インタビュー

「介護ってスルメみたい」介護課長が語る、介護への思い

東京都港区白金台にある特別養護老人ホーム「白金の森」。
これまでの記事では、白金の森の施設について、そして施設長である鈴木さんに特養の魅力や向いている人などを聞きました。

充実の研修制度や意欲的な取組みが魅力的~特別養護老人ホーム白金の森~東京の都心部を形成するオシャレな街、東京都港区。その港区白金台にあるのが社会福祉法人奉優会が運営する「港区立特別養護老人ホーム白金の森」...
「恵まれた環境のおかげ」マスコミ業界から施設長へ!現役施設長に聞いた、キャリアアップの理由と特養に向く人東京都港区白金台にある「港区立特別養護老人ホーム白金の森」。 前回の記事では、白金の森の施設や取組みについて紹介しました。 ht...

今回は、白金の森の介護課長・西川あずさ(にしかわ あずさ)さんに仕事内容や特別養護老人ホーム(以下、特養)を選んだ理由、課長としてのやりがいなどをお伺いしました。

特養で働いた経験がない人や特養で働いてみたい人は、ぜひご一読を!

北海道から上京し、介護課長に!東京だからこそ得られたキャリア

___西川さんの経歴を教えてください。

西川あずささん(以下、西川):高校卒業後、地元北海道にある有料老人ホームに就職しました。
4年間、その施設で経験を積み、介護福祉士を取得して上京。現在の法人である奉優会に転職しました。
はじめは、特養で現場スタッフとして働き、主任の経験を経て、2017年12月より課長として勤務しています。

___どうして上京しようと思ったのですか?

西川:身体が動くうちに、いろいろな場所で経験をしてみたいと思ったからです。
北海道にとどまらず東京のような大きな都市でも経験を積んでみたいと以前から思っていたこと、後悔したくないとの思いから上京しました。

___北海道の施設と東京の施設、なにか違いはありましたか?

西川:正直にいうと、東京よりも北海道や地方の介護施設のほうが介護スキルの高い職員が多いように思います。
そこには、地方の働き口が少ないという背景が影響していると感じています。
北海道で就職するなら「製造業」か「土木」か「介護」といった少ない選択肢から仕事を選ぶことが多く、さらにその業界のなかでも働く場所が限られています。

たとえば、介護業界を選んだ場合、介護施設の数は東京よりも圧倒的に少ないため、業界内で転職しづらくなります。そのため、北海道や地方では転職せずに同じ職場で働き続ける人が多く知識や経験が身につくので、自ずと介護スキルも高くなりやすいのかなと思います。

一方、東京は介護以外の求人も多いです。介護業界内で転職するとしても、介護施設が多く、どこも人材不足になりがちで転職しやすい環境にあると思います。
つまり、人材の定着がしづらく、介護スキルも定着しづらいという特徴があるのでしょう。

ただ、その東京のデメリットは、メリットにもなります。
人材の定着がしづらいというのは、裏を返せば、年齢・経験に関係なく「誰にでもキャリアアップのチャンスがある」ということなのです。

___キャリアアップのチャンスがある、ですか?

西川:はい。私はまだ20代ですが、課長という役職を任せてもらっています。
きっと北海道にいたら、私は現在もイチ介護スタッフのままだったでしょう。
北海道や地方は、介護スキルの質も人材の定着率も高いゆえに、上のポジションが空きづらいのです。
いくら知識や経験があったとしても、上の人がいる限りキャリアを積むことは難しくなります。

その点、東京では人の動きも施設数も多いため、たくさんの人にチャンスが回ってきやすいと思います。特に奉優会は法人としても急成長中。多くの人にキャリアアップができるよう、新規施設のオープンに伴い、新しい役職がつくられるのです。

私の場合、北海道とのギャップに驚きつつも、その現状を自分なりに受け止め、自分にできることをがむしゃらにやってきた結果、早期にキャリアを積むことができました。
役職についたことで、マネジメントや経営といった介護以外の知識・スキルも学べ、総合的に自分を成長させることができたので、上京してよかったと思います。

早い段階でキャリアを積みたいと考えている人にとって、東京は最適な環境だと思います。
特に、奉優会のようないろいろな事業・多くの施設を展開している法人は、さまざまな経験が積めるため、おすすめですね。

人が足りないときは現場をフォロー!課長の仕事内容と介護職員の1日の流れ

___介護課長である西川さんのお仕事内容を教えてください。

西川:課長としては、主に以下の業務を行っています。

課長の業務内容
  • 職員用の契約書の作成や採用面接
  • 勤怠管理
  • 職員育成
  • 職員管理
  • ご家族の対応(実際に対応するのは相談員なので、現場に確認し、状況を整理する役割)
  • 他の施設の課長との会議

役職についてからは、大きな視野で現場や施設のことなどを考えられるようになりました。
課長はあくまでフォロー役なので、職員にはあえて答えを言わないようにしています。選択肢のひとつを提供し本人が考えるように、あまり口出ししないように意識しています。

