インタビュー

「『世話』と思っていない。犬も人間も同じ存在」保護犬と暮らす「わおん」の魅力、障がい者グループホームで働くやりがい

障がい者や高齢者が保護犬とともに暮らす、ペット共生型の福祉施設「わおん」
前回の記事では、その「わおん」について紹介しました。

保護犬と暮らせる!愛犬と働ける!ペット共生型の福祉施設「わおん」みなさんは「わおん」という施設をご存知ですか? 障がい者や高齢者が保護犬とともに暮らす、ペット共生型の福祉施設です。 ペットと一...

今回は、開発部長補佐二神龍也(ふたがみ たつや)さんサービス管理責任者村中征子(むらなか もとこ)さんに「わおん」と障がい者グループホームの魅力についてを伺いました!

給料は関係ない。働きたいと思える魅力がある「わおん」

___お二人はいつから「わおん」で働いているのでしょうか?

二神さん(以下、二神):僕は、「わおん」に入職してから5~6ヵ月目になります。その前は7年ほどITの商社で働いていました。

村中さん(以下、村中):私も去年の6月に入職したので、8~9ヵ月目です。
わおんに入る前は就労継続支援事業所のA型でサービス管理責任者を、その前は9年間ほど特別支援学級の支援員をしていました。合計すると、20年弱くらい障がい者支援のお仕事に携わっています。

二神:「わおん」の事業自体が2018年5月にスタートしたので、入職歴は浅いですが、僕らは初期メンバーですね。

___なるほど。どうして「わおん」に入職しようと思ったのでしょうか?

二神:僕の場合は、仕事のことでもやもやしていたときに、ケアペッツの代表の藤田と出会ったのがきっかけです。

もともと犬や動物が好きだったことから、高校の友達の紹介で動物好きの藤田と知り合いました。そこで「わおん」の話を聞いて「めっちゃ楽しそう!」と思って、転職を決めました。
当時働いていたIT商社の仕事も、絶対人の役に立つ仕事だと思うんですが、もっとダイレクトに何かの役に立っていることを感じたかったんですよね。

「わおん」は、殺処分から救った保護犬が障がい者に癒やしを与えられるので「めっちゃええやん」と思いました。
めちゃくちゃ事業に共感したので、給料も聞かずに大阪からすぐに引っ越してきましたね(笑)

村中:実は、私も給料を聞かずに決めました(笑)

私には「こたろう」という愛犬がいるのですが、もう15~16歳のおじいちゃん犬です。
毛がたくさん抜けたり、寝ている時間も多くなったりしていて、心配で「こたろう」ひとりを家に残しておけなくなりました。

そこで、「こたろう」と一緒にいられる職場を探してケアペッツがヒットしました。メッセージを送ったら、「東京にこたろうを連れておいでよ」って言ってもらえて、愛知から東京に来て、代表の藤田と話して、その日に転職を決めました。

「こたろうと一緒にいられる職場」が私の唯一の条件でしたので、それが叶って今は本当に幸せです。

「世話」と思っていない。犬も人間も同じ存在

___お二人とも、理想の職場に出会ったんですね! 「わおん」の特徴である保護犬とともに暮らすことのメリット・デメリットを教えてください。

二神:デメリット!?うーん、メリットは山ほどあるけど、デメリットってなんやろな?

村中:なにかあるかな?

___たとえば、犬の散歩やシャワーなどが負担になることはありませんか?

二神:負担って思ったことなくない?億劫とも思わないし、体調悪くて散歩に行けなかったとしたら、他のスタッフが「やるよ」って、フォローしてくれるんですよね。

___では、あんまりお世話も大変ではないですか?

村中:そもそも「世話」って思っていないです。犬だけど、カウントは「人」といっしょ!

二神:せやな。入居者のなかにも、この子らのことを「匹」っていうと怒る人もいます。「人」ってカウントしてって。

村中:スタッフのなかにも、この子たちをすごく大事にしている人がたくさんいます。
実際に、「わおん」で一緒に過ごしていた保護犬を「この子だったら引き取りたい」と言って引き取った元スタッフもいます。
引き取ってくれたら、また新たな保護犬を迎え入れられるので、いい循環になります。

つまり、みんなこの子たちのことを家族のように思っているから、全然負担に感じません

二神:そもそも動物の世話を負担に感じるような人は、ここには入職しないと思います。
たとえば、いろいろな事情で動物が飼えないけれど、なにかしら動物と触れ合いたいって思って、「わおん」で働きたいと言ってくれる人は多いですね。

全然デメリットの答えにならなくてすみません(笑)

保護犬だけでなく、スタッフ・入居者の愛犬も一緒に過ごせる「わおん」

▲愛犬の「ひかる」と一緒に「わおん」で生活する、入居者の石坂さん

___良い環境ですね! では、メリットはどうでしょう?

村中:私の場合は、「こたろう」と一緒にいられることです。

二神:それは大きいよな。
「わおん」は、保護犬だけでなく自分の愛犬と一緒に出勤できるので、結構愛犬を連れてくるスタッフが多いんですよ。
いつのまにか「わんわんランドか!」って思うくらい、犬だらけになってたり……(笑)

