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「予測不可能であることが日常」映画『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル〜最期に死ぬ時。』公開記念・関口祐加監督とヒューゴ・デ・ウァール博士のトークイベント・レポート!

ドキュメンタリー映画『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル~最期に死ぬ時。』の公開を記念して、関口祐加監督と本作に出演しているヒューゴ・デ・ウァール博士のトークイベントが、日比谷図書文化館にて2018年7月24日(火)に開催されました。

パーソン・センタード・ケア(認知症の本人を尊重するケア=P.C.C.)」や、よりよい認知症ケアのあり方を考える同イベントに、「介護のお仕事研究所」編集部が参加しました。

「大切なのは楽しむこと」イギリスの認知症専門医ヒューゴ・デ・ウァール博士が語る認知症ケアのコツドキュメンタリー映画『毎日がアルツハイマー 2』と『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル』に出演しているヒューゴ・デ・ウァール博士。 ...

作品紹介

動画投稿サイトYouTubeで200万人以上が視聴した動画から生まれたドキュメンタリー映画シリーズ『毎日がアルツハイマー』。
認知症の母との日常を記録した同作品は、深刻になりがちな介護や認知症がユーモアあふれる視点で描かれているため、「認知症の見方を変えた!」ともいわれています。
介護に悩む家族や介護・医療従事者など多くの人の共感を呼び、日本の介護に関わる人に元気と笑顔を届けている映画です。

2012年に1作目が公開された後、2014年には続編『毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編』が、2018年7月にはシリーズ完結編『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル ~最期に死ぬ時。』が公開されました。

関口監督は、人生の最終ステージで待ち受ける「死」をテーマに、シリーズ完結編となる『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル ~最期に死ぬ時。』を製作。本作では、心から満足が得られるような「自分らしい幸せな死」を求め、国内外の認知症ケア施設などを撮影し、命の責任や死に方の選択肢などについて真正面から問いかけます。

『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル ~最期に死ぬ時。』は、9月より神奈川、愛知、大阪・広島などで順次公開され、東京・ポレポレ東中野では10月20日(土)から再上映が決定しています。詳細は作品公式サイトをご確認ください。
◎「毎日がアルツハイマー」シリーズ公式サイト 

登壇者プロフィール紹介

登壇者である関口監督とヒューゴ博士のプロフィールを紹介します。

関口祐加監督

関口祐加(せきぐち・ゆか)監督
日本の大学を卒業後、オーストラリアに渡り映画監督としてデビュー。メルボルン国際映画祭ドキュメンタリー部門グランプリ、サンフランシスコ国際映画祭ベスト・ドキュメンタリー歴史部門など数多くの賞を受賞する。
2010年、オーストラリアで29年間を過ごした後、認知症の症状が現れはじめた母の介護のために帰国する。2012年、母との生活を映像に記録した「毎日がアルツハイマー」、2014年続編の「毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスヘ行く編」、2018年7月シリーズ完結編となる「毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル ~最期に死ぬ時。」を発表した。

ヒューゴ・デ・ウァール博士

ヒューゴ・デ・ウァール博士
イギリス国立認知症ケア・アカデミー「ハマートンコート」の施設長。
「毎アル」作品のシリーズ2とファイナルに出演している。
1989年にオランダ・アムステルダムの医学部を卒業後、イギリスに渡り、精神医学を学び続ける。1998年、ノーフォーク州で認知症の集中的ケア・サポートチームを起ち上げ、認知症集中ケア・ユニットとリンクさせ、国内外で高い評価を受ける。英国ロイヤル・カレッジ精神科医・高等教育アカデミーのフェローであり、2011年からは、世界精神科協会の教育部門のメンバーになっている。

監督・博士の熱いトークイベントをレポート!

『毎日がアルツハイマーザ・ファイナル~最期に死ぬ時。』の公開を記念して行われた、ヒューゴ・デ・ウァール博士と関口祐加監督のトークイベントの様子を紹介します。

関口監督とヒューゴ博士、2人の出会い

はじめに関口監督が2人の出会いについて語りはじめました。
2人の出会いは2013年「毎日がアルツハイマー2」の撮影時。場所は、イギリス北部のノーリッジでした。
当初はヒューゴ博士が映画に出演する予定はなく、ノーリッジにある大学で教授たちを撮影している時にヒューゴ博士の話を聞き、急遽出演依頼をしたそうです。
関口監督は、ヒューゴ博士と出会って5分で「自分と同じタイプの人間にちがいないと感じ、すぐに信頼できた」と話します。
一方、ヒューゴ博士は、秘書から「変な日本人がインタビューしたいらしいんだけど、やめたほうがいいかも。何を聞かれるかわからない(笑)」という冗談とともに関口監督の紹介を受けたそうです。
俄然、興味を持ったというヒューゴ博士。実際に会ってみると、関口監督は5分もしないうちにジョークを言います。「ああ、自分と同じ。信頼できる人だとすぐにわかった」と監督の印象をユーモアを交えて語りました。

認知症ケアのコツは探偵になること!?

