介護の知識

【名医に聞く!】老人性うつの主な3つの治療法から介護職ができる対策まで徹底解説!

子どもから高齢者までさまざまな年代の人がかかるうつ病。なかでも、高齢者がかかるうつ病のことを「老人性うつ(老年期うつ)」と呼びます。
自殺者の約4割はうつ病を発症しているとみられているため、うつ病と自殺は密接な関係があります。
そして、自殺者の約4割が60歳以上の高齢者。
高齢者の方を守るためにも、うつ病の適切な治療法や自殺を予防する知識は重要といえます。

多くの高齢者と関わる介護職なら知っておきたい、老人性うつの治療法や自殺の予防についてなど、長谷川診療所 院長の長谷川洋先生に解説してもらいました!

老人性うつの症状や特徴、原因、認知症との違いなどの基礎知識を知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。

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長谷川診療所 院長
精神科・心療内科  長谷川 洋先生

聖マリアンナ医科大学を卒業後、同大学神経精神科に入局。平成15年より同大学東横病院精神科主任医長として勤務。平成17年12月に同院精神科が閉科となり平成18年1月より長谷川診療所を開院。開院以来、区役所における高齢者精神保健相談も継続して行っている。医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会専門医。現在、聖マリアンナ医科大学神経精神科非常勤講師、川崎市精神科医会理事、神奈川県精神神経科診療所協会副会長。主な著書に「よくわかる高齢者の認知症とうつ病」(中央法規出版)がある。

うつ病の3つの治療法


うつ病の治療法としては「薬物療法」「精神療法」「環境調整」の3つが大きな柱となります。高齢者の場合は、その中でも薬物療法がメインの治療となるでしょう。
下記では、3つの治療法の概要を説明します。

薬物療法とは

一般的に抗うつ薬などを用いながら治療をします。薬の効果が出るのには、数週間程度かかることが多く、継続して服用することが重要です。薬の効果よりも先に副作用が現れることもあり自己判断で中止してしまうことも多いので、医師と相談しながら根気よく治療していきましょう。
最初は少量からはじめて、徐々に目安量まで増やしていきますが、高齢者の場合は小柄な人や体重が少ない人、副作用で転倒の危険がある人などは目安よりも少ない薬量になるケースもあります。

薬の効果が発揮されやすい分野は「睡眠障害の改善」や「食欲不振の改善」などです。一方で「意欲や興味関心の向上」などは、なかなか薬の効果が現れない人もいます。
また、薬に関してマイナスイメージがある人は効果が出にくいことも。薬に関して気になることがある場合は、早めに医師に相談し、本人が納得したうえで服用することが大切です。

薬をやめるときは、医師の指示のもと、徐々に減薬して時間をかけてやめていきます。
勝手に自分で判断して急に服薬を中止すると、再発リスクが高まったり、不快症状が起きたりする可能性もありますので、注意が必要です。

精神療法とは

精神療法とは、医師やカウンセラーなどの治療者が患者の症状や悩み、不安などを聞き、さまざまな方法を用いてうつ病の症状の改善をします。
精神療法には「認知行動療法」「対人関係療法」「支持療法」などがあります。

高齢者の場合、長時間の精神療法を希望する人は少ない傾向にあります。精神療法を受ける際は、本人が納得して受けることが大切です。

環境調整とは

環境調整とは、ストレスの原因となる職場や家庭、人間関係、住居などを調整してストレスを軽減することです。

高齢者の場合、仕事を定年退職していたり、転居が難しかったりするなど、環境調整の選択肢が限られます。
しかし、要介護認定を受けている人であれば、訪問介護やデイサービスを利用して、大きな変化ではなくても日々の生活に良い刺激を加えることができます。

息子さんを病気で亡くした喪失体験からうつ病になった、ある高齢者の方がいました。その方は、入院するほどうつ病が重症化しましたが、退院後にデイサービスに通いはじめ、次第に生き生きと生活できるようになりました。もともと自営業で人の面倒をみることが好きだったので、デイサービスでみなさんのお世話をしたりしながら、リーダー的存在として生活できることが本人に合っていたのでしょう。
介護保険サービスだけでなくても、地域や福祉サービスなどを活用して環境調整を行うことも可能です。

高齢者の環境調整は、家族の支援が重要

家族の支えが患者の回復を促す大きな力となるため、家族が担う役割は大きく、環境調整をするうえで重要な要素となります。
気を付けるべきポイントのひとつとして「家庭の中での孤立」があります。ひとり暮らしではなく、家族と同居している高齢者がひとりで食事をとる「孤食」はストレス因子となりやすく、気を付けたいところです。
「同居しているから十分」ではなく、そばにいても通じ合えない・関わりのない環境での孤独感はひとり暮らしよりも大きなものになるのでしょう。

