上のところもあります。しかし、移動時間は時給が発生しなかったり、急に利用者さんが入院して仕事がなくなったりと、施設勤務のような固定給を期待するのは難しいでしょう。
少しの時間で働きたい方などにとっては、働きやすいスタイルを築けるうえに、比較的時給も高いことから自分に合った働き方ができるでしょう。
元・訪問介護員が教えるホンネの訪問介護
元・サービス提供責任者であるハム太郎さんに、訪問介護のホンネをお伺いしました。
変化や刺激が毎日あることに魅力を感じた
私が訪問介護を選んだ理由は、「ルーティンワークじゃない」ことが大きかったですね。
訪問介護をする前にデイサービスで働いた経験がありますが、決まった時間に入浴介助したり、食事介助したり、レクリエーションをしたり……というルーティンワークに2~3か月でやりがいを感じられなくなってしまいました。
訪問介護は、毎日シフトが変動するし、利用者さんそれぞれでサービス内容が違います。
利用者数は上限がないため、私の事業所では300名ほどの利用者さんがいました。利用者さんの入れ替わりも多く、変化と刺激の日々で楽しかったですね。
施設の職員であれば、あまりすることのないであろう事務作業や電話対応も多かったので、一般的な介護職員よりもスキルアップの実感がありました。
頼りにされるサ責にやりがいを感じる
サービス提供責任者になってからは、ケアプランに沿ってサービス内容を決め、それをヘルパーさんに教えます。ヘルパーさんから報告が上がったことや自分でケアして気づいたことなどをケアマネさんやご家族やご本人と相談して、ケアを改善できるので、多くの方が私を頼りにしてくれます。仕事量や求められる能力も大きいものでしたが、やりがいも大きかったですね。
移動やNGなど、つらいこともある
訪問介護でつらいなと感じたことは、移動です。
移動手段が自転車の場合は、雨の日も風の日も雪の日も利用者さん宅を何件もまわらなければいけなく、とてもしんどかったです。
ほかにも訪問介護の特徴として「NG」があります。1対1の訪問介護では、相性も重視するため、利用者さんは(ヘルパーさんも)相性の悪い人を替えることができます。このヘルパーさんにはもう来てほしくないという宣告をいわゆる「NG」と呼んでいました。
結果、やっぱり訪問介護はいい
もちろん「NG」をもらうと悲しい気持ちになります。
「やってられるかー!」と思いますが、その逆に、「あなたに来てほしい」と言われることもあります。
ある利用者さんには、私の都合がつかず、他のヘルパーさんでお願いしますと依頼すると「ほかの人なら、キャンセルする。ハム太郎さんが来れる日に来てくれればいいから」と言ってもらいました。困っているから介護保険を利用しているため、正しい利用方法ではないかもしれませんが、そういってもらえることはやりがいにつながりました。
訪問介護特有のマイナス面がある一方で、プラスのことが訪問介護にはたくさんあると思います。また介護業界で働くなら、迷わず訪問介護を選びます。
ほかの誰かではなく、私を求めてくれるのは、とてもうれしいですよ!