その他、人材不足のときには現場にも入ります。
早番、日勤、遅番、夜勤、どの業務も対応します。

通常の介護の1日の流れは、下記の通りです。

介護業務の内容(1日の流れ)

07:00  整容・排泄ケア・食堂への誘導
08:00  朝食(~9:30)
09:00  申し送り
09:00  排泄ケア・入浴ケア(午前浴)
10:00  水分補給・ラジオ体操
11:00  トイレ声掛け
12:00  昼食(~13:30)
13:30  排泄ケア・入浴ケア(午後浴)
14:00  整容(爪切り等)・リハビリ・レクリエーション
15:00  おやつ・水分補給
16:00  排泄ケア
17:00  記録業務
18:00  夕食(~19:30)
19:00  就寝ケア
20:30  眠前服薬ケア・水分補給
21:00  巡回
22:00  巡回
23:00  排泄ケア等
00:00  巡回(1時間おきに巡回)
※随時、その方の状態、要望に合わせ、排泄ケア等実施
05:00  排泄ケア等
06:00  起床介助
※体位交換は、日中・夜間ともに原則2時間おきに行う

【5タイプのシフトを交代で行う】

  1. 07:00~16:00
  2. 08:00~17:00
  3. 12:00~21:00
  4. 13:00~22:00
  5. 22:00~翌07:30 
    ※夜勤は短い準夜勤を採用し、身体的・精神的な負担を軽減

実働時間:8時間(休憩60~90分)

動けるうちは全力で働きたい、そのために特養を選んだ

___西川さんは、奉優会に就職した当初から特養を希望していたのですか?

西川:はい、特養で働きたいと思っていました。

___どうして特養を選んだのでしょうか?

西川:私の性格に合っていると思ったからです。
特養は、平均要介護度が高くご利用者数も多いので、身体を思いっきり動かしながら全力で働くという印象がありました。
ゆっくりな雰囲気でじっくり考えながら働く施設よりも、がむしゃらに働く特養のほうが、私の性分に合っていると思ったことが大きいです。
それから、料理が苦手なのでグループホームは難しいかなと(笑)

経験値もまだまだ足りないので、20代の身体が動くうちに、バリバリ働きたいと思っています。そして、経験も年も重ね身体が動かなくなってきたら、介護支援専門員などデスク業務も行う職へと転換するのもいいのかなと考えています。

つまり、私の性格と今の私に必要なことを考えた結果、特養を選んだ、ということですね。

___実際に特養で働いてみてどうですか?

西川:想像通り。全力で働けるので、自分に合っていると思います。
身体介護を行うことや「ありがとう」と言われることでやりがいを感じられるので、日々楽しく働けています。
これは特養というより奉優会の特色になると思うのですが、風通しが良く、人間関係の悩みがなかったことに驚きました。

もちろん、仕事なので注意したりされたりはあります。
そのことに対して、愚痴を言うこともあると思いますが、陰でコソコソと悪口を言ったり、いじわるに発展したりすることはありません。

身体介護などの身体的負担はありますが、奉優会は人間関係の悩みがないので精神的な負担がなく、ありがたかったです。

介護の基礎が身につく!新人介護士に最も適した環境である特養

___特養のメリット・デメリットをあげるとしたら、どんなところだと思いますか?

西川:そうですね。デメリットは、やっぱり「体力が必要」な点です。
とくに従来型の特養では、ご利用者数も多く平均要介護度も高いため、業務内容は、ザ・身体介護になります。
「声かけ」や「見守り」というより、おもいっきり身体を使った介護を行うため、身体的負担は大きいです。

ただ、特養のご利用者のほとんどは、自分が入所したことを受容できている人が多かったので、暴言・暴力は少ないように思います。
今は、介護職の悩みがちな職員同士の人間関係ご利用者からの暴言・暴力がなく、精神的にとても快適な環境で仕事ができています。

___なるほど。他に特養のメリットはありますか?

西川:特養の一番のメリットは、「介護の基礎である身体介護スキルが身につく」点だと思います。
身体介護が多いので、自然と介護スキルが身につきます。

最初は「身体介護スキル」よりも「コミュニケーション力や認知症ケア」などの接し方を学ぶべきという人もいますが、私は身体介護スキルを先に身につけたほうがいいと考えます。

たとえば、あまり身体介護を提供しない環境で経験を積んだ場合、転職して身体介護が必要になったときに、新人ではないのに介助が「できない」「わからない」といった現状に陥ります。
経験はあるため、プライドが邪魔して自分より経験の浅い人などに教えを求めにくくなるかもしれません。もしくは、周囲から「あの人は経験があるからわかっているはず」と思われて、教育の機会を失うかもしれません。
どちらにしろ、やりづらい環境になってしまうと思います。

だからこそ、最初に基礎である介護スキルを身につけたほうがいいと考えます。その基礎を学ぶ場として最適なのが、特養です。
とくに従来型の特養だと、優先順位のつけ方や効率化も学べます。ユニット型とは違い、みんなで大勢のご利用者の対応をするため、他職員からのフォローも受けやすいです。

