都道府県や市区町村などの福祉事務所・各種相談所で公務員として特定の業務につくとき、社会福祉主事の任用資格が必要になります。
社会福祉主事の任用資格は、特に行政機関への就職の際に必要となるもの。公務員として福祉に関わりたい人にとっては欠かせない資格です。
社会福祉主事とは? 社会福祉主事の任用資格とは?
今回の記事では資格取得の方法や活躍できる場などについて、詳しく紹介します。
目次
社会福祉主事(社会福祉主事任用資格)とは
社会福祉主事は、都道府県や市町村の福祉事務所への配置が義務付けられている、ケースワーカーとして社会福祉相談や指導・援助の業務に携わる職員のことを指します。
そしてこの職種で働くために必要なのが、「社会福祉主事任用資格」です。
行政分野において、特定の職業・職位に任用されるための資格。
取得後、該当の職務に任用されることで効力を発揮する。
「取得すれば職業として認められる」国家資格と違って、任用資格は「取得した上で該当の職業に配属されてようやくその職業を名乗れる」資格。
つまり社会福祉主事任用資格の場合、
- 任用資格を取得する
- 地方公務員試験試験に合格する
- 福祉事務所に配属される
ここまでして初めて「社会福祉主事」を名乗ることができるのです。
社会福祉主事として働くためには任用資格が必要ですが、ただ資格を取ればすぐにその職業に就けるわけではない、というのは注意しておくべきポイントです。
福祉事務所などで公務員として働くときに必要となる「社会福祉主事任用資格」ですが、民間の社会福祉施設の職種に求められる資格としても準用されています。
社会福祉主事の主な仕事内容
社会福祉主事の主な仕事内容は大きく分けてふたつ。
ケースワーカーとして「相談業務」に応じることと、スーパーバイザーとして「ケースワーカーの指導」に当たることです。
それぞれどのようなことをするのか、具体的に見てみましょう。
ケースワーカー
福祉事務所を訪れるさまざまな方の相談対応、生活保護申請書の受付などを行います。
各家庭に応じた生活保護費の検討や金額見直しのために訪問したり、生活状況を記録に残したりすることも仕事のひとつです。
そのほか、職業安定所で仕事を探せるよう指導したり、生活上の困難を解決するのに役立つ情報提供を行ったりもします。
スーパーバイザー
生活保護費の受給者や需給希望者を訪問するケースワーカーに対して指導や助言を行う上位のポジションです。査察指導員とも呼ばれます。
また、生活保護の申請書を確認したり申請者の面接を担当したりして、受給するだけの資格があるかどうかを調査することもあります。
福祉事務所では7人のケースワーカーにつき、1人スーパーバイザーを配置することが義務付けられています。
そのほか、社会福祉主事任用資格を活かして、老人福祉に関する情報提供や調査を行う「老人福祉士指導主事」や母子家庭の生活に助言を行う「母子自立支援員(母子相談員)」といった職種で働くこともできます。
また、社会福祉主事の任用資格の他にも条件を満たすことで、以下のような職種に就くこともできます。
家庭児童福祉主事 家庭相談員 児童福祉司 |
児童福祉事業に2年以上従事する |
知的障害者福祉司 | 知的障害者福祉事業に2年以上従事する |
身体障害者福祉司 | 身体障害者福祉事業に2年以上従事する |
いずれにしても対象者に対して面接や訪問を行い、関係機関と連携しながら生活指導や自立支援などを行います。
行政機関の他にも!社会福祉主事の活躍の場
社会福祉主事は福祉事務所に配属された公務員を指すものですが、行政機関以外でも「社会福祉主事任用資格」を活かせる場所があります。
- 高齢者施設(特別養護老人ホーム、デイサービスなど)
- 児童福祉施設(児童養護施設など)
- 障がい者施設(精神障がい者社会復帰施設など)
上記のような施設で施設長や生活相談員として働く場合に、応募資格として社会福祉主事任用資格の有無や社会福祉主事の経歴を挙げているところがあるようです。
社会福祉主事になるには?
