介護に正解はありません。あるのは、現実の過程と結果だけだと思います。
良かったのか悪かったのか、その判断がつかないことも無数にあります。
「介護士は、考え過ぎて悩みすぎる人には向かない」と、仕事を始めた頃に先輩に言われました。
目次
ショートステイに現れた、大変な母と疲れた娘
私が、ショートステイを担当していた時のことです。
仕事である程度慣れていても、どうしても大変なお年寄りの方はやはりいらっしゃいます。
そのご家族は「毎日自分の悪口を、近所の色んなところで話される……」と、真っ青な面持ちで、お母さまを連れて私の前にいらっしゃいました。疲れ切っていらっしゃった。助けを求めて、施設にいらしたのでしょう。
しかしそのお母さまと接することは、体力的にも精神的にも堪えるものがありました。
施設には大変な方がさまざまにいらっしゃいます。5分おきにコールを押して職員を呼ばれる方、歩行困難にも関わらず突然歩き出される転倒リスクの高い方、暴力行為のある方……。
それぞれにどういう対応をしていくか、悩みどころです。
その中でも、お母さまは断トツでした。お母さまは、職員に話しかけては延々悪口を話され、仕事に差し支える旨をやんわり伝えると、「もう帰るから」と歩き出されてしまい、探しに行かなくてはいけなくなるのです。
連れてこられた娘さまの痛々しいお姿を拝見したので、私は何とか力になりたいと思いました。ショートの間だけでも、彼女にゆっくり休んで頂きたいと思っていました。
私は本心では、ご入居者様がご家族と暮らせるのなら、それが一番幸せだろうと思っています。
ショートになどいらっしゃらず、どうかご家族に愛されてくださいと思っています。
でも、そうではないケースも、あるんですよね。
自分一人の気持ちでは、決めてはいけないこともある
さて、お母さまの介護は、施設の職員の手に余るものがありました。
大変だから、みんながみんな、受け入れたいとは思わなかったのです。「それでなくても大変なのに!」という状況では、優しくなれない時もありますよね。
「出来るだけのことをしよう、受け入れていこう」これは私個人の考えであり、個人プレーでした。
理想だけでは、現実は回らない……。お母さまの介護の大変さに、とうとう上司が「無理です!」と、一方的に受け入れを拒否してしまいました。
考えてみてください。私たちは家に帰ることが出来ます。いくら仕事が大変でも、ゆっくり出来る時間がある程度確保されている。
私は、あの日、真っ青な顔でいらっしゃった娘さまに、「出来るだけのことをしてみます」とお伝えしました。きっと、光が差した気持ちでいらしたのではないかと思います。
でも、施設が受け入れを拒否してしまった。どれだけ悲しい気持ちをされただろうかと、数年経った今でも、時々思い出します。
ただただ、彼女が幸せでありますように、祈っています。願っています。
大切なのは、出来ることから積み重ねていくこと
私はこの一件を通じて、理想を話すのではなく、実行出来るに至ってこそ力になれるのだということを痛感しました。
自分や施設に助けられる状況が作れないのであれば、言ってはいけない。先に努力してから、ダメならダメ。
今は経験が長いので、どこへ行ってもある程度は話を聞いてもらえます。
主任に状況を説明し、実際に主任にも入ってもらって大変さを理解してもらい、スタッフを回すように働きかけます。
もちろん、他のユニットも仕事が楽なわけではないので、そこも理解して日ごろから感謝を示しておく。
事務所にも相談を持ち掛けます。自分だけが大変な思いをすればどうにかなる、という問題ではないですから、たとえやる気のない上司が相手でも、喧嘩にならない配慮をしながら話を持っていきます。
もちろんダメならもう、仕方ないのですが……。チームである以上、それも大事なことです。
出来ることからしていく、毎日を大切に誠実に積み重ねていく。自分に実行出来ているかは分からないけど、心がけていることです。
個人プレーにならないように、力になって欲しい時に力を貸してもらえるように、日ごろから周りに気を配っておく。これが一番大事だと思います。
どんなに大変な毎日でも、ご家族の方々が泣く思いで助けを求めていらっしゃることを、忘れないでいたいですね。