数ある高齢者施設のひとつである介護老人保健施設。
通称「老健(ろうけん)」は、在宅復帰を目指す介護施設です。
利用者にとっては介護保険が適用される施設であるため、初期費用はかからず、月額費用も比較的安価なところが魅力的。
また、充実した医療やリハビリを提供する施設のため、医療・リハビリの知識、多職種連携のスキルなど働く介護職員にとっても多くの学びが得られる施設です。
この記事では、老健で働きたい人や入所したい人が知りたい、サービス内容や費用、入所基準、メリット・デメリット、特別養護老人ホームとの違いなどを詳しく解説します!
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目次
介護老人保健施設(老健)とは
介護老人保健施設(以下、老健)とは、主に在宅復帰を目指す人が利用する介護保険適用の高齢者施設です。一般的に「老健(ろうけん)」と呼ばれています。
介護保険法第8条第28項では、下記のように定義されています。
介護老人保健施設とは、要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設。
出典:介護保険法
つまり、医師による管理のもと、理学療法士や作業療法士などによるリハビリテーションや生活訓練などを提供し、機能の維持や改善を目指す施設です。
さらに、ほかの施設に比べて医療・看護の人員配置が手厚く、医学的管理や看護を受けられます。
利用者の入所目安は3~6ヵ月!老健は在宅復帰を目指す施設
老健は、特別養護老人ホームや有料老人ホームとは違って終の棲家ではなく、在宅復帰を目指す施設です。
入所期間の目安は3ヵ月~6ヵ月程度ですが、施設や利用者の状態によって異なります。退所時期は3ヵ月ごとに行われる担当者会議で検討され、継続か退所の判断がされます。
5つに分けられる、老健のタイプとは
老健は、施設の評価によってタイプが分けられています。
出典:厚生労働省『平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について』
大きく分けると、「在宅強化型」、「基本型」、「その他」の3つがあります。
2018(平成30)年の介護保険法の改正によりさらに細かく分けられ、「在宅強化型」「基本型」のなかでより在宅復帰率などが高い「超強化型」、「加算型」が追加されました。
つまり、評価点の高い順から「超強化型」、「在宅強化型」、「加算型」、「基本型」、「その他」の5つに分かれます。
施設は、「在宅復帰・在宅療養支援等指標(最高値90)」や「退所時指導等」、「地域貢献活動」などさまざまな面から評価され、その数値によって施設のタイプが決まります。
「在宅復帰・在宅療養支援等指標」とは、「在宅復帰率」や「ベッド回転率」、「リハ専門職の配置割合」などの10項目の評価の合計した数値です。
法改正によって、「在宅復帰を目指す」という老健の役割が明確化されたことにより、「在宅復帰・在宅療養支援機能」が高く評価されることになりました。
「在宅復帰・在宅療養支援機能」は、在宅復帰率、ベッド回転率、退所後の状況確認等の指標によって評価されます。
そのため、在宅復帰・在宅療養支援等指標のなかでは「在宅復帰率」と「ベッド回転率」の数値が、とくに大きな割合を占めます。
このように、老健では「在宅復帰」を目指し、その支援内容と結果によって評価を受けています。
老健に転職を考えている介護職の方は、このタイプからその施設がどのような方針・状況なのか目安にしてもいいかもしれません。
介護職が老健で働くメリット・デメリット
老健で働く介護職にとって、どのようなメリットやデメリットがあるのか見ていきましょう。
「医療・リハビリ知識が身につく」老健で働くメリット
- 医療・リハビリ体制が整っているので、医療・リハビリ知識を得やすい
- 医師や看護師の配置が手厚いので、急変時や夜勤帯も安心
- 他職種が多いので、多職種連携のスキルが身につく
- 医療法人が母体なので、安定している
老健は、ほかの高齢者施設よりも医療・リハビリの体制が整っています。実際に医療・リハビリのサービスを行わない介護職も、身近で見ることによって、知識を得ることができます。さらに、医師・看護師の配置が手厚いため、急変時や夜勤帯も焦らず安心して対応することができます。
このように他職種が多く働く老健では、ほかの施設よりも多職種とのコミュニケーションが重要になります。そのため、多職種連携のスキルが得やすいでしょう。
そして、老健の母体の多くは、医療法人です。医療法人は、老健のほかに病院も運営しているため、安定した運営を行っている施設といえます。
「他職種との人間関係に悩むことも」老健で働くデメリット
- 他職種が多いので、関係性に悩むことも
- レクリエーションはあまり力を入れられない可能性がある
