精神保健福祉士とは、介護福祉士・社会福祉士と並んで「福祉の三大国家資格」と称される資格のうちのひとつです。
精神保健福祉士の資格を取得すると、精神保健福祉領域のソーシャルワーカーとして、心に病を抱える人の支援に関する専門的な知識・技術を持った人と認められます。
この記事では、「精神保健福祉士」の受験資格や試験の詳細、活躍の場などの情報を解説します。
目次
精神保健福祉士とは
精神保健福祉士とは、精神保健福祉領域において相談援助を行う人のこと。
医療施設や社会復帰を目指すための訓練施設などにおいて、精神障がい者を対象に、相談対応およびそれに対する助言や指導、日常生活に適応するために必要な訓練、そのほかの援助を行う専門職です。
「精神保健福祉士法」によって1997年に定められた国家資格であり、精神科ソーシャルワーカー(PSW:Psychiatric Social Worker)とも呼ばれています。
「精神保健福祉法」に改正された1995年以降、精神障がい者の社会復帰を促進する役割を担う精神保健福祉士の重要性は、社会にも広く認識されるようになりました。
近年、精神障害を抱える人が増えている!
内閣府が発表している平成30年版 障害者白書によると、国内の精神障がい者の数は392万4千人。
平成25年版の障害者白書では約320万人とされていたことから、この5年間だけで精神障がい者が70万人以上増えたことがわかります。
近年、我が国では精神に障害を抱える人が増加の一途を辿っています。
ストレスとの付き合い方が問われる中、国民の精神保健の保持する役目を負う精神保健福祉士の社会的ニーズも比例して高まっているようです。
精神保健福祉士は「名称独占」の国家資格
国家資格には、医師や弁護士のように資格がないとその業務ができない「業務独占」と、資格を持っている人だけが名乗れる「名称独占」の2種類があります。
精神保健福祉士は、介護福祉士や社会福祉士と同じ「名称独占」の資格です。精神保健福祉士を名乗って業務をするためには国家資格が必要ですが、資格がなくても同じ業務を行えるケースがあります。
とはいえ、精神保健福祉士の資格を取得していることは、精神科における相談業務に必要な専門知識が十分にあることの証明になります。
採用や給与面で有利に働くことも多いので、チャレンジのしがいは十分にあると言えるでしょう。
どうすれば精神保健福祉士になれる?
精神保健福祉士の資格を取得するには、定められた受験資格を満たしたうえで国家試験を受け、合格後に公益財団法人社会福祉振興・試験センターへ登録申請する必要があります。
申請に期限はありませんが、国家試験に合格していても登録をしなければ、精神保健福祉士の名称を使用して活動することはできません。
試験の開催時期・場所、受験料は?
精神保健福祉士国家試験は、年に1回、2月の土日に2日間に分けて行われます。
試験地となるのは以下の7都道府県。1つの試験地に受験者が集中した場合には、他の試験地への振り替えられる場合があります。
- 北海道
- 宮城県
- 東京都
- 愛知県
- 大阪府
- 広島県
- 福岡県
なお、受験申込書の受付期間は9月上旬から10月上旬までの1ヵ月間です。その間に受験の手引をホームページまたは郵便はがきで請求し、期間中に郵送で申し込みます。
受験料の払い込みも、期間中に行う必要があります。
受験手数料は17,610円ですが、社会福祉士の資格をすでに持っていて一部試験が免除される場合は、14,080円に下がります。
受験申込の際に別途書類を提出する必要があるので、忘れないように注意しましょう。
精神保健福祉士の受験資格を得る「5つのルート」
精神保健福祉士試験の受験資格を得るためのルートは全部で11種類。
ここではよりわかりやすくするため、多くの人に当てはまる5つのルートに絞って解説します。
ルート①:保健福祉系の大学・短大等で「指定科目」を履修している場合
ルート①は、保健福祉系の大学・短大等で「指定科目」を履修して卒業しているパターン。
