日常生活を送る上で困難の多い要介護者の助けとなる福祉用具。
車いす、介護ベッド、入浴用リフトなどが主に挙げられますが、その他にもさまざまな福祉用具が存在します。
高齢者の方は介護保険を利用することで、多くの種類の福祉用具をレンタル・購入できます。
そんな福祉用具を適切にコーディネートし、利用者さんの自立した生活をサポートする専門職が「福祉用具専門相談員」です。
今回の記事では福祉用具専門相談員の仕事内容や資格の取得方法、メリットなどを紹介します。
目次
福祉用具専門相談員とは?
福祉用具専門相談員とは、福祉用具の使用を検討している利用者さんや家族の要望に応じて、状況にあった福祉用具の選定を行う専門職を指します。
選んだ用具の使い方について相談に応じたり、より利用者さんの使いやすい形に用具を調整したりする役割も担います。
他の介護保険サービスの専門職と連携しながら、利用者さんが用具の使用によって快適に生活できるよう支援します。
具体的にはケアマネジャーや福祉用具メーカーとのやり取りが多くなるようですね。
- 福祉用具貸与・販売事業所
- 福祉用具住宅改修事業所
- ホームセンター・スーパーなどの介護福祉用品売り場
- 生活用品販売店
- 福祉用具メーカー
など
利用者さんに見合う福祉用具をチョイスするのが仕事
福祉用具のレンタルや販売は介護保険のサービス内で行われるもの。
そのため福祉用具専門相談員は、ケアマネジャーが作成した利用者さんのケアプランにのっとって業務を行うことになります。
その中での主な仕事内容には、以下の4つが挙げられます。
- 福祉用具の選定相談
- 福祉用具の利用計画を作成
- 福祉用具の適合、取扱説明
- 訪問確認(モニタリング)
具体的にどのようなことをするのか見てみましょう。
福祉用具の選定相談
利用者さんの身体の調子や精神の状態、福祉用具を使用する環境などを基に、用具のレンタル・購入によって何ができるようになるのかを一緒に考えます。
その上で、一人ひとりにあった福祉用具を選ぶための相談に応じるのが福祉用具専門相談員の役目です。
2018年10月からは、福祉用具の貸与額に上限が設定されています。
そのため厚生労働省は、レンタル商品に関する全国の平均レンタル価格と当該事業者のレンタル価格について、両方の説明を福祉用具専門相談員から利用者さんに行うよう義務付けています。
福祉用具の利用計画を作成
ケアマネジャーが作成したケアプランと、利用者さんおよびご家族からの相談内容に基づき、「福祉用具の利用計画(福祉用具サービス計画)」を作成します。
「福祉用具の使用によって今後の生活をどう変えたいか?」という利用者さんの希望に沿って、レンタルする福祉用具の詳細を記載するものが利用計画です。
この計画書に対して利用者さんから同意を得られれば、福祉用具のレンタルが確定します。
福祉用具の適合、取扱説明
適合とは、貸し出す福祉用具を利用者さんの身体の状態や使用環境にあわせて調整すること。
より使いやすい最適な形で福祉用具をお渡しするのも、福祉用具専門相談員の仕事です。
また、福祉用具を安全かつ有効に使ってもらうために、正しい取り扱い方法の説明も行います。
訪問確認(モニタリング)
利用者さんのご自宅を定期的に訪問し、福祉用具の点検や利用状況の確認を行います。事故を起こさないようにするのも、福祉用具専門相談員の重要な職務です。
なお、モニタリングは年に2回行うことが義務付けられています。
レンタル対象の福祉用具と販売対象の福祉用具、違いは?
福祉用具と一口に言っても、利用者さんにレンタルできるものと販売できるものの種目はそれぞれ異なります。
どのような分け方をしているのか、実際に見てみましょう。
福祉用具の種類 | |
---|---|
貸与対象種目 | 車いす、介護ベッド、床ずれ防止用具、体位変換器、手すり・スロープ、歩行器、歩行補助つえ、移動用リフトなど |
販売対象種目 | 腰掛便座、入浴補助用具(入浴用いす、浴槽用手すり、浴室内すのこなど)、簡易浴槽、移動用リフトのつり具部分など |
福祉用具専門相談員になるには?
福祉用具専門相談員になるには、福祉用具に関する知識があるとみなされる国家資格を保有しているもしくは福祉用具専門相談員講習を修了する必要があります。
- 介護福祉士
- 社会福祉士
- 看護師
- 準看護師
- 保健師
- 理学療法士・作業療法士
- 義肢装具士
要注意!制度変更で福祉用具専門相談員の業務ができなくなった資格
介護系の資格を持っていれば福祉用具専門相談員になれる……と思いがちですが、2015年4月の制度改正により、下記の資格は福祉用具専門相談員となるための要件から除外されています。
- ホームヘルパー2級・1級
- 介護職員基礎研修
- 介護職員初任者研修
上記の資格を持っている介護職も、福祉用具専門相談員として働きたい場合には、福祉用具専門相談員講習を受ける必要がありますので注意しましょう。
一週間にわたる「福祉用具専門相談員指定講習」を受けて資格をゲット!
