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【名医に聞く!】老人性うつの基礎知識~認知症との違いや注意点~

みなさんは「老人性うつ」を知っていますか?
うつ病は子どもから高齢者までさまざまな年代の人がかかる病気ですが、高齢者がかかるうつ病のことを一般に「老人性うつ(老年期うつ)」と呼びます。
厚生労働省によると、2008年には日本の気分障害患者数は104万人を超え、増加の一途をたどっています。
65歳以上のうつ病患者は50万人を超えると考えられていますが、実際の65歳以上の方でうつ病の治療を受けている人は27万8千人。
高齢者のうつ病は認知症の症状と似た部分もあり、判断が難しいことからなかなか診断がつきにくいこともあります。

そこで、多くの高齢者と関わる介護職なら知っておきたい、老人性うつの症状や特徴、原因、認知症との違いなどの基礎知識を長谷川診療所 院長の長谷川洋先生に解説してもらいました!

【名医に聞く!】老人性うつの主な3つの治療法から介護職ができる対策まで徹底解説!子どもから高齢者までさまざまな年代の人がかかるうつ病。なかでも、高齢者がかかるうつ病のことを「老人性うつ(老年期うつ)」と呼びます。 ...


長谷川診療所 院長
精神科・心療内科  長谷川 洋先生

聖マリアンナ医科大学を卒業後、同大学神経精神科に入局。平成15年より同大学東横病院精神科主任医長として勤務。平成17年12月に同院精神科が閉科となり平成18年1月より長谷川診療所を開院。開院以来、区役所における高齢者精神保健相談も継続して行っている。医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会専門医。現在、聖マリアンナ医科大学神経精神科非常勤講師、川崎市精神科医会理事、神奈川県精神神経科診療所協会副会長。主な著書に「よくわかる高齢者の認知症とうつ病」(中央法規出版)がある。

老人性うつとは

正式な病名ではありませんが、65歳以上の高齢者がかかるうつ病のことを一般に「老人性うつ」「老年期うつ」と呼びます。
老人性うつは、記憶力や意欲の低下など、認知症と似た症状もあるため、うつ病だと気付かれにくい場合があります。そのため、適切な治療が受けられず、重症化するケースも少なくありません。

この記事では、老人性うつ病の特徴や認知症との違いを明記してあるので、身近に高齢者がいる方は参考にしてみてください。

高齢者のうつ病の割合・発症率

日本の65歳以上の高齢者の人口は3461万人で、総人口に占める割合は27.3%となります。
参考:平成28年9月総務省

日本ではうつ病の12か月有病率が1~2%です。仮に1.5%とした場合、高齢者のうつ病患者は51万人以上となりますが、実際の65歳以上の方でうつ病の治療を受けている人は27万8千人です。
つまり、うつ病を患っている高齢者の多くが、うつ病だと気づかれずに未治療のまま過ごしていると考えられます。
参考:厚生労働省

一般的なうつ病の症状

うつ病の症状には、核に抑うつ気分があり、身体症状、意欲・行動障害、思考障害が現れます。
すべての症状がある場合もあれば、思考障害が突出している場合などさまざまなケースがあります。

核の抑うつ気分は、一見目立たないこともありますが、気持ちの落ち込みや憂うつな気分など、多くの人が抱えている症状です。
身体症状では、睡眠障害、食欲不振、頭痛、疲労感、倦怠感、動悸、息苦しさなどの症状が現れます。
意欲・行動障害では、勉強や仕事など何事に対しても意欲や気力が低下したり、思考力が低下して口数が少なくなったり、身体の動きが遅くなったり、声が小さくなったりするなどの症状があります。また、身のまわりの基本的な生活動作もできなくなってしまい、部屋に閉じこもるケースもあります。
思考障害では、悲観的な考えばかりが浮かび、その考えが止められず発想の転換ができなくなります。理解力や判断力、記憶力、集中力などの低下もみられます。絶えずネガティブに考えて自分を責め、さらに判断力の低下からこの状況から逃れるには「死ぬしかない」という考え、自殺念慮へと発展することもあります。

要チェック!老人性うつの特徴とは

高齢者のうつ病では、頭痛やめまい、耳鳴り、食欲不振、不眠などの身体症状を訴えることが多いのが特徴です。
うつ病でも定型や非定型などさまざまな種類がありますが、食欲不振や不眠などの症状がある定型のうつ病を発症する高齢者が多いです。
さらに高齢者の場合、もともと持病で内科に通っている方も多いため、身体症状とうつ病が結びつかず、内科を受診することもよくあります。
医者側としても、「持病のため頭痛や高血圧、不整脈で病院にかかっているんです」と言われると、うつの症状として断定しづらくなります。
意欲の低下などの症状は、本人が自覚はしていても「高齢だから、そんなに元気ではないのは当たり前」と思って訴えるべき症状と思わないため、なかなか本人から意欲の低下の訴えがでにくいのも特徴のひとつです。
また、いままで多くの経験をしている高齢者の場合、大きなストレスとなる出来事が起こっても、「いままで乗り越えてこれたから大丈夫」と思って我慢してしまうこともあります。
以上のことから、高齢者のうつ病は、発見が遅れがちになる傾向にあります。