あとは、やっぱり犬を殺処分から救う手伝いができていると感じられます。いいことをしていると実感できるので、働く意義にもつながります。

___入居者さんから見たメリットはありますか?

二神:入居者の加藤さんは「運動になる」と言っていました(笑)

「わおん」では、スタッフだけでなく入居者さんもお散歩に行っているので、外に出る機会が増えていいですよね。
犬の散歩中に、地域の方と自然にコミュニケーションがとれたり、仲良くなったりできます。

▲「犬の散歩が運動になるよ」と話す、入居者の加藤さん

村中:ほかにも、精神的な安定につながったりもしますね。

二神:アニマルセラピー的なね。僕らも家に帰ってペットがいたら癒やされるじゃないですか。それと同じですね。

「癒やし」は、スタッフ・入居者さん共通のメリットだと思います。

___実際に、スタッフの方や入居者さんからはどんな声がありましたか?

二神:スタッフからは、「うれしい」「こんな職場あるんだ」と言ってもらえます。いくら探しても愛犬と一緒に通える職場は見つからなかった人は、「(見つかって)よかった」と言っていました。
ペットがいないスタッフからは「職場にわんこがずっといるなんてめったにないからいいよね」と、喜んでもらえています。

入居者さんからは、見学のときにこの子らを気に入ってくれて、「わおん」にいる子が決め手になって入居するケースもあります。

この子らは僕より仕事していると思います(笑)

村中:あと、「ひかるくん」のこともそうだよね。

「ひかるくん」は入居者の石坂さんの愛犬です。石坂さんは「ひかるくん」とアパートに住んでいたので、「ひかるくん」と一緒に入居できる施設を探していました
石坂さんの相談支援専門員の方から「ホームページを見たのですが、本当ですか? 犬と一緒でも大丈夫ですか?」と問い合わせがありました。
役所の方からは「「ひかるくん」を手放してほしい」と言われていたようですので、「わおん」のような、入居者さんのペットも一緒に同居できる施設があって、安心されたようです。

二神保護犬だけでなく、スタッフも入居者さんも愛犬を連れてこられる
めずらしいからこそ、ニーズがあると思います。

「わおん」は、動物好きが輝ける職場

___「わおん」は、どういう人が向いていると思いますか?

二神:やっぱり一番は動物好きの人ですね!
現在のスタッフは、僕たち含めて13名。そのうち10名はパートさんです。

みんな、動物好きです!

村中:「犬好きですか?」「お散歩できますか?」は、面接で必ず聞きます。
犬好きは大前提ですね。
それから、グループホームなので料理と掃除ができれば、さらにうれしいです。

___犬好きの方ばかりで、楽しく働けそうですね。

二神:楽しいです!
それだけでなく、スタッフのみなさんには、本当に助けてもらっています。お互いにフォローしながら仕事をしてくれて、思いやりの心が強いんです。
ほとんどのスタッフは福祉の経験はありませんが、保護犬と一緒にいるからか自然と優しくなれるみたいです。

やっぱり動物好きに悪い人はいませんね!

グループホームを行き来し、対応するサービス管理責任者

___次に「障がい者グループホーム」についてお聞きしたいと思います。まず、サービス管理責任者のお仕事内容に関して教えてください。

村中サービス管理責任者は、障がい者グループホームに配置義務のある職種です。
30人の入居者さんに対し、サービス管理責任者ひとりを配置する必要があります。
障がい者グループホームの「わおん」は現在6棟(今後も随時、開設を予定しています)開設しており、1棟の定員は3~4名。全員で23名ほどですので、6棟全ての入居者さんを担当しています。

二神:ちなみにスタッフは1棟につき常時2~3名、夜勤は2棟で1人、勤務しています。

村中:仕事内容は、サービス管理責任者というより「わおん」での私の仕事内容ですが、下記のような業務をしています。

  • 個別支援計画の作成
  • 相談支援専門員と連携をとる
  • 病院の付き添い
  • 障がい者手帳の変更手続きなど役所での手続きのサポート
  • おこづかい帳をつけるなどの金銭管理
  • 料理
  • 掃除

村中:全体の勤務時間は8時間ですが、それぞれのグループホームにいる時間はバラバラです。
基本的に私と二神は夜勤を行いませんが、入居者さんが不穏になっていたり、異変を感じたりすると、泊まることもあります。

サービス管理責任者とは_アイキャッチ
障害福祉サービスで活躍!サービス管理責任者(サビ管)とは?なり方・給料・サ責との違いを徹底解説障害福祉サービスのまとめ役「サービス管理責任者」。 利用者の個別支援計画の作成をしたり、他の職員への指導を行ったりするなど、サービス提...