介護福祉士やその他該当する国家資格を取得していない場合、福祉用具専門相談員として働くためには、福祉用具専門相談員指定講習を受講しこれを修了する必要があります。
なお、講習に受講条件はありません。誰でもチャレンジすることができます。
講習の内容
福祉用具専門相談員の講習は50時間(7日程度)。そして最後には筆記による修了評価試験を受ける必要があります。
講習のカリキュラムは以下の通りです。
1.福祉用具と福祉用具専門相談員の役割
科目 | 内容 |
---|---|
福祉用具の役割(1時間) | 福祉用具の定義と種類 福祉用具の役割 福祉用具の利用場面 |
福祉用具専門相談員の役割と職業倫理(1時間) | 介護保険制度における福祉用具専門相談員の位置付けと役割 福祉用具専門相談員の仕事内容 職業倫理 |
2.介護保険制度などに関する基礎知識
科目 | 内容 |
---|---|
介護保険制度等の考え方と仕組み(2時間) | 介護保険制度等の目的と仕組み 地域包括ケアの考え方 |
介護サービスにおける視点(2時間) | 人権と尊厳の保持 ケアマネジメントの考え方 |
3.高齢者と介護・医療に関する基礎知識
科目 | 内容 |
---|---|
からだとこころの理解(6時間) | 加齢に伴う心身機能の変化の特徴 認知症の理解と対応 |
リハビリテーション(2時間) | リハビリテーションの基礎知識 リハビリテーションにおける福祉用具の役割 |
高齢者の日常生活の理解(2時間) | 日常生活について 基本的動作や日常生活動作(ADL)の考え方 |
介護技術(4時間) | 日常生活動作(ADL)における基本的な介護技術 |
住環境と住宅改修(2時間) | 高齢者の住まい 住環境の整備 介護保険制度における住宅改修 |
4.個別の福祉用具に関する知識・技術
科目 | 内容 |
---|---|
福祉用具の特徴(8時間) | 福祉用具の種類・機能および構造 基本的動作と日常の生活場面に応じた福祉用具の特徴 |
福祉用具の活用(8時間) | 各福祉用具の選定・適合技術 高齢者の状態に応じた福祉用具の利用方法 |
5.福祉用具に関わるサービスの仕組みと利用の支援に関する知識
科目 | 内容 |
---|---|
福祉用具の供給の仕組み(2時間) | 福祉用具の供給の流れ 福祉用具の整備方法 |
福祉用具貸与計画などの意義と活用(5時間) | 福祉用具による支援の手順の考え方 福祉用具貸与計画等の意義と目的 |
6.福祉用具の利用の支援に関する総合演習
科目 | 内容 |
---|---|
福祉用具による支援の手順と福祉用具貸与計画などの作成(5時間) | 事例演習 |
福祉用具専門相談員指定講習を提供するスクールについて
実際に、福祉用具専門相談員指定講習を開講しているスクールの一部を紹介します。
多くのスクールは、受講費用は4~7万円程度、受講期間は6~8日間で開講しています。
スクール名 | 受講料 | 拠点 |
---|---|---|
三幸福祉カレッジ | 64,000円 (エリア①:北海道・岩手県・宮城県・山形県・千葉県・神奈川県・静岡県・鳥取県・沖縄県)(テキスト代込・税別) 45,000円(エリア②:愛知県・福岡県・長崎県)(テキスト代込・税別) |
千葉教室 横浜教室 静岡教室 名古屋駅前教室 米子教室 ※時期により開講教室が異なる場合あり。詳しくは三幸福祉カレッジに問い合わせください |
藤仁館医療福祉カレッジ | 59,800円(教材費、消費税等すべて込) | 池袋校 大宮校 熊谷校 ※時期により開講校が異なる場合あり |
ヘルス・ケア・サポート・ハクビ | 35,000円(テキスト代込・税込) ※ハクビ卒業生・受講生なら1万円引きの25,000円(テキスト代込・税込) |
大塚校 |
そのほか、講習は全国各地で開講されています。受講を検討している方は近くのスクールの開講状況を確認してみてください。
福祉用具専門相談員はこれからも需要増の可能性大
福祉用具専門相談員になることのメリットとしては、働く上での選択肢が増え、キャリアプランをより多彩に立てられるようになることが挙げられるでしょう。
超高齢社会へ向かっている日本では、今後、福祉用具の使用を希望する利用者さんが増えていくと予想されます。しかし、現状の介護現場では福祉用具に対する知識・情報不足から、用具をうまく使いこなせていないパターンも少なくありません。
そんな中、福祉用具を必要としている人に適切なアドバイスを行える福祉用具専門相談員は、これからますます必要とされるようになります。
つまり、国家資格取得や講習修了によって福祉用具専門相談員としても働ける土台を作っておくことで、これまでは選択肢に入っていなかった求人も選べるようになるのです。
編集者より
主に福祉用具を扱う販売店やレンタル事業者が活躍の場として挙げられる福祉用具専門相談員ですが、介護現場で働く上でも、福祉用具の深い知識と理解があることは強みになります。
キャリアプランの選択肢が増えることはもちろん、スキルアップを目的として福祉用具専門相談員を目指してみてもいいかもしれませんね。