介護業界で働き始めた多くの人は、スキルアップ・キャリアアップを目指して資格の取得を検討するようになります。
その中で、もっとも取得しやすい資格として名前を挙げられるのが、「介護職員初任者研修」。
介護の基礎的な知識やスキルを学ぶことができる、初心者向けの入門編とも言うべき資格です。
この記事では、介護職員初任者研修の取得を考えている方に向けて、研修の受講資格や難易度、また類似資格として名前が挙がりがちな「実務者研修」との違いなど、細かく解説します。
目次
介護職員初任者研修とは?
介護初任者研修は、介護の入門資格として位置づけられている公的資格です。
2012年度に廃止された「ホームヘルパー2級」に代わる形で、2013年度より新しく開設されました。
でも、「介護福祉士」資格取得までのステップがわかりにくいという背景から、廃止されることになったゴン。
ホームヘルパー2級は、主に訪問介護員として働くために制定されていた資格です。
しかし、介護初任者研修では介護に関する基礎的な知識やスキル、考え方のプロセスを全般的に学ぶことができるため、施設介護と訪問介護の両方に活かせる資格となっています。
ホームヘルパー2級とはココが違う!旧資格からの「3つの変更点」
ホームヘルパー2級相当の資格と言われている介護職員初任者研修。
訪問介護に特化していた講座カリキュラムから、介護全般について学ぶ内容になった……というのが主な違いですが、その他にもさまざまな点が変更されています。
修了試験が実施されるようになった
ホームヘルパー2級は全課程を修了すれば資格を取得することができました。
しかし、介護職員初任者研修ではカリキュラムの最後、学んだ内容がきちんと身についているか確かめる修了試験が実施されます。
これに合格できなければ、資格を取得することができません。
難易度については後述しますが、基本的に授業をしっかり理解していればほとんどの場合は合格できる試験です。
万が一不合格になってしまっても追試制度で合格すればよいので、落ち着いて試験に挑みましょう。
実習が廃止された
ホームヘルパー2級には30時間に及ぶ実習があり、デイサービスや訪問介護の場で実際に身体を動かすことができました。
しかし介護職員初任者研修ではこれが廃止となっており、その分、スクールで行われる座学や演習時間が42時間から89.5時間に増えました。
カリキュラムの合計時間はホームヘルパー2級のときと変わらず、130時間です。
演習で学ぶのは、シーツの敷き方や畳み方、移動介助、更衣介助、体位変換、口腔ケア、排泄介助などの介護技術。
「全介助の場合」「右まひなどの一部介助の場合」といったさまざまなケースを、効率的に身につけることができます。
ですが、実習は介護現場の雰囲気を知るうえでとても大切なもの。
スクールによっては任意で実施しているところもあるようなので、受講の際にはよく確認しておきましょう。
認知症ケアに関する科目がカリキュラムに追加された
介護職員初任者研修には、ホームヘルパー2級にはなかった「認知症の理解」「医療との連携」が受講科目に追加されています。
認知症患者が高齢者人口に比例して増加の一途をたどる昨今、介護現場では認知症ケアへの対応がかなり重要視されています。
スタート資格である介護職員初任者研修から認知症ケアについて学ぶことで、将来的に認知症患者に対応できる人材をより多く確保する。科目追加の背景には、そういった重要な課題があるのです。
介護職員初任者研修を取得する「3つのメリット」
介護職員初任者研修の資格を取得することには、主に3つのメリットがあります。
- 給料アップが見込める
- 正社員雇用のチャンスが増える
- 訪問介護員として働ける
順番に詳しく見ていきましょう。
無資格者より給料アップが見込める
介護職員初任者研修は、介護に関する基礎的な知識や技術があることの証明になる資格です。
そのため、多くの介護施設では、介護職員初任者研修修了者の時給や月給を無資格者より高く設定しています。
無資格者より採用ハードルが下がり、正社員での雇用機会が増える
資格取得者はすでに基本的な知識や技術があるものとみなされるため、無資格者より採用のハードルが下がり、正社員での雇用のチャンスが増えます。
転職にも有利ですし、キャリアアップの好機となるのではないでしょうか。
訪問介護事業所で介護サービスを提供できる
訪問介護事業所では、有資格者のみが利用者さんに対して介護保険適用のサービスを提供できます。
そのため、介護職員初任者研修を取得すると訪問介護員(ホームヘルパー)として活躍することも可能になります。
活躍の場の選択肢がさらに広がりますね!
