インタビュー

小学校の跡地を活用!利用者と地域住民の架け橋となる看護小規模多機能型居宅介護 杜松倶楽部の魅力

2012年よりサービスがはじまった、看護小規模多機能型居宅介護
看護小規模多機能型居宅介護の事業所数は、平成29年3月時点で357ヵ所とまだまだ少ない施設形態です。事業所数が少なければ、情報量も少なく、介護職の方でも実際の現場を知らない人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、看護小規模多機能型居宅介護を取材しました。

取材したのは、東京都の品川区立杜松地域密着型多機能ホームのなかにある「杜松倶楽部」。
小学校の跡地を活用した杜松倶楽部は、多くの子どもや地域住民と交流し、いつもにぎわっています。

この記事では、看護小規模多機能型居宅介護「杜松倶楽部」について、所長の田村順子(たむら じゅんこ)さんにお話を伺いました。

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通い・宿泊・訪問介護・訪問看護の4サービスを提供!看護小規模多機能型居宅介護とは

まずはじめに看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)について説明します。

看護小規模多機能型居宅介護とは、施設への「通い」を中心として、短期間の「宿泊」介護士による利用者宅への「訪問介護」看護師による「訪問看護」のサービスが受けられる複合型サービスです。
つまり、小規模多機能型居宅介護に「訪問看護」がプラスされたサービスです。
自宅で生活しながら地域と交流しつつ、介護と看護の一体的なサービスを受けられます。
通称、「看多機(かんたき)」と略されます。

看護小規模多機能型居宅介護は、2012年の法改正で地域密着型サービスの「複合型サービス」という名称で誕生しました。その後、2015年度の介護報酬改定で現在の「看護小規模多機能型居宅介護」へと名称が変更されています。

看護小規模多機能型居宅介護の特徴
  • 要介護1~5の方が対象(要支援の方は利用できません)
  • 費用は月々一律の定額料金
  • 登録できる利用人数は29名まで
  • 医療的ケアが必要な人が地域交流を続けながら、在宅生活ができる
  • 個々の事業所と契約する必要がないので、契約の手間が少ない
  • 通い・訪問・宿泊サービスを共通の職員が提供するため、人見知りな人でも安心してさまざまなサービスを利用できる
  • 事業所が同じなので介護・看護と業種が違っても情報共有しやすい
小規模多機能にプラスα?カンタキこと「看護小規模多機能型居宅介護」を徹底解剖!「看護小規模多機能型居宅介護」というとんでもなく長い名前のサービスは一体何をしてくれるんだろう。 今回は前回の小規模多機能型居宅介護の...

小学校の跡地を活用し、地域住民や子どもたちと交流

▲杜松ホームには、看多機の杜松倶楽部のほか、特別養護老人ホームやグループホームなど多くの施設が併設している

ここからは、施設内をまわりながら、杜松倶楽部のお話を伺いしました。

___杜松倶楽部の概要を教えてください。

田村順子さん(以下、田村):2014年12月、133年の歴史ある杜松小学校の跡地にできた高齢者福祉施設(品川区立杜松ホーム)の中のひとつとして、杜松倶楽部は誕生しました。

▲杜松倶楽部があるのは1階の一画。同階にグループホーム、2・3階に特別養護老人ホームが併設されている

実は、開設当初は、小規模多機能型居宅介護(以下、小多機)としてスタートを切りましたが、高齢者の在宅生活を維持していくためには医療との連携やケアが必要と分かりました。
そのため、スタートから約1年後の2015年11月に、医療的ケアにも対応できる看護小規模多機能型居宅介護(以下、看多機)として再スタートします。

小多機から発展した看多機なので、地域に密着した利用者の生活サポートを得意としています。

___地域の方との交流が多いということでしょうか。

田村:はい。杜松倶楽部がある杜松ホームは、小学校の跡地を利用しているため、グラウンドや体育館もそのまま残っています。

そのグラウンドや体育館は、地域の方に開放しているので、予約をすれば自由に利用することができます。
おかげで、休日に利用する地域の人や放課後に利用する子どもたちとの関わりが生まれています。

▲杜松ホームの体育館。取材日も地元のバレーチームが利用していた
▲杜松ホームのグラウンド。放課後や休日は多くの人が利用している

毎年あるお祭りのときには、お神輿が休憩する場所としてグラウンドを利用してもらっています。
杜松倶楽部の利用者さんのなかには、お祭りが大好きな人がいます。自前のハッピを着たその利用者さんは、地域の方の協力のもと、お神輿を担がせてもらいました!