社会福祉主事は、社会福祉主事任用資格を得た上で、実際に公務員として働いてはじめて名乗ることのできる職種です。
つまり、社会福祉主事になるには、まず社会福祉主事任用資格を取得する必要があります。
社会福祉主事の任用資格を取得するルートは全部で5つ。
それぞれどのようなものがあるのか見てみましょう。
①大学・短期大学卒業ルート
ひとつめは、大学や短大において、厚生労働大臣の指定する社会福祉に関する科目を3科目以上修めて卒業する方法。
なお、学校教育法が定めている大学であれば、大学の種類や学部は問われません。
「厚生労働大臣の指定する社会福祉に関する科目」として挙げられるのは以下のものです。このうち3つ以上履修していれば任用資格を得ることができます。
社会福祉概論、社会保障論、社会福祉行政論、公的扶助論、身体障害者福祉論、老人福祉論、児童福祉論、家庭福祉論、知的障害者福祉論、精神障害者保健福祉論、社会学、心理学、社会福祉施設経営論、社会福祉援助技術論、社会福祉事業史、地域福祉論、保育理論、社会福祉調査論、医学一般、看護学、公衆衛生学、栄養学、家政学、倫理学、教育学、経済学、経済政策、社会政策、法学、民法、行政法、医療社会事業論、リハビリテーション論、介護概論
出典:厚生労働省『ページ9:社会福祉主事任用資格の取得方法』
指定科目として認められる、「読替え」ができる科目
「厚生労働大臣の指定する社会福祉に関する科目」は、原則として大学・短大で履修した科目の名称と一言一句同じである必要があります。
ただし、指定科目の名称以外でも指定科目として認められる「読替え」の範囲が規定されています。
この読替えの範囲としてあげられる科目を履修していれば、指定科目として認められます。
読替えの範囲は下記のとおりです。
科目名 | 読替えの範囲 |
---|---|
社会福祉概論 | 社会福祉、社会事業、社会保障制度と生活者の健康、現代社会と福祉 |
社会福祉事業史 | ①社会福祉事業史、社会福祉発達史、社会事業史、社会福祉の歴史 ②日本社会福祉事業史と西洋社会福祉事業史を履修していること |
社会福祉援助技術論 | ①社会福祉援助技術、社会福祉方法、社会事業方法、ソーシャルワーク、相談援助 ②相談援助の基盤と専門職及び相談援助の理論と方法の2科目 |
社会福祉調査論 | 社会調査統計、社会福祉調査、社会福祉統計、社会福祉調査技術、ソーシャルリサーチ、福祉ニーズ調査、社会調査の基礎、社会調査 |
社会福祉施設経営論 | 社会福祉施設経営、社会福祉施設運営、ソーシャルアドミニストレーション、社会福祉管理、社会福祉管理運営、福祉サービスの組織と経営 |
社会福祉行政論 | 社会福祉行政、社会福祉行財政、福祉行財政、社会福祉法制、社会福祉法、社会福祉計画、ソーシャルプランニング、福祉行財政と福祉計画 |
社会保障論 | 社会保障、社会保障制度と生活者の健康、社会保障制度 |
公的扶助論 | 公的扶助、生活保護、生活保護制度、低所得者に対する支援と生活保護制度 |
児童福祉論 | ①児童福祉、児童家庭福祉、子ども家庭福祉、こども家庭福祉 ②児童・家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度並びに家庭福祉論及びその読替の範囲に含まれる科目のいずれかの2科目 |
家庭福祉論 | ①家庭福祉、母子福祉、母子寡婦福祉、婦人保護、ファミリーサポート、家族援助 ②児童・家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度並びに児童福祉論及びその読替の範囲に含まれる科目のいずれかの2科目 |
保育理論 | 保育 |
身体障害者福祉論 | ①身体障害者福祉 ②障害者福祉、障害福祉、心身障害者福祉、障害児(・)者福祉 (身体障害者福祉と知的障害者福祉を含んでいるものに限っては身体障害者福祉と知的障害者福祉の2科目に該当する。) |
知的障害者福祉論 | ①知的障害者福祉 ②障害者福祉、障害福祉、心身障害者福祉、障害児(・)者福祉 (身体障害者福祉論と知的障害者福祉論の内容を全て含んでいるものに限っては身体障害者福祉論と知的障害者福祉論の2科目に該当する。) |
精神障害者保健福祉論 | 精神障害者保健福祉、精神保健福祉、精神衛生、精神保健、精神医学、精神障害者福祉 |
老人福祉論 | 老人福祉、高齢者福祉、高齢者保健福祉、高齢者に対する支援と介護保険制度 |
医療社会事業論 | 医療社会事業、医療福祉、医療ソーシャルワーク |
地域福祉論 | 地域福祉、協同組合、コミュニティ(ー)ワーク、コミュニティ(ー)オーガニゼーション、地域福祉の理論と方法、コミュニティ(ー)福祉 |
法学 | 法律学、基礎法学、法学入門 |
民法 | 民法総則、民法入門 |
行政法 | - |
経済学 | 経済、基礎経済、経済学入門 |
社会政策 | 社会政策、労働経済 |
経済政策 | - |
心理学 | 心理、心理学理論と心理的支援、心理学入門 |
社会学 | 社会理論と社会システム、社会学入門 |
教育学 | 教育、教育学入門 |
倫理学 | 倫理、倫理学入門 |
公衆衛生学 | 公衆衛生、公衆衛生学入門 |
医学一般 | ①医学知識、医学、医学入門、一般臨床医学、人体の構造と機能及び疾病、人体の構造(・)機能(・)疾病 ②人体の構造と機能及び疾病の成り立ちと回復の促進を履修していること |
リハビリテーション論 | リハビリテーション、リハビリテーション医学、リハビリテーション入門 |
看護学 | 看護、基礎看護、看護学入門 |
