「地域包括ケアシステムとは?」
そんな質問をされたら、みなさんはなんて答えますか?
今回は、2015年10月4日(日)、都内で開催された。以前にインタビューにて紹介した秋本可愛さん率いるHEISEI KAIGO LEADERSのイベントレポートをお届けします。
目次
メインスピーチは国際医療福祉大学大学院教授 堀田聰子さんから
当日は90名にものぼる参加者が集い、職種は介護職員や医師、看護師、ケアマネなど、介護福祉の分野を中心に集まっていました。
年代は20代30代が中心で、なかには「HEISEI(平成)~」ではありますが、50代後半の方もいらっしゃったそうです。
そんなイベントは、国際医療福祉大学大学院教授の堀田聰子さんの講演からスタートしました。
堀田聰子
東京大学社会科学研究所特任准教授、ユトレヒト大学客員教授等を経て2015年4月より国際医療福祉大学大学院教授。専門はケア人材政策、人的資源管理。博士(国際公共政策)。2010年よりBuurtzorg Innovator、2015年より地域包括ケアステーション実証開発プロジェクト・代表世話人、地域包括ケアイノベーションフォーラム・事務局を務める他、現在社会保障審議会介護給付費分科会及び福祉部会、地域包括ケア研究会等委員。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2015」リーダー部門入賞。
分かっているようで分からない「地域包括ケアシステム」
地域包括ケアシステムの説明については、厚生労働省のウェブサイトに任せるとして、本記事では講演で印象的だったフレーズをご紹介したいと思います。
「介護職員の離職率が低いところは、地域に開かれている事業所という傾向が分かっています」
「これまで日本は病院に資源を投入してきましたが、これからはQOLを持続可能なカタチで高め続けていくことが求められる。改めて市民社会の原点に立ち戻っていかなければいけません」
「高齢者の割合は2040年の時点でも高い。2025年で終わりじゃないんです」
2025年問題と盛んに取りざたされていますが、2025年を過ぎれば解消されるわけではなく、「2025年で終わりじゃない」としきりに繰り返し仰られていたのが印象的でした。
講演の終盤では、オランダのBuurtzorg(ビュートゾロフ、オランダの在宅ケア組織)についてのお話しがありました。
「裁量を与えると、責任感が生まれてくる。組織構造とビジネスモデルを考え、洗練されたモデルです」
「ビュートゾロフがはじまったときには、ストッキングを脱がすのに○円といったように、細かく設定されていました」
「これから大切なのは『アカウンタビリティ(説明責任)』。生産性の見える化を行い、コストを下げていくことが求められます」
介護は人件費が大きな割合を占める事業です。訪問系の人件費割合の高さ約7割と群を抜いています。そのため、訪問系は非正規の職員が多い構造になっています。
介護報酬を上げるか(国民の税負担を上げるか)、介護職員一人当たりの生産性を高めるか、の2点です。
前者については法律を変える必要がありますが、後者は小さな事業所であれば職場でもできる方法です。
一人当たりの生産性を高める方法については、ICTの活用により、省人化、効率化を図り、人件費をいかに下げるかが求められます。
福祉への導入は進みにくいものですが、解決策としては既に存在しているのです。
ビュートゾロフについてくわしく知りたい方はこちらの記事をご覧ください
地域看護師が2006年に起業し,翌年1月に1チーム4人で始まったBuurtzorgは,その後急速に拡大。2012年4月現在,九州ほどの広さのオランダ全土で約450チーム,看護師・介護士(以下,ナース)約5000人が活躍している。管理部門はわずか約30人,間接費は8%と他の在宅ケア組織の平均25%を大きく下回る。利用者は約5万人,2012年の売上高は約1.8億ユーロを見込む。クライアント当たりのコストは他の在宅ケア組織の約半分,全国の在宅ケア組織のなかで利用者満足度は第1位,従業員満足度も高く最優秀雇用者賞を受賞。現在,オランダのすべての産業を通じて最も成長している事業者といわれる。
出典:https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02986_04
地域包括ケアシステムの構築に必要なこと
利用者本位の真の連携を行うには
「地域包括ケアシステムと多職種協働はセットで言われることが多いですが、連携と言っているうちに本来の目的を忘れてしまうケースが見られます」。
専門職に問われること
「地域での巻き込み方については、ケアする側だけではじめないことです。連携がうまくいっている地域には、防災をテーマに情報を集めて連携を進めている地域もあります。
ケアを中心にすると、『ケア=高齢者のためか』、と思われてしまいます。ですので、子どもと結びつけるのがキモだったりします。
これからの時代、専門職は急速に連携のコミュニケーション能力が問われるようになると思います」。
若い世代へ
「問い続けることです。未来は自分たちで切り拓くこと。制度のせいにしないこと、事業のせいにしないこと。
あとは夢を語るだけで終わらせないこと。変化のスピードをあげたいなら、既存の仕組みや制度を、なぜ選ばれたか、なぜ選ばれなかったかを勉強していってください」。
ひとりひとりが社会をつくりあげるということ
イベント参加者の訪問看護センターに勤める松村裕香さんに伺うと、「地域包括ケアセンターから電話がかかってくることがあるが、具体的にどんな仕事をしているところかわからず、知りたかった」と回答され、他の方に伺っても「つまるところ、何?」という声が多かったのが印象的でした。
このイベントを主催した秋本さんは、
「至る所で地域包括ケアシステムの構築の重要性が言われながらも、それって結局何?って、誰もがそう思っているのではないかと思い、そのままタイトルにしました。笑」
と話、まさに参加者の想いを代弁したようです。
イベントを通じて実現したいこと
続けて、秋本可愛さんはイベントを通じて実現したい社会について、
「今回のイベントで、結局はこうなれば正解、不正解という答えはなくて、自分たちで問い続けることの重要性を堀田さんは仰られていました。
どんな社会を実現したいのか、堀田さんの学びからも、この問いも一人ひとりが考える必要があり、その先に全員が社会の一員である社会をつくりたいですね。
今はどこかでつくり手と、受け手に別れている気がします。だからこそ介護一つとっても、現場と本社、上司と部下などの関係の中で不平不満が尽きません。
今回のような色んな職種や年齢関係なく対話したり一緒に考えられるフラットな場が、みんなで社会をつくる一手として貢献できていたら嬉しいです」
と語りました。
「連携」「多職種協働」が注目される地域包括ケアシステムですが、まずはひとりひとりが考え、社会のためにできることをしていくのが大切なのだと感じました。
以上、イベントレポートをお届けしました!