訪問介護の要として働くサービス提供責任者。
その業務は、ヘルパーの調整・指示などのコーディネーター業務から、ケアマネジャー(ケアマネ)やヘルパー、利用者・家族などの関係各所と連絡・連携する窓口的な役割、現場の介護業務、多くの書類を作成する事務仕事など多岐にわたります。
さまざまな仕事をこなすサービス提供責任者ですが、具体的な仕事内容がわからない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、サービス提供責任者の仕事内容をはじめ、なり方や給料、やりがい、ケアマネや生活相談員との違いなどを徹底解説します。
目次
サービス提供責任者(サ責)とは
サービス提供責任者とは、訪問介護事業所などでケアマネジャー(以下、ケアマネ)やホームヘルパー(以下、ヘルパー)と連絡・連携をとり、適切な介護サービスが提供されるようにコーディネートする人のことです。
具体的には、ケアマネが作成したケアプランにそって訪問介護計画書を作成したり、サービスの内容を定めてヘルパーに指示をしたり、利用者やその家族から相談を受けたりするなど、仕事内容は多岐にわたります。
サービス提供責任者(通称、サ責)は、資格の名称ではなく「役割・職種」の名前です。
指定訪問介護事業所では、サ責の配置が義務づけられているため、なくてはならない重要なポジションといえます。
訪問介護のコーディネーター役!サ責の仕事内容とは
訪問介護事業所の窓口的な役割と多くのヘルパーの調整・教育をするコーディネーター役を果たすサ責。
その仕事内容は、下記の「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」の第24条と第28条第3項に記されています。
第二十四条
サービス提供責任者は、利用者の日常生活全般の状況及び希望を踏まえて、指定訪問介護の目標、当該目標を達成するための具体的なサービスの内容等を記載した訪問介護計画を作成しなければならない。第二十八条
一 指定訪問介護の利用の申込みに係る調整をすること。
二 利用者の状態の変化やサ ービスに関する意向を定期的に把握すること。
三 サービス担当者会議への出席等により、居宅介護支援事業者等と連携を図ること。
四 訪問介護員等(サービス提供責任者を除く。以下この条において同じ。)に対し、具体的な援助目標及び援助内容を指示するとともに、利用者の状況についての情報を伝達すること。
五 訪問介護員等の業務の実施状況を把握すること。
六 訪問介護員等の能力や希望を踏まえた業務管理を実施すること。
七 訪問介護員等に対する研修、技術指導等を実施すること。
八 その他サービス内容の管理について必要な業務を実施すること。出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
上記の通りですが、堅苦しくてわかりにくいと思う人もいるかもしれませんので、サ責の仕事内容をわかりやすくまとめました。
- 訪問介護の新規契約・説明
- サービス内容を決める
- 訪問介護計画書の作成
- ヘルパー(シフト)の調整
- ヘルパーへの指示・教育
- ヘルパー業務
- サービス担当者会議に出席
- ケアマネや他事業所などの関係各所と連絡・連携
- 利用者やその家族の相談対応
- アセスメント・モニタリングなどの事務作業
訪問介護の新規契約・説明
ケアマネから新規契約を希望する利用者の相談を受け、サービス提供を実施すると決めた場合、利用者と契約する必要があります。
サ責が利用者宅に訪問し、利用者やその家族にサービス内容を説明し、同意を得て契約書にサインしてもらいます。
サービス内容を決める
契約時や初回訪問時に、利用者宅の構造や使用できるものを確認しながら、ケアプランにもとづいた訪問介護サービスの内容を細部まで決めます。
たとえば排泄介助の場合、トイレを使用するのかポータブルトイレを使用するのか、ベッド上でのオムツ交換をするのか。介助時に塗り薬の塗布が必要なのか、陰部洗浄用のボトルやオムツを破棄する際の新聞紙など必要なものを用意してもらうのかどうかも確認しながら、サービス内容を決め、合意を得ます。
訪問介護計画書の作成
訪問介護サービスを提供するうえで必要な書類が、「訪問介護計画書」です。ケアマネが作成するケアプランにもとづいて、訪問介護を提供するうえでの目標やサービス内容を記載した計画書を作成し、利用者の署名と捺印をもらいます。
ヘルパー(シフト)の調整
サービス内容とサービスの回数が決まったら、ヘルパーの調整をします。
サービスは、基本的に1週間のスケージュールで決まり、その内容が毎週繰り返されます。