訪問介護員についてはこちらの記事もご参考ください。
介護職員初任者研修の資格を得るために、まずはスクールを探そう
介護職員初任者研修を修了して資格を得るためには、まず講座を開設しているスクールに受講を申し込む必要があります。
介護職員初任者研修のスクールの多くは民間企業が運営していますが、ハローワークや地域の自治体で受けることも可能です。
自治体によっては資格取得のサポートを受けられるので、お住まいの市区町村に問い合わせてみましょう。
なお、介護職員初任者研修には130時間に及ぶカリキュラムが用意されています。
130時間分すべてをスクールへの通学で履修するか、通信教材を使った自宅学習とスクール通学を組み合わせて履修するか、いずれかのルートで修了を目指します。
近年では自宅学習+スクールで学ぶのが一般的なようですね。
また、通学の頻度も人それぞれ。以下に、履修例を示しましたが、週1回通うコースで3か月かけて取得を目指す人もいれば、週4で通って1ヶ月で資格をゲットする人もいます。
- 毎週・土日のみ通学(約2ヶ月)
- 平日・4日通学(1ヶ月)
- 自宅学習+平日1日通学(約3ヶ月)
ご自身の生活や仕事と照らし合わせて、無理なく通えるコースを選びましょう。
130時間の介護職員初任者研修と修了試験、いったいどんなことをするの?
介護職員初任者研修には受講資格が設けられていません。
年齢や学歴、資格、経験を問わず、誰でもチャレンジできるのが大きな特徴です。
国籍も不問となっていますが、授業や演習、修了試験は日本語で行われるため、ある程度の日本語読解力は必要です。
ここでは、研修の詳しい内容と修了試験の詳細について触れていきます。
カリキュラムの内容
介護職員初任者研修のカリキュラム項目は、厚生労働省によって下記のように定められています。
項目数 | 項目名 | 時間 |
---|---|---|
1 | 職務の理解 | 6時間 |
2 | 介護における尊厳の保持・自立支援 | 9時間 |
3 | 介護の基本 | 6時間 |
4 | 介護・福祉サービスの理解と医療との連携 | 9時間 |
5 | 介護におけるコミュニケーション技術 | 6時間 |
6 | 老化の理解 | 6時間 |
7 | 認知症の理解 | 6時間 |
8 | 障害の理解 | 3時間 |
9 | こころとからだのしくみと生活支援技術 | 75時間 |
10 | 振り返り | 4時間 |
合計 | 130時間 |
カリキュラムの多くを占める「こころとからだのしくみと生活支援技術」では、座学とあわせて移動介助や更衣介助、体位変換、口腔ケア、排泄介助などの介護技術の実践演習を行います。
試験について
すべてのカリキュラムを修了したのち、各スクールが決めた日程で実施される筆記の修了試験。
選択式もしくは記述式のテストで、100点満点中70点以上で合格となります。
受かるまで何度でも再試験を受けられるスクールも多く、落ちることはほとんどないのが特徴ゴン。
10項目のカリキュラムのうち、合計32問以上が出題されます。
出題される問題は以下の通りです。
2.介護における尊厳の保持・自立支援 | 2問 |
3.介護の基本 | 4問 |
4.介護・福祉サービスの理解と医療との連携 | 3問 |
5.介護におけるコミュニケーション技術 | 2問 |
6.老化の理解 | 2問 |
7.認知症の理解 | 4問 |
8.障害の理解 | 3問 |
9.こころとからだのしくみと生活支援技術 | 12問 |
以上、合計32問が最低数となっています。
実際の出題数はスクールによって異なりますので、試験前に確認できるようであればしっかり対策しておきましょう。
無料で受けられる可能性も!?受講費用を要チェック
介護職員初任者研修の受講費用は各スクールによって異なりますが、目安としては、受講料やテキスト代込みで5万円から11万円程度と言われています。