うつ病の発症要因は3つ

うつ病の発症に関わる要因としては、さまざまありますが、大きく3つにわけられます。
その3つとは「心理的要因」「社会的要因」「身体的要因」です。
心理的要因とは、いわゆるストレスです。ストレスの感じ方は人によって異なりますが、精神的な負担が重なったり、長引いたりするほど、うつ病の発症率も高くなります。
社会的要因とは、本人をとりまく環境のことです。サポート体制が十分かどうか、家族や地域社会とうまく関われているかどうかなどが原因となることもあります。
身体的要因とは、身体的な病気、脳の病気などがうつ病の要因となることです。重い病気は身体にも心にも大きな負担となり、うつ病発症の要因となります。

高齢者がうつ病を発症する要因は喪失体験の増加が大きい

高齢者がうつ病を発症する要因としては、喪失体験などのストレスを慢性的に抱えることが一因となっています。
パートナーや友人など周囲の人の死別、離婚・子どもの家への引っ越しで住み慣れた家や環境を失う、貯金を崩す生活、病気をして健康を喪失するなど、高齢になればなるほど喪失体験が増えます。

ストレスの蓄積はスーパーの荷物のようなイメージを思い浮かべてもらうといいと思います。
買い物かごに牛乳を入れて、じゃがいもやにんじん、たまねぎなどを入れる。ひとつひとつはたいした重さではないと思っていたけれど、購入して、いざ持ってみると想像よりも重かった。
また、最初はすんなりと荷物を持って歩けていたけれど、だんだんと重さに耐えられなくなったり、手がしびれてきたりすることもありますよね。
うつ病も、本人がたいしたことない・我慢できると思うような出来事が積み重なって、ある日眠れなくなったり起きられなくなったりします。また、ストレスは、つらいことだけでなく、旅行やお祝い事のような楽しい時間も1つの要因になることがあります。

老人性うつと認知症

老人性うつは、記憶力・意欲の低下などの症状から認知症と見分けづらいと言われています。下記では、認知症との関係性や認知症との違いについて解説します。

うつ病と認知症の関係性

うつ病にかかると、集中力が低下し、考えるのがおっくうになり、もの忘れがみられることもあります。そのため、うつ病によるもの忘れか、認知症によるものか判断がつきにくいこともしばしばあります。
さらに、認知症の方がうつ病を併発することや、うつ病から認知症へ移行することもあり、認知症とうつ病の合併率は10~20%といわれています。つまり、両者ははっきりとわけられないような複雑な関係にあります。

うつ病とアルツハイマー型認知症の5つの違い

両者には類似点もありますが、相違点もあります。ここでは、うつ病と認知症の患者の中で最も多いアルツハイマー型認知症の5つの違いをみてみましょう。
うつ病でも認知症でもまわりの方が「もしかして……?」と思う場合は早めの受診を心掛けてください。

介護職員が知っておくべき、老人性うつ病の兆候や気をつけるべきポイント

老人性うつの兆候で一番わかりやすいポイントは、不眠食欲不振です。
利用者さんの様子が少しおかしいなと思った場合は、「最近夜眠れていますか?」「ごはんはおいしく食べられていますか?」と聞くといいと思います。

このような質問であれば、※侵襲性(しんしゅうせい)が少なく、本人に負担をかけないと思います。
質問内容もそうですが、聞き方や関わり方も丁寧さを心掛けるといいですね。
多くの場合、働いている方のほうが年下なので、利用者さんのプライドを傷つけないことは大切です。さらに、うつ病を患っている場合は相手の言動に敏感になっており、傷つきやすくなっているため、関わる側として気を付けたいところです。

※侵襲とは、生体を傷つけること。

まとめ

この記事では、老人性うつ病の症状や特徴、原因、認知症との違いなどの基礎知識を紹介しました。
さらに、老人性うつ病の治療法や自殺の予防などをまとめた記事を近日公開予定です。
次回記事も、長谷川先生にお伺いしましたので、お楽しみに!

※この取材記事の内容は、2018年7月に行った取材に基づき作成しています。

参考文献・サイト

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