4年制大学であれば卒業後にすぐ受験資格を得られますが、短大の場合は相談援助実務を経験する必要があります。
- 4年制大学:実務の必要なし
- 3年制短大:要1年の相談援助実務
- 2年制短大:要2年の相談援助実務
指定科目の詳細はこちら
いずれにしても、保健福祉系大学・短大卒業生の場合は養成施設に通う必要がありません。
ルート②:福祉系の大学・短大等で「基礎科目」を履修している場合
ルート②は、福祉系の大学・短大等で「基礎科目」を履修して卒業しているパターン。
この場合、4年制大学であれば、さらに短期養成施設等に6か月以上通って卒業することで受験資格を得られます。
短大の場合は卒業後に相談援助実務を経験したうえで、さらに短期養成施設等に通って卒業する必要があります。
- 4年制大学:実務の必要なし+6か月以上の短期養成施設等を卒業
- 3年制短大:要1年の相談援助実務+6か月以上の短期養成施設等を卒業
- 2年制短大:要2年の相談援助実務+6か月以上の短期養成施設等を卒業
ルート③:社会福祉士の資格を持っている場合
ルート③は、社会福祉士の資格を保持しているパターン。
社会福祉士の登録をしている人であれば、6か月以上の短期養成施設等に6か月以上通って卒業するだけで受験資格が得られます。
ルート④:一般の大学・短大等を卒業している場合
ルート④は、保健福祉系ではない一般の大学・短大等を卒業した人のパターン。
4年制大学であれば、卒業後に一般養成施設等に1年以上通って卒業することで受験資格を得られます。
短大の場合は卒業後に相談援助実務を経験したうえで、さらに一般養成施設等に通って卒業する必要があります。
- 4年制大学:実務の必要なし+1年以上の一般養成施設等を卒業
- 3年制短大:要1年の相談援助実務+1年以上の一般養成施設等を卒業
- 2年制短大:要2年の相談援助実務+1年以上の一般養成施設等を卒業
一般養成施設の詳細はこちら
ルート⑤:相談援助実務を4年間経験している場合
ルート⑤は、すでに社会人として相談援助実務を4年間経験しているパターン。
この場合、4年の実務経験の後に一般養成施設等に1年以上通って卒業することで受験資格を得られます。
相談援助実務の詳細はこちら
くわしく解説!精神保健福祉士の試験内容
精神保健福祉士国家試験は全17科目、合計163問(共通科目の免除者は80問)が出題される筆記試験。
5つの選択肢を基本とするマークシート形式で実施されます。
合格の条件は「全体で6割以上の正答率であること」かつ「17科目すべてで得点していること」です。
出題数が多いので、しっかり対策していきましょう。
試験科目は全17科目とかなり多め
試験は筆記のみで、下記の全17科目から出題されます。
- 精神疾患とその治療
- 精神保健の課題と支援
- 精神保健福祉相談援助の基盤
- 精神保健福祉の理論と相談援助の展開
- 精神保健福祉に関する制度とサービス
- 精神障害者の生活支援システム
- 人体の構造と機能及び疾病
- 心理学理論と心理的支援
- 社会理論と社会システム
- 現代社会と福祉
- 地域福祉の理論と方法
- 福祉行財政と福祉計画
- 社会保障
- 障害者に対する支援と障害者自立支援制度
- 低所得者に対する支援と生活保護制度
- 保健医療サービス
- 権利擁護と成年後見制度
このうち、⑦~⑰は社会福祉士国家試験と共通の科目。そのため社会福祉士の登録をしている方は、重複する分の試験が免除されます。
合格基準は2つの条件を満たすこと
合格の条件は2つ。
ひとつは合格基準点以上の得点を取得していること。
合格基準点は、総得点の60%を基準として、問題の難易度で補正して決められます。
試験の配点は1問1点の163点満点。社会福祉士の国家試験に合格して資格を所有している人は、80問の80点満点です。
もうひとつは、合格基準点を満たした人のうち、出題科目の全てに得点があること。
ただし「⑤精神保健福祉に関する制度とサービス」「⑥精神障害者の生活支援システム」はひとつの科目としてみなされます。
精神保健福祉士試験の合格率は?