▲そんな出会いをした2人は、とても強い信頼関係で結ばれていることが伺える

関口監督は、「母のことを対等な目線で相談できる先生との出会いは初めてで、ヒューゴ博士は私にとってとても大きな存在」と話されています。

ヒューゴ博士の言葉に多くの勇気をもらったと関口監督。
その具体的なエピソードとして、関口監督はお母さん(以下、ひろこさん)のことについて語りました。

関口監督:「母は毎年8月になるといつも、テレビなどの影響で敗戦のことを思い出します。そして、心の大パニックが起きるのです。そのことをヒューゴ博士に相談すると、ヒューゴ博士は『認知症のエッセンスはは予測不可能だから、今年はそうだとしても、来年そうとは限らない。毎年同じではないはず』と言ってくれたんですね。
次の年の夏、まさに母は全く戦争体験を思い出さず、高校野球の話をしました。

また、ヒューゴ博士は認知症ケアのコツとして『探偵になろう』と言ったんですね。
『母がなぜ今こうしているのだろう』と考えることは、母のためでもあるけれど、私も探偵のような気持ちになって、楽しむことができます
ヒューゴ博士の言葉は認知症ケアを楽しくしてくれているのです。

ヒューゴ博士は、そのような『探偵になる』といった認知症ケア、楽しい認知症ケアについてどう考えますか?」

ヒューゴ博士:「認知症という診断を受けたとき、それは診断だけなのです。
医師から、症状やアプローチ方法を色々と言われるかもしれないけれど、日常生活は予測できるものではないですよね。『予測不可能であることが認知症の人の日常』なのです。
たとえば、認知症の人のある問題に関して、解決策が今日みつかったとしても明日は効かないかもしれません。
毎日『なにが効果的なのか』と探偵のように解決策を探し続けることになると思います。
ですから、だれもこの解決策がベストだと断言することはできません。
認知症の人によって解決の仕方はそれぞれちがうのです。

しかし、認知症の診断を受けたからといって人格は変わりません。私も重度の認知症の患者さんのケアをしています。
施設では、家族から、患者さんのいままでの人生を詳しく聞いているので、しぐさなどの非言語的なコミュニケーションを通して、患者さんが考えていることをある程度予測することができます。
私は『医師としてではなく、人間として』患者さんと接しています
医師ではなく自分として接することで、相手も私を人として見てくれ、つながることができるのだと思います。
それが、認知症の人とのつながり方といえるでしょう。」

認知症ケアでは、介護者のパーソナリティーも大事

関口監督は最近の母ひろこさんの様子を語りはじめました。
猛暑のせいか、午前中は元気のないひろこさん。
ところが、ある朝、マフラーや手袋をつけて冬のコートを着て部屋から出てきて、キラキラした顔で関口監督に「だいちゃんのところへ帰ります」と言いました。
だいちゃんとは、亡くなった関口監督のお父さんで、ひろこさんの旦那さんのこと。
ここでの問題は「だいちゃんのところへ帰ります」と言ったことではなく、マフラーや手袋などをどうやって脱がすかということです。

ひろこさんは、その時には関口監督のことを自分の娘と認識していないため、監督は介護職員になりきって『ひろこさーん、これからお昼なので、お昼ご飯いかがですか?』と声掛けをしたそうです。
するとひろこさんは、『ああ、そうですか』と言ってだいちゃんのところに帰ることを忘れて、マフラーや手袋など冬の衣類を脱ぎはじめました。
このような予測不可能な状況への対応、介護を『とても楽しい』と語る関口監督。
うまくいかないことのほうが多いけれども、方法を考えることが大好き』と自分の性格を鑑みて、『認知症ケアは介護する人のパーソナリティーこそ重要なのではないか?』とヒューゴ博士に質問しました。

ヒューゴ博士は、関口監督の性格を「とても明るくいたずら好きで、退屈になると飽きやすい。そして事件が起きると元気になる人(笑)」と分析。
そのような関口監督の性格を『認知症介護にうってつけの性格』と話し、介護者のパーソナリティーが大切なことを語ります。

ヒューゴ博士:「ただ、一般的な介護者は関口監督のようにはいかず、予測不可能な認知症ケアに疲れることも多々あると思います。不安なことがあると、確実性が欲しくなったりしますよね。
しかし、長年にわたって続く可能性がある認知症ケアにおいては、確実性を求めることをあきらめる必要があります。
勝てる戦は戦い、そのほかの戦は時にはあきらめることも大事です。『あきらめる・受け入れる』ことを私は『謙虚さ』と言っていますが、このような謙虚さは大事です。
介護者が『謙虚さを受け入れ、戦えるところで戦う』という意識を持つことが認知症ケアにおいて大切なのではないでしょうか。」

