さまざまな種類がある介護施設の中で、「特別養護老人ホーム(特養)」はその代表と言える施設です。
入居費用が手頃で知名度もあることから、現在の入居待機者は全国でおよそ30万人にものぼります。
この記事では、入居を考えている方や職員として働きたい方に向けて、特別養護老人ホームの特徴や入居基準、費用、メリット・デメリット、有料老人ホームとの違いなどを解説します。
目次
特別養護老人ホームとは
特別養護老人ホームは、在宅での生活が困難な要介護の高齢者を受け入れ、介護サービスを提供する施設です。「特養(とくよう)」と略して呼ばれます。
介護保険施設のひとつで、「介護老人福祉施設」ともいいます。
公的に運営されている介護施設であるため、比較的低価格で日常生活上の支援(入浴や食事、排泄など)や機能訓練、レクリエーションなどのサービスを受けることができます。
厚生労働省は特別養護老人ホームの概要として、「できるだけ在宅復帰してもらうことを念頭に、高齢者を受け入れる」ことを挙げています。
しかし、特別養護老人ホームには入所期間に制限がありません。
そのため、約7割の特別養護老人ホームで「看取り」や「ターミナルケア」が提供され、終の棲家としての機能を果たしています。
参考:厚生労働省「施設、在宅での看取りの状況に関するデータ」(2015/05/20)
特別養護老人ホームの入居基準
特別養護老人ホームに入居できるのは、原則として65歳以上で要介護3以上の方。
ただし、16種類の特定疾病により要介護3~5と認定された場合は、40歳から65歳の方でも入居対象となります。
入所は先着順ではなく、要介護度や本人の状況、家族の状況などを点数化され、合計点が高い順に優先順位が決まります。
2015年の介護保険制度改正により、特別養護老人ホームの入居基準は厳しくなりました。
自立の方や要支援1・2の方、要介護1・2の方は基本的に入居することができません。
ですが、要介護1・2の方でも、特例により入居が認められる場合があります。
- 認知症や知的障害、精神障害により、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られる場合
- 家族などによる深刻な虐待が疑われる場合
- 単身世帯である、または同居している家族が高齢・病弱等で支援が期待できず、さらに地域での介護サービスや生活支援の供給が十分に認められない場合
参考:横浜市「Q&Aよくある質問集」
特別養護老人ホームで月々にかかる費用
特別養護老人ホームには、入居時に支払う一時金がありません。
月々にかかる費用は主に下記の4つです。
- 施設サービス費
- 居住費
- 食費
- 理美容代などの日常生活費など
施設サービス費
施設サービス費には介護保険制度が適用されるため、利用者さんは1割の負担(一定の所得以上の方は2割または3割の負担)で利用できます。
2018年4月の時点でかかる1日当たりの施設サービス費の目安は、1割負担の要介護3の方の場合、695円~776円です。
参考:厚生労働省「どんなサービスがあるの? – 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」
なお、1ヵ月の間に支払った自己負担額の合計が一定金額を超えると、申請により超えた分のお金が払い戻される「高額介護サービス費」が適用されます。
そのため、最高でも月々にかかる費用は44,400円までです。
参考:厚生労働省「月々の負担の上限8月から(高額介護サービス費の基準)が変わります」
居住費・食費・日常生活費
居住費や食費については、決められた1日の金額はありません。
ただし、厚生労働省では下記の通りに基準費用額を定めています。
- 居住費:840円~1970円/日(部屋タイプにより異なる)
- 食費:1380円/日
1ヵ月でかかる費用の目安は、上記の施設サービス費・居住費・食費・理美容代などの日常生活費などを合わせて、合計5万~15万円程度となります。
利用者負担を軽減する制度
利用者の負担を軽減するための制度に、所得や資産などが一定以下である方を対象とする「特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)」があります。
