介護職としてのキャリアアップを考えたとき、真っ先に思い浮かぶのはどのような姿ですか?
キャリアプランは人それぞれ。
現場で利用者さんとの接するのを大切にするもよし、身体介助とは違ったアプローチで利用者さんをサポートするもよし。自分の望む形で仕事に向き合いたいですよね。
さまざまな職種があり、キャリアアップの選択肢も多い介護業界の中で、見落とされがちなのが事業所の「管理者」というポジションです。
管理者はどんな仕事をしているのか? なるためには資格が必要なのか? どのような成長が見込めるのか?
今回の記事では、意外と知られていない介護業界の管理者についてご紹介します。
目次
介護保険法から見る「管理者」とは
管理者は事業所全体の責任者、施設のトップとなる役職です。勤めている事業所の形態によってはホーム長や施設長と呼ばれることもあります。
介護保険法の人員設備基準から各サービスでほぼ共通している部分を見てみると、以下のような記載があることがわかります。
- 管理者は、原則として当該施設に常勤する者でなければならない。
- ただし、当該施設の管理上支障がない場合は、同じ敷地内にある別の施設の職務に従事することができる。
参考:e-Gov「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」
つまり介護施設における管理者は、従業員や業務の管理を行って指揮を執る常勤のポジションであると言えます。
管理者自身の仕事に支障がなければ、同じ敷地内であることを条件に他の介護業務に携わることもできます。
管理者の仕事はずばり「3つのマネジメント」
管理者の主な仕事は、自身の勤める施設のスタッフや業務の実施状況などを把握・管理し、運営に必要な指示を出すこと。
つまり「介護業務のマネジメント」「人材のマネジメント」「収支のマネジメント」を行い、施設全体を管理するのが管理者の役目である、と言えます。
管理者の仕事内容について、順番に詳しく見てみましょう。
介護業務のマネジメント
施設の利用者さんに提供する介護サービスが、適切かつ確実であるようにマネジメントする業務です。
決められている介護サービスの内容を守った上でサービスの品質が落ちないよう、スタッフへ働きかけたり定期的にチェックしたりすることになります。
必要に応じて注意や指導を行ったり、改善策を提案して話し合いの場を設けたりします。
人材のマネジメント
施設で働くスタッフの教育や採用などを行う業務です。現場に出る介護職員が無理なく、気持ちよく働けるようなマネジメントを行う必要があります。
管理者はよりよい介護の実現のためにも優秀な人材を採用し、適切な人員配置を行い、介護職としての質を高める教育を施すことが必要です。
特に採用面接や現場での指導は管理者が大きく関わることになるので、気を引き締めて当たらねばなりません。
また、既存のスタッフに対してもマネジメントを行う必要があります。
残業は多くないか、負担が集中する環境になっていないか、スタッフ同士の雰囲気は悪くないか……施設全体をくまなく見て、働きやすい職場になるようさまざまな調整を行うことも管理者の仕事です。
収支のマネジメント
特に有料老人ホームなどの民間企業が運営する施設では、管理者に対して利益を出すためのマネジメント能力も必要になります。利益が出なければ施設運営を続けられなくなってしまうため、責任も重大ですね。
入居者の確保や経費の削減といった収支管理も立派な仕事のひとつ。そのため、施設の広報活動や営業活動、見学者対応なども業務内容に含まれることが多いようです。
管理者に求められる能力・スキル・経験など
施設のマネジメントを任される管理者には、およそ以下のようなスキルが求められることになります。
- 事業所のスタッフおよび業務の管理を一元的に行うスキル
- スタッフに規定を遵守させるために必要な指揮命令を行うスキル
- 適切な介護サービスを提供するために必要な知識および経験
具体的にどのような業務で必要な能力なのか、見ていきましょう
事業所のスタッフおよび業務の管理を一元的に行うスキル
スタッフの管理とは、人事採用面接や定期人事考課面談、日々の勤怠管理、給与の計算などのこと。
業務の管理とは、シフト時間数や業務内容の見直しや編成、日々の利用変更や修正、新規利用者や入居者の面談、契約説明など……。
これらを職員と協力して行い、管理者が最終的に取りまとめて判断を行うことが求められます。
スタッフに規定を遵守させるために必要な指揮命令を行うスキル
介護保険法はもちろん、スタッフが守るべき規定をしっかり守るよう指揮するのが管理者です。
管理者は規定を守らないスタッフに対して指導を行い、遵守させる必要があります。
「どうしてこのような決まりがあるのか? なぜ必要なのか?」を理解し、スタッフへわかりやすく説明するスキルが求められている、と言い換えられますね。
適切な介護サービスを提供するために必要な知識および経験
優れた介護サービスを利用者さんへ提供するためには、介護保険法はもちろん、さまざまな知識と技術をスタッフ一人ひとりが習得している必要があります。
介護の実技技術、認知症への理解、地域資源の知識、近隣住民との協力体制、困難事例への対応、他職種の連携と知識の共有、各関係機関との連絡体制……管理者が率先して習得しておかなければならないものは枚挙にいとまがありません。
管理者になるための要件は?
