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「高齢者もケアマネも何でも相談できる場所にしたい」地域包括支援センターで働く主任ケアマネジャーの思い

東京都葛飾区にある地域包括支援センター高齢者総合相談センター立石」。
前回の記事では、社会福祉士・堀兼良佑さんに、仕事内容ややりがいなどをお伺いしました。

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前回に続いてこの記事では、同じく高齢者総合相談センター立石で働く、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)・中村亜希子(なかむら あきこ)さんに、主任ケアマネを取得した経緯や包括で働く魅力、大変なことなどをお伺いしました!

「地域包括支援センター」とは? 高齢者を支える地域の相談窓口をくわしく解説高齢者が増加の一途をたどる昨今、介護そのものを遠ざける「介護予防」の重要性も叫ばれるようになってきました。 自分の家族や身近な高齢者が...

介護職から施設・居宅ケアマネを経て、地域包括支援センターへ。多くの人が導いてくれたおかげで今がある

___中村さんのご経歴を教えてください。
中村亜希子さん(以下、中村):社会福祉系の短大を卒業後、介護老人保健施設(老健)の介護職に就職し、10~11年ほど勤めました。
老健在籍中に介護福祉士とケアマネジャー資格を取得し、施設ケアマネも経験しました。その後、居宅介護支援事業所に転職し、居宅ケアマネとして約8年勤務。居宅ケアマネのときに主任ケアマネジャーの資格を取得しました。

居宅ケアマネとして働くうちに地域包括支援センターに興味をもち、縁があって現在の社会福祉法人共生会に就職。
現在4年目を迎えています。

___ケアマネジャー資格を取得したきっかけを教えてください。
中村:老健のときに一緒に働いていた、信頼する上司にすすめられたことがきっかけです。
上司はもともと看護師だったのですが、ケアマネ資格ができたばかりのころにケアマネ資格を取得していました。
資格ができてからまだそんなに日が経っておらず、私自身ケアマネのことは何もわからない状態だったのですが、「資格はあったほうがいいから、とっておきなさい」という上司の言葉に背中をおされて取得しました。

取得後しばらくしてケアマネに異動となり、老健で施設ケアマネを経験しました。
仕事は楽しかったのですが、介護職と兼務だったので、業務量が多くて大変でした。
指導係も担っていたので、人材育成の業務もケアマネ業務もあるのに、介護業務が減ることはなく、残業が続いて……。だんだんと、しんどくなってきちゃったんですね。

そこで、施設ではなく「居宅のケアマネで働こう!」と思い、居宅介護支援事業所に転職しました。

___居宅ケアマネはどうでしたか?
中村:楽しかったですね。
施設ケアマネは、関わる人やマネジメントなど、基本的に施設内で完結することが多いと思います。ご家族との関わりもそんなに多くはありませんでした。

一方、居宅ケアマネは在宅生活をする利用者さんを支援するので、ご家族やさまざまな地域のサービス提供者と接する機会が多い。同じケアマネという職種ではありましたが、新たな学びや経験を得られて新鮮でした。

とは言っても、居宅ケアマネのほうが自分に合っていた、というわけではありません。
どちらが自分にあっているかなどはとくに考える暇もなく、必死で働いていた記憶があります。
施設と居宅、それぞれの良さがあって、どちらも楽しかったです。

___施設と居宅、どちらのケアマネにも魅力があるのですね。では、主任ケアマネジャーの資格取得したのも、キャリアアップなどを意識していたのでしょうか?
中村:いえ、正直に言うと、会社から促されたことが理由です(笑)。
実は、事業所を運営するにあたって主任ケアマネが必要となる場合は多いのです。
加算が付いたり、居宅介護支援事業所の管理者が主任ケアマネに限定されていたり(※)。
そのため、会社から促されたからという理由で主任ケアマネを取得する人は多いのかもしれません。私自身もそうでした。

キャリアアップが目的ではありませんでしたが、「主任ケアマネ」の資格を得ることは結果的にキャリアップにつながっていると思います。
主任ケアマネの研修自体とても楽しかったですし、のちに包括で働けることになったので、当時の会社には感謝しています。

※現在は経過措置。2021年度から完全適用

___包括のなかでも、高齢者総合相談センター立石を運営する「共生会」を選ばれた理由を教えてください。
中村:実は、登録していた人材紹介会社が紹介してくれたんです。
いくつかの法人の面接を受けましたが、共生会の雰囲気の良さはダントツの一番!
面接官だけでなく、窓口の人も全員立って出迎えてくれて、面接中に「ぜひ来てほしい」と言ってもらえ、その場で「お願いします」と言って即決しました。

あのとき、即決して本当に良かったです。
今、とても良い仲間たちに恵まれ、楽しく働けています。

任せてもらえる仕事が増え、ケアマネのフォローをする主任ケアマネジャーという仕事

___中村さんはケアマネと主任ケアマネのどちらも実務経験がありますが、業務内容などに違いはあるのでしょうか?
中村:業務自体にそんなに大きな違いはないのかもしれませんが、ケアマネと主任ケアマネの大きな違いのひとつは「経験」です。
そもそも主任ケアマネの資格要件のひとつに「5年以上のケアマネ経験」とあるため、主任ケアマネは5年以上の経験を有している
つまり、主任ケアマネであるということは、それだけ経験値の積み重ねがあるということです。

私が居宅で働いていたときの話ですが、主任ケアマネということで、包括から困難ケースの要介護者の担当を依頼されることが少し増えたように思います。
困難ケースでは、より知識や対応力を求められることが多いため、優先的に経験豊富なケアマネ、つまり主任ケアマネなどに依頼をする場合もあります。

