2025年問題。団塊世代が75歳以上の後期高齢者を迎える年だ。その2025年問題に本気で立ち向かう、ある20代の若者がいる。
介護のお仕事研究所は、介護に志を持った若手が集う「HEISEI KAIGO LEADERS」を運営する、Join for Kaigo代表 秋本可愛さんに話を伺った。
目次
2025年問題を解決する若者を
「はじめは介護系の学生だけの飲み会からはじまったコミュニティだったんです」。
いまや、日本の介護を引っ張っていく所帯になろうとしている。それが「HEISEI KAIGO LEADERS」だ。
・HEISEI KAIGO LEADERSのサイト(facebookページ)
「HEISEI KAIGO LEADERSは、超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティです。2025年に向けて、今、私たちは何を学びどんな姿で10年後を迎えたいか考え、定期イベントや、KAIGO MY PROJECTというプログラムを行っています」。
HEISEI KAIGO LEADERSの参加者は介護士、看護師、医師などの医療福祉現場で働く若手や学生のほか、他業界からの参加者も多く、IT、教育、人材、金融など様々だ。参加者の多くが20代と、年齢層が若いのが特徴だ。
「HEISEI KAIGO LEADERSをはじめた頃は、30代以上の方は敢えてお断りしていました。同世代のつながりを重視していた点もありますが、知識や経験が乏しい私たち世代はどうしても大人の人に頼ってしまい、『教える・教わる』の関係ができてしまいます。介護業界が多くの課題を抱え、今後さらに悪化すると言われているなかで、過去の延長線上に未来はあるのかと疑問を抱き、教わるだけでなく自ら考え出す力を養う必要があると考えたからです。何も知らない状態だからこそ、ふつうなら見過ごしてしまいそうなおかしなことにも気づくことができ、全く新しい発想で考えられることはひとつの可能性だと思っています」。
たとえば、秋本氏と同じ1990年(平成2年)生まれの場合は、2025年には35歳になる。つまり、今の若者は2025年には、労働世代として脂が一番のっている世代になり、業界を牽引する一員になる存在だと語る。
介護への想いを出せる場
秋本氏は、「介護業界の課題を解決したいと思っている人はたくさんいます。しかし、その想いを出せる場がないんです」と話す。
誰しも介護への想いや、介護の問題を解決したいという想いはあるが、とくに若手は、現場でそのことを声に出すことや、想いの実現に向けて行動に移せないこともあるそうだ。
そこで、HEISEI KAIGO LEADERSがその役割を一手に担う。意識していることは「サードプレイス」。スターバックスも掲げるこの理念は、第一の家、第二の職場・学校につづく、第三のコミュニティ(場)となることを意味する。
「それぞれが現場で感じる問題意識や想いを共有できる、居心地の良い『安心できる場』をつくることを意識しています。現場だけではどうしても視野が狭くなってしまうため、色々な情報や繋がりによって世界を広げ、参加者の方それぞれが何かひとつでも新たな気づきや視点を現場に持ち帰ってもらえるように工夫しています」。
想いから一歩を踏み出す
イベントに加え、今年1月より想いをカタチにする3ヶ月間のプログラム「KAIGO MY PROJECT(マイプロ)」を開始した。
KAIGO MY PROJECTのプログラムベースには、「マイプロジェクト(マイプロ)」が用いられている。マイプロとは、慶応義塾大学SFC井上英之研究室によって開発・実践されてきた実践活動を伴う教育手法だ。自分自身の問題意識や原体験に基づいて、ずっと挑戦してみたかったことや身近な課題に、自発的に取り組めるプロジェクトを立案し、実現に取り組んで行く。
これまでにHEISEI KAIGO LEADERSに参加した人の多くが、現状に問題意識を持っていたり、何かをやりたいと思っており、その想いを実際にカタチにしていくためにマイプロを開始した。
2015年の1月からトライアルをスタートし、4月から1期目がはじまった。1期生には元介護士や学生、医師、看護師など10名が集まった。毎月行っている体験イベントには東京のみならず、静岡、長野や大阪などからも参加者が集まるほどの盛況ぶりだ。
現在は2期目のメンバー募集が開始されており、第1回は7月4日(土)から、最終回の第8回 9月27日(日)まで開催される。