たとえば、月・水・金の週3日、9:00~9:30と17:00~17:30の1日2回のサービスを提供する利用者の場合、1週間のサービス回数は6回となります。
この6回のサービスの対応をするために、ヘルパーを調整します。利用者宅の場所や利用者とヘルパーの相性、ヘルパーのスキルなどを考慮して調整する必要があるため、サ責が一番労力を費やす仕事のひとつといえます。
ヘルパーへの指示・教育
ヘルパーが調整できたら、ヘルパーと同行し、サービス内容を指示します。
多くの場合、サ責がヘルパーと同行するのは1回のみですが、難しいサービス内容やヘルパーが同行を希望する場合は何回か同行することもあります。
訪問介護では、基本的に1対1でサービスを提供しなければいけないため、施設のようにほかの人から学ぶ機会は少ないです。そのため、同行の機会を活かして介護の知識やスキルを教えます。
事業所によっては、定期的にヘルパー研修会を開いて、教育しているところもあります。
そのほか、ケアマネや家族からの連絡事項を伝えたり、クレームが入ったときにはヘルパーに指導を行ったりします。
ヘルパー業務
調整できなかったサービスや、担当ヘルパーが休みのときに代理のヘルパーが見つからなかった場合は、サ責がヘルパーとして訪問し、介護サービスを提供します。
排泄介助や入浴介助といった身体介護や掃除や調理などの生活援助、事業所によっては自費サービスや通院介助なども行います。
ちなみに、初回のサービスでサ責が訪問すると介護報酬の「初回加算」を算定できるため、初回は、サ責がヘルパーに同行もしくは自身がサービス提供するケースがほとんどです。
サービス担当者会議に出席
利用者に対してサービスを提供する機関の担当者を集め、ケアプランの内容を検討する「サービス担当者会議」に訪問介護の代表として出席します。
ヘルパーから連絡を受けた利用者の状況などを話し、「変更したほうがいい点」や「現状維持すべき点」を伝えます。しかし、利用者の状況変化は、適宜ケアマネに連絡・相談するため、サービス担当者会議では、急変時やトラブル時にどう対応し、どの機関のどの人に連絡すれば良いかなどを確認するほうが重要でしょう。
ケアマネや他事業所などの関係各所と連絡・連携
先述したように、利用者の状態の変化や気になることなどをヘルパーから連絡を受けた際に、すぐにケアマネに連絡・報告します。状況に応じて、サービス回数の増減やサービス内容に関して提案することも必要になるでしょう。
このように、メインはケアマネとの連携になりますが、緊急時などは他事業所などの関係各所と連絡をとり、対応します。
利用者やその家族の相談対応
利用者やその家族が訪問介護について相談する人は、主に担当のサ責です。サービス内容だけでなく、日々のストレス・不安について相談を受けることもあるでしょう。サ責は、経験や知識を活かして、それらに対応する必要があります。
また、ヘルパーへのクレームや相性が合わなくて変えてほしいといった相談にも対応する必要があります。
アセスメント・モニタリングなどの事務作業
「アセスメントシート」と呼ばれる、利用者の基本情報や希望などを記載した書類や「モニタリングシート」と呼ばれる、利用者の状態や生活の変化などを記載した書類を作成する必要があります。
ほかにも、ヘルパーのサービス記録票をもとに実際にサービスが行われたかどうかを記録する「実績」業務など、多くの事務作業を行います。
以上が、主なサ責の仕事内容です。
ほかにも、緊急時の対応を行うなど多くの仕事をこなす必要があります。
さらに、厚生労働省『平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について』によると、利用者の口腔問題・服薬状況に関する気づきや、サービス提供時間がケアプランと乖離がある場合は、ケアマネへ報告することがサ責の責務として明確化されました。
必要な資格は?サ責になる方法
サ責になるには、下記の3つの要件のいずれかを満たす必要があります。
- 介護福祉士の資格保持者
- 実務者研修(旧介護職員基礎研修、旧ホームヘルパー1級)修了者
- 介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)修了及び、3年の実務経験を有する者
③の資格要件を満たす者がサービス提供責任者となった場合、報酬の減算対象となります。また、2019年度にはこの資格要件が完全廃止されるため、注意が必要です。
参考:介護のニュースサイトJOINT『ヘルパー2級のサ責、2019年度に完全廃止へ 来年度は経過措置 厚労省方針』
いくらもらえるの?サ責の給料
サ責の給料は、平成27年度の介護労働安定センターの資料によると月給平均は219,663円。