つまり、新人介護士にとって一番いい環境といえるのではないでしょうか。

たとえば職員が特養に向いていないと思っていたとしても、基礎を学んだあとに次のところへ羽ばたいていく方法もあります。
介護業界には、さまざまな施設形態や職種があります。
介護職のなかでも、認知症ケアに向いている人や大規模施設の介護に向いている人など、人によって向いていることが異なります。未経験で自分の向き不向きは分からないでしょうから、まずは特養で基礎を学びながら、自分の特性に合う場所を見極めていけばいいのではないでしょうか。

そして、結果的に、自分に一番合った介護の仕事で活躍してもらえたら嬉しいです。

「介護バカ」を増やして、いい環境をつくりたい

___現在、課長として活躍されていますが、今のやりがいはどんなことですか?

西川:言い方が悪いかもしれませんが、「介護バカ」をたくさんつくることです(笑)
介護って、ネガティブなイメージが浸透しており、好きでやっている人は少ないと思いがちですが、なかには本当に介護が好きでやっている人もいます。
そして、私もそのひとりで、介護が大好きです。

そういう「介護が好き」な人たちがつぶれないために、教育やフォローなどの私にできることをしています

___「介護バカ」とは、斬新な言葉ですね!具体的にはどのようなことをしているのでしょうか?

西川:たとえば新人職員の場合、まだ自分の思いが確立していなかったり、言葉にできなかったりしますよね。そういう状態だと、自信が持てなかったり、何が正解かわからなくて迷ったりしてしまいます。
そこで、面談時に「こういう風に思っているんだよね」と新人職員の思いを言葉にしてあげたり、アドバイスして言葉にできるように促したりしています。
そして、その新人職員の考えに対して「素晴らしいね」と認めます。
認められることで、「自分のやっていることはいいことなんだ」「介護って楽しい」という思いが芽生えるのだと思います。

そうやって、「介護っていいな」と思えるきっかけを作ることが自身の存在意義だと思っています。

「介護バカ」って、ご利用者のことが大好きなんですよね。
だから、ご利用者にも働く職員にもいい影響を与えます。
そんな「介護バカ」をもっと増やしたい。そして「介護バカ」が幸せになれるように、がんばりたいです。

それが、今の私のやりがいですね。

___さいごに、全国の介護職員へメッセージをお願いします。

西川:最近よく、介護の仕事って「スルメ」みたいだなと感じています。
噛めば噛むほど味が出てくるし、別のスルメを食べるとまた味も違う。すごく奥が深い仕事です。
特養や有料老人ホーム、訪問介護、デイサービスといった施設形態の違い、相談業務や事務、マネジメントといった業務の違いなど、介護といってもその内容は多岐にわたります。
私は10年介護の仕事をしていますが、まだほんの一部しか知らないと思います。

だから、何度も噛んで味わったり、新しいスルメを噛んで楽しんだりして、もっともっと介護を味わい尽くしたいです。

介護で悩むことがあったら、ぜひいろんなスルメを噛んでみてはいかがでしょうか。
きっと、違う味を発見できると思います。

そして、ここからは介護職員というより全国の方に向けてお伝えしたいことがあります。
それは、「どんなカタチであれ介護を見て、触れて、受け入れてほしい」ということ。

人生において、介護は絶対に関わるものです。
仕事にしなくても、親や家族、そして自分へと、必ず訪れるものです。
いわば、「人生の一部」なのです。
だから、目をそらさずきちんと見てほしい。介護を大事に思って、関わってほしい。
ちゃんと受け入れてほしい。

それができれば、日本の介護はもっと幸せなものになるのではないでしょうか。

介護職だけでなく、すべての人が積極的に介護に関わることで、さまざまな道が開けるように思います。
ぜひ、みんなで介護をいいものにしていきましょう!

編集後記

22歳のときに、遠く離れた北海道から上京した西川さん。
地元北海道とのギャップを感じつつも、現状を受け入れ、嘆くことなく自分にできることを地道に行った結果、介護課長というキャリアを得ることができたのだと感じました。

現状を悲観したり、受け身で仕事をしていたりすると、前には進めないのかもしれません。
介護に対する自分の思いをしっかり持って、思いを行動に移す。
もし壁にぶつかっていたとしたら、西川さんのようなポジティブで建設的な言動が打開につながるのではないでしょうか。

それでも難しければ、スルメの味を変えるように、現在の環境を変えてみてもいいかもしれません。

※この取材記事の内容は、2018年12月に行った取材に基づき作成しています。

ABOUT ME
介護のお仕事研究所(care)
介護職やケアマネなどの介護業界専門の求人情報サイト「ケア求人ナビ」です。「介護のお仕事研究所」は、現場で働く介護職のためのメディアとして運営しています。お役立ち情報や最新の求人情報は各SNSでも最新情報を受け取れます!