適切なケアや環境によって、認知症の症状を遅らせる

関口監督はひろこさんを自宅で介護をして、9年目になります。
周囲の人から「ひろこさんの認知症はそんなに進んでないね」と驚かれることも増えたそうです。
日本の医師たちからは、「ひろこさんの認知症はアルツハイマー型だけではなく脳血管症からくる認知症との混合型であるため、認知症の進行がゆるやかである」と言われています。

関口監督は「そう言われると、本当にそうなのかなと疑問に思うんですね。『私のケアの在り方は母の認知症の症状を遅らせることに貢献してないの?』って。医師をも疑う不遜な態度です(笑)」と語り、認知症ケアのクオリティに関してヒューゴ博士に質問しました。

ヒューゴ博士は自身が施設長である、ハマートンコート認知症ケアアカデミーを例に、介護者や環境が認知症の人にもたらす影響について語りました。
ヒューゴ博士:「施設に来た患者さんのうち、30%~40%の人は最初の2~4週間で症状が改善します。それは、薬を増やしたということではなく、『整備された施設に入り、その人に合ったケアを受けられた』ため、症状が改善するのです。
関口監督のお母さんのひろこさんの認知症の症状がゆるやかなのは、関口監督の貢献がとても大きいですね。関口監督は単にケアを提供する人にとどまらず、ユーモアのある接し方でひろこさんに笑いをもたらしています。そのような関口監督とひろこさんの関係性が、認知症に良い影響を与えていると私は思います。」

ハマートンコートで実践しているパーソンセンタードケアとは

さまざまな観点から認知症ケアについて語った関口監督とヒューゴ博士。トークイベントも終盤になり、参加者からの質問を受け付けます。
ここでは、参加者から出た質問のうちのひとつを紹介します。

Q.ヒューゴ博士が施設長をされているハマートンコートでは、どのようなケアをしているのですか?

A.ヒューゴ博士:「ハマートンコートでは『パーソンセンタードケア』を実践しています。
先日、ある看護師から患者のAさんのことで相談を受けました。
Aさんはいつも昼過ぎに起きてくるので、心配だというのです。
パーソンセンタードケアのもと、『起きたくなければ起きなくてもいい』という方針でハマートンコートは運営されています。
だから、昼過ぎまで起きないことや計画通りにいかないことを問題視しているのは、サポート側の看護師なのです。朝起きないことで朝食が遅れ、さらに昼食や夕食も遅れることになり、決められたタスクがこなせなくなって、スタッフにしわ寄せがいきますからね。
そのようなことで看護師から文句が出たとき、私は必ず『あなたたちの視点で患者さんを見ないでほしい。患者さんの視点でみてほしい』と伝えます。

患者のAさんの話に戻りますが、昼過ぎに起きてくる理由を知っているか看護師に尋ねたところ、看護師は「知りません」と答えました。そのため、患者さんや家族などの関係者にヒアリングしました。
その結果、Aさんは夜中に起きて活動していたことがわかりました。そして、Aさんは昔、漁師をしていたこともわかったのです。漁師は早朝から活動するため、夜中に起きることは自然なことでした。
それがわかったとき、看護師に対して『担当でしょう?なぜ知らないの?』と叱りました。
認知症だからといって、その人のいままでの生活のルーティンが変わらなければいけないということはあってはなりません。
その人の人生、ストーリーがあって、それを知ってはじめて適切なケアができるのです。
ハマートンコートでは、患者さんに合わせたアクティビティを用意しているけれど、参加は自由です。
患者さんによりそうパーソンセンタードケアをモットーとしているからです。」

編集後記

映画に映っている姿と変わらず、ユーモアあふれる関口監督とひとつひとつの質問に対し一瞬で膨大な量の知識や経験を交えて答えてくれるヒューゴ博士。
ヒューゴ博士は、通訳の方のためにお茶のペットボトルのふたを開けるという紳士な対応も見せてくれ、なごやかな雰囲気のなか、笑い声や真剣な話が織り交ざる大変有意義なトークイベントでした。
認知症ケアに深く関わる2人から、介護に対する熱い思いを感じることができました。認知症に関わるすべての人にとって、有益なお話となったのではないかと思います。
介護のお仕事研究所では、今後も介護に関するさまざまな情報をみなさまにお届けします。

映画『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル〜最期に死ぬ時。』は9月より順次公開

映画『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル〜最期に死ぬ時。』は9月より神奈川、愛知、大阪・広島などで順次公開され、東京・ポレポレ東中野では10月20日(土)から再上映が決定しています。詳細は作品公式サイトをご確認ください。

また、ヒューゴ・デ・ウァール博士が出演している『毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編』『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル〜最期に死ぬ時。』はDVDも発売中です。

詳しくは作品公式サイトを確認してください。

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