・KAIGO MY PROJECT 2期メンバー募集~想いをカタチにする3ヶ月~
マイプロがきっかけで、アクションを起こせるようになった介護士
1月からスタートしたトライアルプログラムのメンバーのなかに、昨年6月にうつ病を患った男性介護士がいた。幸いにも昨年10月には服薬をしなくてもよくなったが、自分に自信を持つことができないなかで、「自分を変えたい」という強い思いからプログラムに参画した。
彼がマイプロとして掲げたのが「オンリーワン介護士プロジェクト」。
これは、介護士が自身の趣味や特技を活かして、オリジナルのケアを実施するものだ。介護士自身もケアを通じて自分を表現できることで、介護がもっと楽しくなるのではないかという彼の思いから生まれた。
まずは自分自身が「オンリーワン介護士」になることを目指した。趣味であったアロマの豊富な知識と、以前の職場で行っていたオイルマッサージとタクティールケアを合わせ、「癒しの介護士」を目指し、まずは自身の現場の利用者に提供してみようということになった。
いざ、職場で実施してみたところ、とある60代のベテラン職員に、「私はこの匂いが好きじゃない。ご飯を食べる前に手を洗う手間が増えるじゃない!」と反対された。
彼は「認知症のケアに効く香りを選んでいたのに、できない理由は全てスタッフ都合じゃないか!」と思ったという。上司に反対されたその場では何も言葉を発することができなかった。
反対された日の夜にマイプロのメンバーに相談し、どうしたら実施できるかを考えた。翌日、考案した解決策である「利用者ではなく指摘を受けた上司にアロママッサージをすること」を実施した。結果、反対していた上司に大絶賛され、「他のフロアでやること」と条件付きではあったが、承諾を得ることができた。
成功体験を得られた彼は、「マイプロに参加したことで、自分のやりたいことが見つかり、それを周りの人に話して、これまでは考えているだけだったけど、実際に行動出来るようになった人生の転機だ。」と話したそうだ。
この事例について秋本氏は「上司に否定されてしまえば、自信がなくなり、自ら行動を起こせなくなってしまいます。それでも翌日に彼が動けたのは、彼自身を受け入れ、背中を押してくれる仲間の存在があったからだと思います。自分に自信を持てなかった人が、この場をきっかけにこれまで知らなかった自分自身に気付けたり、想いから行動に移せるようになっています。小さな変化のように見えますが、その人にとってはとても大きな変化で、この積み重ねはとても大きな変化に繋がるのではないかと思っています」と、マイプロの効果について語った。
想いをつなげ、介護を変える
いまや秋本氏は多くの介護関係者から注目を集めており、「秋本さんのところにいる人は意識が高い。でもうちの施設はそうではない」と言われることもあるという。
「今はただ、その想いが見えていないだけなんですよね。誰もが環境さえあれば、その想いを声に出すこともできる。想いをカタチにするための一歩も、『大丈夫だ』という安心感があれば自然に踏み出すことができるような気がします」。
さらに、秋本氏はこう続ける。
「どんなに頑張っても私ひとりでは介護業界の問題をなにひとつ解決することはできません。現場で見つけた課題を抱えきってしまって不満に変えてしまうのではなく、ひとりひとりが解決への一歩を踏み出すことができれば、この業界はもっと良くなるのではないかと思っています」。
介護の問題は、国家レベルの大きな問題であり、且つ職場レベルのきわめて身近な問題でもある。カリスマリーダーの登場を待つよりも、小さくても一歩を踏み出せる存在が、問題解決の大きな一歩となるはずだ。
株式会社Join for Kaigo 代表取締役 秋本可愛(Kaai Akimoto)
1990年12月22日生まれ。山口県出身。大学2年生の春に起業サークルFor Successでプロジェクトチームsep-arrangeを結成 。認知症予防に繋がるフリーペーパー「孫心(まごころ)」を発行し、全国の学生フリーペーパーコンテストStudent Freepaper Forum 2011にて準グランプリを受賞。2013年4月、株式会社Join for Kaigoを設立。超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ「HEISEI KAIGO LEADERS」を運営。
http://heisei-kaigo-leaders.com/
https://www.facebook.com/HeiseiKaigoLeaders