同資料では、訪問介護員(ホームヘルパー)の月給平均が191,751円のため、サ責のほうが27,912円高く、介護職員の月給平均が198,675円のため、サ責のほうが20,988円高いことがわかりました。
一方、同資料の生活相談員と比べると、月給平均が232,389円のため、サ責のほうが12,726円低いという結果でした。
参考:介護労働安定センター『平成27年度「介護労働実態調査」の結果』
配置の義務あり!サ責の配置基準とは
サ責は、指定訪問介護事業所において配置義務のある役割・職種です。
配置基準は、介護事業所の利用者40人につきひとり以上のサ責が必要となっています。
利用者数 | サ責数 |
---|---|
1~40人 | 1人 |
41~80人 | 2人 |
81~120人 | 3人 |
ただし、平成27年度の基準改正により要件をすべて満たした場合には、利用者50人につきひとり以上のサ責の配置が可能となりました。
その要件とは下記の通りです。
- 常勤のサ責を3名以上配置している
- サ責の業務に主として従事する者(※注1)を1人以上配置している
- サ責が行う業務が効率的に行われている場合(※注2)
※注1:「サ責の業務に主として従事する者」とは、サ責が所属する事業所のヘルパーとして行ったサービス提供時間が1月あたり30時間以内である者
※注2:「サ責が行う業務が効率的に行われている場合」とは、訪問介護計画の作成やヘルパーの調整等のサ責が行う業務の効率化や、IT等を活用して利用者情報を職員間で円滑に共有するための工夫が図られている場合
参考:厚生労働省『訪問介護におけるサービス提供責任者について』
大変だけど、魅力がいっぱい!サ責のやりがい
サ責は施設の介護職員とは異なり、直接的な介護業務以外の仕事も多く、さまざまな知識やスキル、臨機応変な対応力、判断力などが求められることもあるでしょう。
責任が大きさや業務量の多さなどから大変だと感じる場面も多いかもしれませんが、その分やりがいを感じられると思います。
たとえば、ヘルパーが働きやすいように工夫してコミュニケーションを図ったり、親身になって利用者・家族からの相談に応えたり、ひとりの利用者に対して、真剣に考えてケアマネに提案したり。ケアマネやヘルパー、利用者・家族など、多くの人と関わりながら、重要な仕事を行うため、頼りにされることも多いはず。
ケアマネに提案した内容が、その通り変更され、利用者の状態がよくなったときには、大きな喜びを感じられるでしょう。
決められたことをこなすのではなく、自分で考えて行動し、利用者・家族の力になれるやりがいのある仕事といえるのではないでしょうか。
サ責・ケアマネ・生活相談員との違い
ケアマネや生活相談員の仕事内容との違いについて、気になる人もいるでしょう。
その違いについて説明します。
利用者に対する全サービスを調整をするケアマネと、介護業務とヘルパー調整を行うサ責
居宅介護支援事業所に勤めるケアマネとサ責は似ている部分も多くあります。
利用者宅に訪問したり、在宅生活を支援するために適したサービスを調整したり、多くの書類を作成したりします。
そのケアマネとの大きな違いは、調整する対象です。ケアマネが調整するのはヘルパーではなく、福祉用具や訪問看護・訪問リハビリといった利用者に対して福祉サービスを提供するすべての機関です。また、ケアプランを作成するのもケアマネの大事な仕事。
そして、ケアマネは介護業務を行いません。行ったとしても介護報酬として算定できないため、ボランティアになってしまいます。
一方サ責は、ヘルパーの調整や教育・指導を行いつつ、介護(ヘルパー)業務も行うなど、介護現場の仕事も多いといえます。
利用者宅と事業所を行き来して働くサ責と施設で働く生活相談員
生活相談員も、サ責と似た業務を行う職種です。
サ責同様に、ケアマネや家族、関係各所と連携をとって窓口になったり、利用者の契約や退所の対応をしたり、サービス担当者会議に出席したりします。
また、介護職と兼務する相談員も多く、介護業務から完璧に離れるということは少ないでしょう。
その生活相談員との大きな違いは、働く場所です。
生活相談員は、特別養護老人ホームや有料老人ホーム、デイサービスなど介護施設の窓口として、働きます。そのため、いつも利用者の状況を把握することができます。
また、施設にもよりますが、利益率・稼働率の管理や市町村との連携を行うこともあります。
一方、サ責の職場は、利用者宅と訪問介護事業所です。移動の合間にケアマネやヘルパーに連絡することもあります。
また、訪問介護では、利用者宅に訪問しなければ利用者に会えません。休みが少ないヘルパーが担当する利用者とは会う機会が少ないため、ヘルパーとは密に連携を取る必要があります。