これは、居住費と食費が負担限度額を超えた場合に、介護保険から支給されるというもの。
利用するには事前に市区町村に申請し、負担限度額認定を受ける必要があります。
参考:厚生労働省「サービスにかかる利用料」
利用者さんやご家族のためにも、費用の詳細だけではなく負担を軽減する制度についても、あわせてチェックしておくといいですね。
法令で決まってる?特別養護老人ホームのサービス内容
特別養護老人ホームで提供しているサービスは「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第四十六号)」によって定められており、それにのっとったサービスが提供されます。
そのため、どこの特別養護老人ホームであっても、下記のようなサービスを提供します。
食事・食事介助
利用者さんの心身の状況や好み、栄養を考慮した食事を適切な時間に提供することが義務付けられています。
そのため、特別養護老人ホームでは利用者さんの状態に応じた形態(きざみ食、ミキサー食など)で食事を提供します。
調理方法や温度、保温方法なども厳しく管理されています。
また、可能な限り利用者さんに離床してもらい、食堂で食事を摂ってもらう支援をする必要もあります。
介助が必要な方には、適宜身体介助も行います。
居室や共有部分の掃除・洗濯
掃除や洗濯は、定期的に行って利用者さんや施設の清潔を保ちます。
施設職員ではなく、委託業者が行う場合もあります。
生活相談
特別養護老人ホームでは、生活相談員の配置が義務付けられています。
生活相談員や介護職員は、利用者さんの心身の状況や置かれている環境を的確に把握するように努め、利用者さんやご家族の相談に適切に応じ、必要な助言を行う必要があります。
入居に関する相談や利用者さん同士のトラブル、家族関係について、サービスに関する要望、クレームなど、さまざまな相談を受け付けます。
排泄介助
特別養護老人ホームには、利用者さんの心身の状況に応じて、排泄の自立について必要な援助や適切なオムツ交換の支援を行うことが義務付けられています。
そのため、ある程度の決まった時間でトイレ誘導やオムツ交換などを行います。
2018年の介護保険制度改正で、排泄に介護を要する利用者さんへ自立や重度化防止支援に対する評価が創設されたことにより、施設の排泄への支援はよりいっそう強化されるでしょう。
入浴介助
特別養護老人ホームには、週に2回以上の入浴もしくは清拭(せいしき)を提供する義務があります。
自力で入浴できない方には、入浴の介助を行います。
寝たきりの方でも、機械浴や特殊な浴槽を使って入浴することができます。
機能訓練
利用者さんの心身の状態に応じて、日常生活を営むのに必要な機能の改善、もしくは減退を防止するための訓練が義務付けられています。
食事をとる際に行う動作などのADL(日常生活動作)の維持や改善を目指すものを中心に、施設によってさまざまな機能訓練を提供しています。
レクリエーション
特別養護老人ホームでは、教養娯楽設備を備えるほか、利用者さんのためのレクリエーション行事を行うことも義務付けられています。
娯楽としてだけではなく、リハビリの一環としても行われるレクリエーション。
定期的なレクリエーションから、季節ごとの行事、外部から人を呼んで行われるレクリエーションなど、各施設が工夫を凝らしています。
どんな違いがあるの?特別養護老人ホームの居室4タイプ
特別養護老人ホームの居室タイプは、4タイプあります。
なお、どのタイプの居室でも利用者さん3人に対して介護職員1人を配置する必要があります。
従来型個室
ひとりの利用者さんが、ひとつの個室を利用します。
多床室
個室ではなく、一部屋を複数の人で利用します。居住費が最も安い居室タイプです。
ユニット型個室
ひとりの利用者さんが、ひとつの個室を利用します。
ユニット型個室では、10人程度のユニット(小グループ)にわかれており、台所やリビングなどの共同生活室で生活を営むことができます。
従来型個室と比べて、ほかの利用者さんとの交流を取りやすいのが特徴です。
ユニット型準個室
ユニットごとの共同生活室があるのはユニット型個室と同じですが、部屋は完全に仕切られておらず、パーテーションなどで区切られています。
特養に入居する方のメリット・デメリットとは?