老健はさまざまな職種の人が働く場所です。多職種連携のスキルが得やすい利点がある一方で、その人間関係に悩むこともあります。意見がぶつかったり、軽くみられたりと介護職だけで働く人間関係とはまた違う悩みが出る可能性もあります。
また、老健は在宅復帰を目的とした施設です。医療・リハビリに力を入れているため、特別養護老人ホームや有料老人ホームといった終身利用の介護を目的とした施設とは違って、レクリエーションやイベントにそれほど力を入れていないところもあります。
レクが好きな介護職の方が老健に入職する際は、どんなレクをしているか事前に確認しておきましょう。
老健に入所するメリット・デメリット
つぎに老健に入所する利用者にとって、どのようなメリットやデメリットがあるのか見ていきましょう。
「在宅復帰を目指せる」老健に入所するメリット
- 在宅復帰を目標にできる
- 本格的な機能訓練(リハビリ)が受けられる
- 医療体制が整っているため、手厚い医療ケアが受けられる
- 初期費用がなく、民間施設と比べると安価
- 要介護1から入所可能
老健では、在宅復帰を目標に、本人の状態にあった本格的な機能訓練を受けられます。十分な広さのリハビリ室や性能の良い器具などの充実した設備を利用して、理学療法士や作業療法士といった専門職の指導のもと、質の高いリハビリを提供しています。
さらに、医師が常駐し、一定数の看護職員もいるため、胃ろう・経管栄養などの医療ケアが必要な方も安心して入所できます。
初期費用がなく、介護保険が適用される施設なので、民間施設と比べると安価で利用できる点も安心です。
同じ介護保険適用の施設である特別養護老人ホームは、原則要介護3以上の方を対象としているのに対し、老健は、要介護1から入所が可能です。
要介護度が上がるのを待つ必要がなく、より多くの方が利用できる可能性のある施設です。
「終の棲家にはできない」老健に入所するデメリット
- 終身利用ができない
- 生活支援サービスが充実していない
- レクリエーションやイベントが充実していない
老健は、在宅復帰を目指す施設のため、終身利用を前提とはしていません。
また、施設によって異なりますが、居室の掃除や洗濯、買い物代行といった生活支援サービス、レクリエーションやイベントなどの取組は、特別養護老人ホームや有料老人ホームに比べ、あまり充実していない傾向にあります。
要介護1~5の人が対象!老健の入所基準
老健には、どのような人が入所できるのでしょうか。
老健の入所基準は、下記の通りです。
原則65歳以上で、要介護1~5に認定されている人
自立や要支援1、2の人は利用できません。
また、入院での治療が必要なく、症状が安定しており、リハビリを必要とする方を対象としています。
老健は医療・看護体制が整っているとはいえ、介護施設です。入院治療が必要な方は対象外なので注意しましょう。
いくら必要?老健の費用とは
老健の費用は、どのくらいかかるのか気になる人も多いでしょう。下記では、老健にかかる費用の目安を紹介します。
入所時にかかる費用
老健は介護保険適用の施設のため、有料老人ホーム等でかかるような「入居一時金」は必要ありません。
そのため、初期費用は一切かかりません。
入所後にかかる費用
入所後は、月額利用料が発生します。月額利用料の内訳は、「①施設サービス費」や「②居住費・食費」に加え、理美容代などの「③日常生活費」などがあります。
入所後にかかる費用①施設サービス費
施設サービス費は、施設のタイプや居室の種類、要介護度などによって異なります。
たとえば、在宅強化型(老健タイプ)の介護老人保健施設の多床室の部屋(部屋タイプ)を、要介護3(要介護度)の人が利用した場合にかかる施設サービス費は、1日当たり954円(1割負担の場合)です。
参考:厚生労働省『どんなサービスがあるの? – 介護老人保健施設』
入所後にかかる費用②居住費・食費
居住費は、居室の種類によって異なります。多床室は光熱費相当のみですが、ユニット型個室・ユニット型個室的多床室・従来型個室は、光熱費相当と室料を加えた金額です。
食費は、施設によって異なります。
あくまで目安ですが、厚生労働省が公表する介護老人保健施設の居住費と食費の基準費用額(1日当たり)は以下の通りです。
部屋タイプ別、老健の居住費の目安 | |
---|---|
ユニット型個室 | 1,970円 |
ユニット型個室的多床室 | 1,640円 |
従来型個室 | 1,640円 |
多床室 | 370円 |
老健の食費の目安 | |
---|---|
食費 | 1,380円 |
入所後にかかる費用③日常生活費
理美容代などの日常生活費は、人それぞれ異なります。
介護サービス費や居住費などとは別の費用であることを認識しておきましょう。
老健は、同じ介護保険適用の施設である特別養護老人ホームと比べると、医療人員の配置が手厚い分、金額は高い傾向にあります。しかし、有料老人ホームなどの民間施設と比較すると安く利用できる施設です。