介護概論 | 介護福祉、介護、介護知識、介護の基本、介護学入門 |
栄養学 | 栄養、栄養指導、栄養(・)調理、基礎栄養学、栄養学入門 |
家政学 | 家政、家政学入門 |
出典:厚生労働省『ページ9:社会福祉主事任用資格の取得方法』
科目名の末尾に「I」、「II」がついて複数の科目に区分されていても、区分された科目すべてを履修していれば、その指定科目を履修したと認められます。
大学・短大によっては、厚生労働省に申請をして個別の承認を得たうえで独自の名称で開講していることもあるため、名称が一致しない場合もあります。
個別の名称に関しては卒業した学校に確認しましょう。
②通信教育ルート
ふたつめは、1年間の通信教育で社会福祉主事任用資格の認定課程を修了すること。
通信教育の養成講座は、基本的に現役の介護職が社会福祉主事を目指すために開設されているものです。
講座の概要について見てみましょう。
通信教育の養成講座について | |
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受講対象者 | 社会福祉事業の届出をした施設・事業所、あるいは介護保険法に基づく介護保険事業者の指定を受けた施設・事業所に従事していること(受講期間中に退職すると、退学となる) |
期間 | 1年間 |
レポート提出 | 約20本 |
スクーリング日数 | 約5日間 |
費用 | 8~13万円程度 |
講座のスケジュールや費用などは、通信教育の養成講座を提供する大学によって異なります。
詳しくは、希望の大学のHPや窓口で確認してみてください。
③養成機関ルート
みっつめは、厚生労働大臣の指定した専門学校で22科目(1500時間)の課程を修了すること。
養成機関の多くは2年制または3年制の専門学校で、2019年4月1日時点では全国に42校あります。
④講習会ルート
よっつめは、都道府県で開催されている講習会で19科目(279時間)の課程を修了すること。
都道府県の講習会は、基本的に現役公務員が社会福祉主事を目指すために開催されています。
東京都の資格認定講習を一例として紹介します。
東京都の資格認定講習について | |
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受講対象者 | 都道府県又は市区町村の職員で、社会福祉行政および社会福祉事業に従事している者。(国家公務員を含む) 社会福祉事業団などの、関係団体等(民間社会福祉施設や社会福祉協議会など)に出向している公務員、および一部事務組合職員も対象 |
期間 | 1年間 |
学習内容 | ①通信授業(自宅学習)、②面接授業(スクーリング)、③修了テスト |
スクーリング日数 | 4日間 |
費用 | 68,900円(消費税等込額。テキスト・教材費、面接授業料、添削指導料含む) |
講習会のスケジュールや費用などは、都道府県によって異なる場合があります。
詳細は、希望の都道府県へ確認ください。
⑤国家資格取得ルート
最後は、「社会福祉士」「精神保健福祉士」などの国家資格を保持すること。
国家資格を取得している人は、社会福祉主事の任用資格があると見なされます。
どうすれば証明できる?資格の証明方法
社会福祉主事任用資格には試験がありません。講習を受けるか授業を受け、それを修了することによって資格を得ることができます。
そのため、一般的な資格証明書や合格証明書といったものも発行されません。
社会福祉主事任用資格の所有を証明するには、卒業証明書や成績証明書が必要となります。
ただし、大学・短大によっては「資格取得証明書」または「資格取得見込み証明書」を発行しているところもありますので、卒業した学校に確認をしてみましょう。
社会福祉主事の給与はケアマネと同等程度
社会福祉主事は地方自治体の一般職、もしくは福祉職として採用されます。
そのため、給与も公務員給与規定に沿った額が支給されます。
総務省が発表している「平成30年 地方公務員給与実態調査結果の状況」によれば、一般職の平均月給は 353,917円、福祉職の平均月給は353,734円。
同年の介護職員の平均給与が300,970円、介護支援専門員(ケアマネジャー)が350,320円であることを考えると、社会福祉主事の収入はケアマネジャーと同じくらいの高さだと言えます。
社会福祉士とは何が違う?
福祉の現場で高齢者や障がい者・生活困窮者の相談対応を担うのは、社会福祉主事だけではありません。
社会福祉士も同じような役割を求められる、社会福祉主事との交通点がとても多い資格です。
そんな社会福祉士と社会福祉主事の大きな違いは、資格の種類。
社会福祉士は国家試験を突破して名乗ることができる「国家資格」です。受験するには一定の要件を満たす必要があるうえ、合格率は3割程度と難易度も高め。
また、この資格を持っている人は自動的に社会福祉主事任用資格も持っていることになります。
一方の社会福祉主事は、公務員として特定の業務につくときに必要とされる「任用資格」です。
特定科目の履修や通信教育の修了などで取得できるため、国家試験などの受験はありません。
編集者より
社会福祉主事は、高齢者だけでなく障害者や児童などを対象とする社会福祉領域全般で広く活躍できる職種です。
より広く社会福祉に携わりたい介護職の方は、社会福祉主事を目指してみるものいいかもしれませんね。
参考文献・サイト
- 厚生労働省ページ8:社会福祉主事について
- 社会福祉法
- 広島県社会福祉人材育成センター社会福祉主事任用資格