直近に行われた第20回精神保健福祉士国家試験の結果は、以下の通りでした。
第20回精神保健福祉士試験の結果 | |
---|---|
受験者数 | 6,992名 |
合格者数 | 4,399名 |
合格率 | 62.9% |
出典:厚生労働省
合格者の61.4%にあたる2,702名が養成施設の卒業者、38.6%にあたる1,697名が保健福祉系大学などの卒業者です。
なお、過去5回の合格率は、以下の通りです。
過去5回の合格率 | |
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第20回 | 62.9% |
第19回 | 62.0% |
第18回 | 61.6% |
第17回 | 61.3% |
第16回 | 58.3% |
出典:厚生労働省
合格率が平均して30%前後になる社会福祉士と比べると、精神保健福祉士は比較的高い合格率であることが分かります。
試験合格後は登録を忘れずに
精神保健福祉士として活動するためには、国家試験に合格後、公益財団法人社会福祉振興・試験センターへの登録が必要です。
以下のものをまとめて、公益財団法人社会福祉振興・試験センターに簡易書留で送ります。
- 登録申請の必要書類(合格証書に同封されている)
- 登録手数料(4050円)を振り込んだ証書
- 登録免許税(15,000円)分の収入印紙
など
書類が受理された後に審査が行われ、問題がなければ登録簿に登録されます。
登録証が届くまでの期間はおよそ1ヵ月程度です。特に合格発表直後の3月から5月は登録が集中するため、1ヵ月半程度かかることを念頭に置いておきましょう。
どんなところで働ける? 精神保健福祉士の活躍の場
精神障害者本人やその家族を援助し、日常生活の質を向上させ、社会復帰を目指す精神保健福祉士。
活躍の場は大きく分けて医療機関・行政機関・生活支援施設の3つ。求められる仕事内容も、それぞれの職場で異なります。
医療機関 | |
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主な職場 | 精神科専門の病院やクリニック、総合病院の精神科、医療機関に併設されたデイケアなど |
仕事内容 | 主治医や看護師、作業療法士、臨床心理士などの多職種と連携するチーム医療の一員として、入退院の援助から退院後に社会生活へ移行する支援などを行う |
行政機関 | |
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主な職場 | 自治体の福祉行政機関や保健所、福祉事務所、精神保健福祉センター、ハローワークなど |
仕事内容 | 精神保健福祉領域での相談援助の専門職として、関係機関とのネットワーク作りのコーディネート、就労支援、地域移行支援活動、地域住民への普及啓発活動などの実施や調整を行う |
生活支援施設 | |
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主な職場 | 精神障害者福祉ホームや就労継続支援事業などの精神障害者の生活支援施設、地域生活を営んでいくための支援を目的とする相談支援事業所や地域活動支援センターなど |
仕事内容 | 就職支援、家事などの日常生活支援、地域生活支援など、各施設の目的に応じて支援や各種サービスを提供する |
需要が高まっている資格だからこそ、取得後の活躍の場は多いに広がっているといえます。
「社会福祉士」とは何が違うの?
精神保健福祉士と同じく相談援助を行う国家資格には「社会福祉士」と呼ばれるものがあります。
どちらもソーシャルワーカーであり、資格取得試験では共通の科目があるなど、似ている点が多い資格です。
そんな社会福祉士と精神保健福祉士の大きな違いは、ずばり支援する対象者です。
支援対象者 | |
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社会福祉士 | 高齢者、障がい者、子ども、低所得者etc さまざまな理由でハンディキャップを抱える人やその家族 |
精神保健福祉士 | 総合失調症、高次脳機能障害、うつ病、薬物・アルコール依存症、発達障害ほか 精神疾患を持つ人やその家族 |
編集者より
わが国では昨今、ストレス社会によって精神に障害を抱えてしまう人がどんどん増えています。
そういった人々の問題解決のために助言を行ったり、各種機関への連携を図ったりする精神保健福祉士の存在は、これからますます必要とされていくことでしょう。
苦しんでいる人の環境を少しでも改善することは、責任重大な仕事である分、やりがいに満ちているとも言えます。
相談援助業務に興味のある方は、ぜひ取得を検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献・サイト
- 厚生労働省精神保健福祉士について
- 公益社団法人日本保健福祉士協会
- 公益財団法人 社会福祉振興・試験センター精神保健福祉士国家試験