だれがいる?老健の人員配置
老健の人員配置は下記の通りです。
老健の人員配置 | |
---|---|
医師 | 常勤1以上(利用者100人) |
看護・介護職員 | 3対1以上(利用者3人に対し、看護・介護職員1人)うち看護は2/7程度 |
支援相談員 | 1以上(利用者100人) |
理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士 | 1以上(利用者100人) |
介護支援専門員 | 1以上(利用者100人) |
なにが受けられる?老健のサービス内容
老健のサービス内容は、食事や排泄介助、入浴介助、レクリエーションといった介護サービスに加え、医療ケアやリハビリテーションのサービスが手厚く受けられます。
老健の医療ケア
利用者100人以上の老健では、医師の常駐が義務づけられています。さらに、看護職員の人員体制もほかの介護施設より手厚いため、医師・看護師による医療ケアを受けられます。
老健のリハビリテーション
利用者100人以上の老健では、リハビリ職の配置義務があるため、在宅復帰に向けた 専門的なリハビリを受けることができます。
週2回以上、1回20~30分程度のリハビリが受けられます。
1回の時間は短めですが、その内容は実用的です。ベッドから起き上がって車椅子に移るリハビリや自宅の廊下や階段をイメージしての自力歩行リハビリなど、利用者が自宅復帰できるような実践的なリハビリが中心となります。
老健の介護サービス
介助が必要な方であれば、排泄介助や食事介助、入浴介助など、一人ひとりの状況に合わせた介護サービスが介護職員によって提供されます。
老健の居室タイプ
老健の居室には、以下の4タイプがあります。
従来型個室
ひとりの利用者が、ひとつの個室を使用します。
多床室
複数の利用者がひとつの部屋を使用します。個室ではありません。
ユニット型個室
ひとりの利用者さんが、ひとつの個室を利用し、リビングなどを共有します。
ユニット型個室は、10人程度のユニット(小グループ)にわかれており、台所やリビングなどの共同生活室で生活を営むことができます。従来型個室と比べて、ほかの利用者さんとの交流を取りやすいのが特徴です。
ユニット型個室的多床室
ユニット型個室的多床室は、ユニットごとの共同生活室があるのはユニット型個室と同じです。しかし、部屋は完全に仕切られておらず、パーテーションなどで区切られています。
※平成30年度より「ユニット型準個室」から「ユニット型個室的多床室」へと名称が変更されました
入所期間や入所条件などに違いあり!特別養護老人ホームと比較
同じ介護保険適用の施設である特別養護老人ホーム(以下、特養)との違いについて気になる方もいるでしょう。
特養と老健の比較は下記の通りです。
特別養護老人ホーム | 介護老人保健施設 | |
---|---|---|
施設の特徴 | 中~重度の要介護者が介護サービスを受けて生活する施設 | 要介護者に医療・リハビリサービスを提供して在宅復帰を目指す施設 |
入所条件 | 原則要介護3~5 | 要介護1~5 |
費用 | 入居一時金:なし 月額費用:5~15万程度 |
入居一時金:なし 月額費用:8~17万程度 |
入所期間 | 終身利用 | 原則3ヵ月 |
待機者数 | 待機者数が多く、入所まで数ヵ月~数年待つことも | 待機者数は少なく、比較的すぐに入所できる |
生活重視の特養と、医療・リハビリ重視の老健
特養は、原則要介護3以上の人が介護サービスを受けながら安心して最期まで生活する施設です。つまり、身体介護を中心に生活に合わせたサービスを行います。
一方老健は、要介護者が在宅復帰を目的とする施設のため、医療・リハビリが主軸となっています。
どちらも初期費用なし!月額費用は若干特養のほうが安価
どちらも介護保険適用の施設のため、初期費用はかかりません。
月額費用は、医療・リハビリ体制が整っていることから、若干老健のほうが高めですが、どちらも比較的安価に利用できる施設です。
終身利用の特養と原則3ヵ月入所の老健
特養は、終身利用を前提とした施設であるのに対し、老健は原則3ヵ月利用の施設です。
老健は、3ヵ月ごとに行われる担当者会議で、退所時期の検討が行われます。利用者の状態や家族の介護力によって入所期間は異なりますが、3ヵ月~6ヵ月利用の人が多いようです。
待機者数の多い特養と待機者数の少ない老健
待機者数を比べたところ、特養の多いところでは、1施設に数百名の待機者がいるのに対し、老健の多いところでは、1施設に数十人と、老健のほうがかなり少ないです。
そのため、老健のほうが待ち時間短く、入所できる可能性が高いでしょう。
参考文献
厚生労働省『介護老人保健施設(参考資料)』
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