▲お神輿を担いだ利用者さん。素敵な笑顔から、充実した様子が伺える

さらに、保育園や幼稚園の運動会の会場としても活用してもらっています。
利用者さんたちは、窓から運動会の様子を見たり、ベランダから中に入ってきた子どもたちと話したりして、関わりを楽しんでいます。

そのほか、地域の方が主催するもちつきなどのイベントも行われ、多くの方々と交流することができます。
地域のイベントに直接参加する・しないに関わらず、地域のイベントが身近で見られて、体感できることは、地域の一員として社会とつながっている感覚になれると思います。

___杜松倶楽部の利用者さんにとって、刺激になりそうですね。

田村:そうですね。介護サービスなどを何も利用せず、静かに自宅で生活している人がいきなり地域のイベントに参加するのって、ハードルが高いと思うんです。
杜松倶楽部の利用者さんは、在宅生活をしつつここに通うので、地域の人との交流が増えて、気にかけてもらえたり、誘ったりしてもらえます。杜松倶楽部に通ったついでに地域イベントに参加する、なんてこともできます。
杜松倶楽部を利用することで、地域イベントに参加しやすい環境を提供できているのではないでしょうか。

生きる喜びを感じてもらう、そのためのサービスを提供

___杜松倶楽部がとくに力を入れているケアはありますか?

田村:認知症ケアや看取りなど、多くのケアに力を入れていますが、なかでも「機能訓練」と「口腔ケア」に力を入れています。

「いつまでも自分の足で歩き、元気になる」ことを目的とした機能訓練は、看護師がメインで行っています。
ただ歩くだけのリハビリだとつまらないですよね。そこで、「自分で歩いて、○○(行きたいところ)に行く」など、利用者さん一人ひとりの趣味や興味にもとづいた「目標」を立てて、がんばってもらっています。
さらに、6か月ごとに「体力測定評価」を行い、利用者さんの意欲向上につなげています。

口腔ケアは、「誤嚥性肺炎の予防や嚥下機能の向上、食べる楽しみの向上」などを目的として行っています。
口腔ケアも機能訓練同様に、口腔内をきれいにするためではなく、「〇〇(好きなもの)をおいしく食べる」などの食べる喜びを味わうことを目標としています。
そうすることによって、最初は「いいよいいよ、やらなくて」と言っていた人が、自分で歯間ブラシを使って口腔ケアするまでになりました。

おいしく食事ができるというのは、生きる力にもなります。
先日は、「おばんざいを楽しむ会」というバイキング形式のお食事イベントを行いました。
普段は、積極的に動かない利用者さんが、好きな食事を選ぶために、率先して動いていたのが印象的でしたね。
このように、機能訓練や口腔ケアなどの普段の活動が、生きる喜びへとつながるようなイベントを提供できるよう努めています。

▲「おばんざいを楽しむ会」の様子。みなさん楽しそうに好きな食事を選んでいる

___利用者さんがいきいきと輝けるサービスですね。

田村:そうですね。サービスも環境も、利用者さんにとっていいものを提供していきたいです。

地域との交流も、イベントに参加して楽しむ以外に、昔を思い出せるというメリットもあります。みなさん、自分の子ども・子育て時代などのことを思い出すそうです。
そもそも、小学校の跡地を活用しているので、いたるところで小学生時代の記憶がよみがえりやすい環境にあります。
そうやって、記憶に刺激を与えるような環境は、脳にも良い影響があるのではないでしょうか。

利用者さんには、少しでもいい環境で病状や体調を改善し、在宅生活を維持してほしい。
そのために私たちは何をすべきかを常に考え、行動していきたいと思います。

▲笑顔の利用者さんと田村所長。利用者さんとの信頼関係は、田村所長の熱い思いがあるからこそと感じられる

編集後記

社会福祉法人若竹大寿会が運営する看護小規模多機能型居宅介護 杜松倶楽部について紹介しました。
小学校の跡地という利点活用し、地域の多くの方と交流しているというのは、新しい施設の在り方だと感じました。施設を高齢者だけの空間にするのではなく、さまざまな人が交流できる場にする。
多くの介護施設が、このようなオープンな場所になっていくと、利用する人も働く人もさらに楽しく過ごせるのではないかと感じます。
杜松倶楽部・杜松ホームは見学者を歓迎しています。気になる方はぜひ見学しに行ってみてはいかがでしょうか。
杜松倶楽部のホームページはこちら

介護のお仕事研究所は、所長の田村さんと介護リーダーの福田さんに、看多機「杜松倶楽部」について、さらに詳しく伺いました。記事を通して、介護職のみなさんに看多機の実情を知ってもらい、新たな働き方のひとつとして選択肢が増えればうれしく思います。

次回の記事では、田村さんに伺った、所長としての考えや看多機の魅力などを紹介します。ぜひ、お楽しみに!

※この取材記事の内容は、2018年11月に行った取材に基づき作成しています。

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