ですがスクールの中には、「資格取得後、スクールの紹介する介護施設に就業する」ことを条件に、受講費用を免除する制度を設けているところも。
また、先述したとおり自治体の制度やハローワークの求職者支援制度を利用して、無料で介護職員初任者研修を受けることも可能です。
さらに、厚生労働大臣の指定する教育訓練において介護職員初任者研修を受講した場合は、費用の約2割が給付される「一般教育訓練給付」などの制度もあります。
自分が対象となるかは、スクールに申し込む前に、ハローワークに直接お問い合わせください。
参考:ハローワーク「教育訓練給付制度」
実務者研修との違いは「研修量・キャリアアップの具体性・試験の有無」
介護の公的資格である「介護職員初任者研修」と「実務者研修」。
どちらも介護の国家資格「介護福祉士」を目指すステップとして同列に扱われがちですが、この2つの資格には、大きく分けて3つの違いがあります。
実務者研修は3倍以上の研修が必要な上位資格
介護職員初任者研修も実務者研修も、どちらも無資格・未経験から取得できる資格です。
しかし、介護職員初任者研修が介護の入門資格であるのに対し、実務者研修は介護職員初任者研修の上位資格として位置づけられています。
実務者研修の受講時間は450時間。介護職員初任者研修の3倍以上で、内容もより専門的になっています。
「介護福祉士」になるには実務者研修の資格が必要
介護職としてのキャリアアップを考える中で、国家資格である「介護福祉士」の取得を目指している人も多いのではないでしょうか。
介護福祉士になるには、
- 介護現場で実務経験を積み、介護福祉士国家試験の合格を目指す「実務経験ルート」
- 福祉系の高校または特例高校で福祉に関する所定の教科目・単位を修めて卒業した後、介護福祉士国家試験の合格を目指す「福祉系高校卒業ルート」
- 厚生労働省が指定した介護福祉士養成施設を卒業した後、介護福祉士国家試験の合格を目指す「養成施設ルート」
という3つのルートがあります。
この中で最もポピュラーな実務経験ルートでは、3年以上(実働日数540日以上)の実務経験のほかに、実務者研修の資格を保有していることが国家試験の受験資格要件となっているのです。
それに対して、介護職員初任者研修は介護福祉士の受験資格の要件にはなっていません。
介護福祉士資格の取得まで視野に入れている場合には、はじめから実務者研修を受講するという手もあるでしょう。
ただし、介護職員初任者研修を保有していることにもメリットはあります。
介護福祉士を目指して実務者研修を受講する際、130時間分のカリキュラムが免除されるからです。
「基礎を固めるために、とりあえず初任者研修から取ってみよう」という方にもおすすめです。
介護職員初任者研修には修了試験がある
介護職員初任者研修には修了試験がありますが、実務者研修には修了試験が義務付けられていません。
ただし、スクールによっては理解度を図るために筆記試験や実技試験、レポートの提出が必要な場合もありますので、よく確認するようにしましょう。
編集者より
介護業界でスキルアップ・キャリアアップしていくためには、資格の取得は必須と言っていいでしょう。
まだ資格を持っていない介護職の方は、この機にぜひ介護職員初任者研修にチャレンジしてみてくださいね!
『介護のお仕事研究所』では、新人介護職に向けた介護業界でのキャリアアップのハウツー記事も公開しています。
介護職員初任者研修が「すべてのキャリアの始まり」になっていることがよくわかるので、こちらもあわせてご覧ください。
参考文献・サイト
- 厚生労働省「離職中で、生活費を確保しつつスキルアップしたい」(2019/08/16)
- 東京都「介護職員初任者研修の申込を開始」(2018/05/21)