目標達成時、入居者とともに喜びあえることがやりがい

___障がい者グループホームで働く魅力を教えてください。

村中目標を達成したとき、入居者さんと一緒に喜びあえることにやりがいを感じます。

障がい者支援は入浴介助や排せつ介助といった生活の支援がメインというより、自立に向かって目標を立てたうえで支援するので、人生のかじ取りのサポートもしています。

たとえば、自立するにはお金が必要ですよね。「お金を得る」という漠然とした大きな目標ではなく、まずは「携帯代を払えるようになる」といった現実可能な目標を見出してあげます。携帯代のために「お金は1日100円でもいいから貯めていこうね」など目標を達成するためにどう行動すべきかを伝えて支援します。

毎日頑張って行動して目標が達成できたとき、私も入居者さんも本当にうれしいんです。
それが、やりがいにつながります。

また、障がい者の方は不穏や不調などはありますが、命に関わるような突然の急変が起こることは少ない印象です。そのため、目標に向かって長く関わっていけることも、魅力のひとつに感じます。

二神:男性棟に入居している方の彼女が、今度できる「わおん」の女性棟に入居する予定なんです。
ここでお互い生活力を身につけたら「わおん」を出て同居することを目標にしています。

村中:同居するためには、金銭感覚や細かいお掃除の仕方、助け合う気持ちなどが必要ですよね。
私たちが支援することによって、これから生活するうえで必要なことが身についていってもらえればいいなと思います。

「おばちゃん力」のある人は障がい者グループホーム向き

___障がい者グループホームに向いている人は、どんな人だと思いますか?

二神:これは即答できます。ズバリ、村中のような「おばちゃん力」のある人です!

村中:なんか恥ずかしいですね……。

二神:「おばちゃん力」というのは、なんというかちょっとおっせかい、世話焼き的な感じですね。と言っても、「やってあげる」のとは違います

村中:「一緒にする」ですね。あくまでも主体者は入居者さん。相手が主体的に動けるようにサポートします。
たとえば掃除であれば、私はごみ袋をもって立って「ほら!ごみあるよ!」って声かけするだけ。

二神:めっちゃ声大きいんですよ(笑)

村中:そうね(笑) 。朝も大きな声で「おはよー!」と言って、相手が顔見て「おはよう」と言ってくれるまで言い続けます。しつこいんです、私(笑)

二神:そういうのがいいみたいで、みんなから頼りにされてますよね。
村中がリビングに行くと、みんな部屋から出てくるんですよ。
村中を囲って、話を聞いてもらおうとみんな一生懸命話しはじめます。

村中:「今日こういうことあったー」とか「デイケアで書いた習字見てー」とか言われて、「すごーい、2枚?もっと書いておいでよー」とか言ったりします。

___基本的にほめる姿勢なんですね。

村中:ほめますね。けれど、怒るときももちろんあります。
ごはん食べたあと食器片づけてない人がいたら「だれだ!?」って(笑)
でも、片づけていない理由があれば、手伝います。
理由がなければ手伝わないけれど、片づけを見守りますね。

二神小さなことも気づけたり、一緒にやってあげられたりする「おばちゃん力」のある人が障がい者グループホームにピッタリだと思いますね。

___「おばちゃん力」いいですね! 仕事を楽しんでいることが伝わります。

村中:仕事は本当にやりがいがあります。けれど、支援をしていくうえで、難しいと感じることも多々あります。

精神的な病気は、同じ病気だったとしても人によって症状はさまざま。答えが見えにくいから、試行錯誤しながら支援をしています。
予期せぬこともしばしばありますが、それもすべて受け入れています。
いろいろなことが起きますが、全部ひっくるめてやりがいにつながります

入居者さんにとって、ここは「家」です。入居者さんのなかには、実家を聞かれたときにここを伝えた人もいました。
すごく、うれしかったですね。
私もここを家のように大事に思っているからこそ、「そんな風に思ってくれていたんだ」と思いました。
だから、私はいつも「ただいま」って言ってここに帰ります。すると、みんな「おかえり」って言って迎えてくれるんです。

「わおん」は、保護犬や入居者さんに居場所を与えるだけではなく、私にとっても大切な居場所となっています。

編集後記

「わおん」の二神龍也さんと村中征子さんにお伺いしました。

二神さんは、福祉の経験は浅くても持ち前の明るさと努力で入居者さんからもスタッフからも信頼を得て、村中さんは経験豊富な支援でみんなを引っ張って、お互い協力しながら仕事をしていることが伝わりました。

お話に出てきたように、体調が悪いときは犬の散歩を代わるなどの職員同士の協力も魅力的な「わおん」。
「保護犬のため」「愛犬のため」など、同じ目的をもった人が集まることで、いい職場環境が生まれるのかもしれません。

もし仕事で迷っているのなら、今一度自分が「何のため」に働いているのか、見つめ直してみてはいかがでしょうか。

※この取材記事の内容は、2019年1月に行った取材に基づき作成しています。

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