特別養護老人ホームに入居するメリット・デメリットについてご紹介します。
メリット
- 月々にかかる費用が安く済み、入居一時金も必要ない
- 入所期間に制限がない
- 要介護度が高くても、手厚いサービスが受けられる
介護保険施設のため、月々の費用は安い傾向にあります。
有料老人ホームなどのように、入居時に施設に支払う一時金もありません
介護老人保健施設には「原則3ヵ月」などの入所期間の前提がありますが、特別養護老人ホームは入所期間に制限がありません。
看取りを行っている施設も多くあり、「終の棲家」として利用する方も多くいます。
原則として要介護3以上が入居条件となっているため、ほかの施設と比べ、要介護度の高い利用者さんが多いです。
要介護度が高いとそれだけ身体介助の必要があるので、介護職員やそのほかのスタッフは、身体介護技術が自然と高くなり、高い技術を提供してもらえます。
また、法令によって提供サービスが定められているため、要介護度が進行しても手厚いサービスを受けることができます。
デメリット
- 入居基準が厳しい
- 医療体制が整っていない施設が多い
- 待機者数が多く、入居まで時間がかかる場合も
2015年の介護保険制度改正により、特別養護老人ホームに入居できるのは原則65歳以上の要介護3以上の方となりました。
今まで入居できていた要介護度の方であっても、入居できない場合があります。
特別養護老人ホームでは、医師の配置や看護師の夜間常駐は義務付けられていないため、医師がいなかったり、夜間時に看護師が不在だったりする施設もあります。
このように、医療体制が整っていないことから、専門的な医療ケアが必要な方は、入所を希望しても受け入れられないことがあります。
安い費用で手厚いサービスが受けられるため、特別養護老人ホームはとても入所希望者が多くいます。
先述したように、特別養護老人ホームの入居待機者数は全国で約30万人。
待期期間は施設によってバラバラで、すぐに入居できる場合もあれば、数ヵ月かそれ以上待たされる場合もあります。
介護職員が特養で働くメリット・デメリットとは?
特別養護老人ホームで働く介護職員も、どんなメリット・デメリットがあるのか気になりますよね。
ここからは、特養で働く方のメリット・デメリットをご紹介します。
メリット
- 介護技術をしっかり身に付けられる
- 給料が高いところが多い
- 安定した職場である
原則要介護3以上という入居基準がある特別養護老人ホームでは、平均的な利用者さんの要介護度も高くなります。
そのような環境から、他の施設と比べて身体介護を行う場面が多いため、介護技術をしっかりと身に着けることができます。
厚生労働省のデータによると、常勤職員の月給・日給が最も高いのが特別養護老人ホームでした。手厚い賞与や手当をもらえる場合が多いようです。
参考:【2018年最新版】介護職員の給料、一番月給が高い施設形態はどこだ?
特別養護老人ホームは、運営主体が地方公共団体や社会福祉法人です。
とくに社会福祉法人では、母体がしっかりしている場合が多いです。施設設備に対する補助や税制優遇措置などもあるため、比較的安定した経営体制といえるでしょう。
働くスタッフからすると、安心できる職場ではないでしょうか。
デメリット
- 腰痛になるリスクが高い
- 利用者数が多いため、多忙なことが多い
利用者さんの要介護度が高いことは、介護スキルを身に付けるためのメリットでもありますが、無理な身体介護が腰痛を発症させるという点でデメリットでもあります。
特別養護老人ホームでは、入浴介助や排泄介助などの身体介護が多いです。腰痛を発症させるリスクが高いため、十分注意する必要があります。
とくに従来型の特別養護老人ホームでは、利用者数が多いことに加え、身体介護が必要な方が多く、忙しい傾向にあります。
介護業界の慢性的な人手不足も加わり、ほかの施設と比べてもスタッフの仕事量は少なくありません。
有料老人ホームとの違いはどこ?
特別養護老人ホームと同じく、終の棲家のイメージがある「有料老人ホーム」。両施設には、どのような違いがあるのでしょうか。
特別養護老人ホームと有料老人ホームを比較してみましょう。
運営主体を見てみると、特別養護老人ホームは地方公共団体や社会福祉法人であるのに対して、有料老人ホームは主に民間企業です。
運営主体の違いは、介護職員にとっても無視できません。
地方公共団体や社会福祉法人が運営主体の特別養護老人ホームは、公共性が高くて安定した職場だといえるでしょう。
一方で民間企業である有料老人ホームでは、独自の手当てなどを用意して職員が働きやすいように工夫しているところもあります。
有料老人ホームの入居基準は、施設によってさまざまですが、おおむね65歳以上であれば、自立の方から要介護5の方まで幅広く入所することができます。
施設数が多いため、希望してからすぐに入所できるのも特徴です。
編集者より
利用者さんにとって「終の棲家」にもなりうる特別養護老人ホームでは、介護度の高い方への身体介護スキルはもちろんのこと、看取りやターミナルケアの知識も身につけておく必要があります。
介護のプロフェッショナルとして、ぜひ勉強しておきたいところですね。
参考文献・サイト
- 電子政府の総合窓口e-Gov「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」(2018年7月19日)
- 厚生労働省「介護老人福祉施設」(2018年7月19日)