施設の種類や形態によって、管理者になるために必要な要件はそれぞれ異なります。
【施設別】管理者になるための資格 | |
---|---|
特別養護老人ホーム | 特になし |
介護老人健康施設 | 都道府県知事から承認を受けた医師 |
グループホーム小規模多機能ホーム | 指定施設の従業者または訪問介護員として、認知症介護の経験が3年以上ある 認知症対応型サービス事業管理者研修を修了している |
有料老人ホーム | 特になし |
サービス付き高齢者向け住宅 | 特になし |
デイサービス | 特になし |
実は、管理者になるために特別な資格を取得する必要はほとんどありません。
ほとんどの施設では資格なしでも管理者になれますし、要件を課している施設であっても経験年数や研修の修了を挙げているところが多いようです。
介護業界では、異業種から転職してきた人でも管理者として活躍することができます。
もちろん、介護の経験や知識があるに越したことはありませんし、同じ敷地内の施設で業務を兼務する場合にはそれに応じた資格が必要になることもあるでしょう。
自身が管理者として勤めたいと思う施設がどのような要件を出しているのか、事前にしっかりチェックしておくようにしましょう。
「チームマネジメント」の経験が管理者になる大きなメリット
管理者の仕事は施設運営に携わることであり、どうしても現場からは離れてしまいがちです。利用者さんとのかかわりを大切にしたい介護職員にとっては、あまり魅力的には見えないかもしれません。
しかし、管理者となることで得られる大きなメリットがあることも考えておきたいですね。
管理者としていわゆる「裏方」の仕事をすることで得られる大きな利点、それはチームマネジメントを学べるということです。
管理者は日々さまざまな情報を吟味し、施設としての判断を責任を負いながら下しています。その中でスタッフとしっかり話し合って考える機会や、決まりを遵守してもらうための指導の機会も多々あることでしょう。
そうした経験によって、まず伝えたいことを伝わるように話すスキルが身につきます。そうした円滑なコミュニケーションを経て、スタッフからの信頼を得られれば、さまざまな相談を持ちかけられる立場としてチームをまとめる力が身につくのです。
また、管理者は施設の利用者さんとスタッフの人生や生活、両方について向き合っていく立場にあります。
視座を一段階上げて物事を広く見られるようになるのも、管理者の特権と言えるでしょう。
管理者次第で良くも悪くもなる!施設を巻き込んで挑戦できるのが管理者のやりがい
管理者のやりがいとして挙げられるのは、管理者次第で介護事業所は魅力的にもつまらない場所にもなるという点です。
管理者の考えや目指したい介護の方向性が、そのまま施設の目指す方向性となります。つまり管理者がどのような施設運営をするかによって、利用者の満足度はもちろん、そこで働く職員のやりがいなども左右されていくものなのです。
一見地味な裏方仕事、と思われがちな管理者の仕事。
しかしその内実は、己の手腕で事業所をどこまでも変えることができる、チャレンジ精神の満たされるポジションなのです。
さまざまなマネジメントスキルを学びながら、現場の利用者さんとスタッフの近くで日々よりよい介護を考える……そのようなキャリアアップの方向性も、魅力的ではないでしょうか。
管理者になると待遇はどう変わる?
介護労働安定センターが発表している「平成29年度 介護労働実態調査結果の結果」によれば、管理者の平均月給は356,679円。
一般的な介護職員の平均月給が227,275円であることを考えれば、給与額はかなり向上していると言えます。
賞与額も平均で709,230 円。介護職員の平均賞与額が572,079 円であることを見ても、かなり待遇がよいと考えられます。
編集者より
最初から管理者となることを目指して介護業界に入っていく、という方は、あまりお見かけしませんよね。
介護職員のほとんどは利用者さんとのかかわりや触れ合いに魅力を感じ、現場での経験を活かした上でスキルやキャリアアップを検討していくもの。
ですが、利用者さんの人生や生活と真摯に向き合うということは、管理者になっても変わりません。それに、現場の介護職員では味わえないやりがいがあるのも管理者という立場です。
今後のキャリアアップの選択肢として、ぜひ自分が施設の顔となることを考えてみてはいかがでしょうか?
参考文献・サイト
- PHP研究所「介護施設長&リーダーの教科書」糠谷和弘著(2018/10/02)
- ケア資格ナビ「介護施設の管理者として働くには?必要な資格や活躍できる職場を解説!」(2019/06/25)
- e-Gov「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」(2017/04/01)