通院に同行して、診察に同席する、本人のことを気にかけていると行動で示すのもいいと思います。その場合は、本人を先に診察室から退室させて、本人がいない場所で医師と話すのは控えてください。うつ病でマイナス思考になっているため、自分のいないところでの相談は何か自分にいえない相談をしているのではと考えて不安や落ち込みが強まってしまう人もいます。そのため、気になることがある場合は、本人がいる前で医師に質問をしましょう。

また、支える家族もうつ病やうつ状態になるケースが少なくありません。家族は医療者ではないため、常にいい対応をすることは不可能です。いい対応やうつ病を意識しすぎず、自分の健康を守ることも大切でしょう。

高齢者の場合は自殺の予防も重要

平成29年の自殺者数は21,321人。平成23年までの自殺者数は3万人を超えていました。
自殺者の約4割は「うつ病」の診断にあてはまり、うつ病患者の自殺率は、一般の人の少なくとも数十倍といわれています。
60歳以上の自殺者数は全体の約4割を占めており、高い数字となっています。

厚生労働省「平成29年中における自殺の状況」

高齢者の自殺理由として、自分の健康状態に関して悪い評価をくだし、病気を大きなストレスに感じていることがあげらます。「楽になりたい」「元の体に戻らないなら死んだほうがマシだ」などの言動が目立ち、病気などの影響で継続的な身体的苦痛を受けたことからうつ病を発症し、自殺へとつながっていると考えられます。

高齢者の自殺の特徴

高齢者の場合、うつ病の診断が遅れ、適切な治療やサポートが行き届いていない可能性が考えられます。困っていることがあったとしても、遠慮から自分の子どもなどの身近な人に相談しづらく、SOSを出しづらい環境にあるのかもしれません。

高齢者のうつ予防、ストレス予防の案として、子ども食堂のような社会活動に、高齢者がボランティアとして参加できたらいいのではないかと考えています。そうすると、「あの子たちに食べさせなきゃ」と高齢者に生きる喜び・やる気が出てくるかもしれません。「人の役に立ちたい」と思っている高齢者は多いと思いますので、そのようなシステムができるとお互いに幸せになれるのではないでしょうか。

また、自殺予防としては、うつ状態の時にアルコールを遠ざけておくことが大切です。
うつ状態の時の飲酒は判断を悪くするので、自殺のリスクが高まります。特に眠れない時の飲酒の習慣は、一度に多くの飲酒をする習慣にもなりやすく、寝酒の習慣はつけないようにしたいところです。

介護職員ができる支援や対策について


介護職員がうつ病の方にできる支援・対策は、「自分の健康を守ること」が一番だと思います。
介護の仕事は本当に大変です。
比べられないかもしれませんが、とくに介護職の夜勤は人数が少ないのに突発的なことは起きるため、他の職種の夜勤よりもストレスが大きいのではないかと感じます。

嫌なことがあったときにため込まず、発散ができる人であれば、利用者さんに対しても普段から穏やかに接することができるのではないでしょうか。同僚の方と話したり、定期的に話し合いができるシステムがあれば、ストレスをため込まないで済むと思います。
そうやって、自分の心身の健康を守ることが、利用者さんへの良いケアにつながるのではないでしょうか。
また、人間なので相性もあると思います。完璧に対応することを目指さず、相性が合わない利用者さんの場合は、他のスタッフにお願いするなど臨機応変な対応を施設側が考えてくれるといいですね。

もし、それが許されない環境であるなら、転職は良い選択肢のひとつだと思います。1ヶ所の経験で「介護が向いていない」と思わずに、他の介護施設や事業所を体験してみてはどうでしょうか。「つらいな」と思ったら、我慢しすぎずに、3ヶ所くらい経験して、それでもだめだったら介護業界から離れても遅くはないと思います。
介護職員の方には、できれば、介護業界から離れずにがんばっていってほしいというのが医療者側としての願いです。

※この取材記事の内容は、2018年7月に行った取材に基づき作成しています。

参考文献・サイト

  • 長谷川和夫、長谷川洋(2015)「よくわかる高齢者の認知症とうつ病 正しい理解と適切なケア」中央法規.
  • 三村 將(2013)「認知症と見分けにくい『老年期うつ病』がよくわかる本」講談社.
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