なぜ包括から困難ケースの依頼が来るのかというと、包括は高齢者の総合相談窓口だからです。なかには、明らかに要介護状態なのに要介護認定を受けていない高齢者や担当ケアマネが決まっていない要介護者なども相談に来ることがあります。しかし、要介護者のマネジメントは包括の担当外なので、居宅介護支援事業所に依頼をします。

そこで、「どこの事業所、どこのケアマネさんにしようか」と依頼先を考えるとき、「主任ケアマネ」が判断基準のひとつになる場合もあるのでしょう。

主任ケアマネは、「経験豊富なケアマネ」ということを示す看板のようなものかもしれません。
経験があるからこそ、任せてもらえる仕事は増えると思います。

___主任ケアマネには、どのような役割・特徴があるのでしょうか?
中村:一般的に主任ケアマネは、ケアプランを作ったり利用者宅へ訪問したりするなどの通常のケアマネ業務以外に、ほかのケアマネジャーのまとめ役・教育役としての役割もあります。

しかし、居宅の場合はその役割が業務に含まれているわけではないので、意識している人は少ないのかもしれません。
主任ケアマネがもつ担当利用者数への考慮があるかないかは、事業所によって異なります。考慮がなくケアマネと同数の利用者を受け持っている場合、ケアマネの教育をするのはなかなか難しい。
実際、同じ事業所にいるケアマネの教育も、手が回るかどうかというところではないでしょうか。

一方、包括では地域のケアマネの支援が業務内容に含まれます
そのため、包括で働く主任ケアマネの場合は、ケアマネのまとめ役・教育役としての役割を十分に果たすことができます。

たとえば、ケアプランを提出しにきたケアマネの相談に乗ったり、ケアプランに対するアドバイスをしたりします。また、アンケートなどを活用して、仕事で困っていること・知りたいことなどを調査し、ニーズに合った勉強会を開くこともあります。

___ケアマネのまとめ役として意識していることはありますか?
中村:不安にさせないように、積極的にフォローするよう心がけています

居宅ケアマネって、基本的にケアマネ同士で働く環境が整っていないんです。
介護保険では、利用者さんひとりに対してケアマネもひとり。複数のサービスを利用している利用者さんの場合は、さまざまな職種の方が関わります。そのなかで、ケアマネは担当者会議などの場をまとめ、支援の方向性を決めていく必要があります。
つまり、孤立しやすかったり助けを求めにくかったりする環境だと思うのです。

だから、看護師やリハビリ職など他職種が関わっているケースでは、基本的に私はケアマネのフォローに入ります
「こういう介護サービスもあるよ」「こんな地域の社会資源もあるよ」など、介護サービスや介護サービス以外の情報を提供したりアドバイスしたりして、不安にならないような状況をつくりたいと思っています。

人って、顔見知りだったり関係を築けていたりすると、相談しやすくなりますよね。
より細かなフォローができるように、地域のケアマネ研修会等には受け身ではなく積極的に、地域のケアマネのことを把握しようと努めながら参加しています。

「私の逃げ場になってくれた」経験から、ケアマネが何でも相談できる場所をめざす

___主任ケアマネの職場として、中村さんが包括を選ばれた理由はありますか?
中村:居宅ケアマネのときの法人は包括も運営しており、その包括の方と一緒に仕事をする機会が多かったんです。
一緒に仕事をしていくうちに、すごく大変でも、どうにかサービスにつなげようとする姿や経緯、包括のチームワークの良さを身近で感じたことがきっかけで、「私も包括で働きたい」と思うようになりましたね。

___現在は包括でさまざまな業務をされていると思いますが、意識していることはありますか?
中村:高齢者の総合相談所である包括ですが、ケアマネにとってもなんでも相談できる場所にしたいと思っています。

私は感じたことがなかったのですが、「包括に入りづらい」「包括の敷居が高い」というケアマネの声はよく聞きます。

包括は、地域のケアマネへの支援を担っている機関なのに、ケアマネとの間に壁があったら良くないですよね。
だから、その壁を取り除く努力をしています。

それは、私自身が包括の存在に助けられたことも大きいです。

___包括に助けられたとは、どのようなことでしょうか?
中村:ケアマネって、事業所に勤めているとはいえ、どうしても個人プレーになりやすい職種なんです。
訪問が多く、事業所にいる時間が少ない。事業所に戻っても、みんな訪問に出ていてガラガラのときが多いので、物理的に相談しづらい環境です。
たとえ上司や同僚がいても、忙しかったり関係性が築けていなかったりすると相談しづらい。そうなると、誰にも相談できなくてひとりでどんどん抱えてしまいます。
相談できる場所、逃げ場がないと、つらくなってしまうんです。

私自身がそんな状況にあったとき、包括にたくさん相談させてもらって支えてもらいました。
私にとって、逃げ場になってくれていたんです。

その経験があるからこそ、より一層ケアマネの力になりたいと思っています。
本当にささいなことでも大丈夫です。
事業所に言えないようなこともすべて吐き出せるような、そんな場所にしたいですね。

___気軽に相談できる場所があると、うれしいですね。
中村:そうですよね。だから、これからは立石の「居宅の主任ケアマネ」にもその役割を担ってほしいと考えています。

今はもう居宅ケアマネではないので、私がアドバイスできることも限られます。居宅のことは居宅の主任ケアマネに相談したほうが、もっと細かなアドバイスをもらえることもあると思います。

より手厚く地域のケアマネを支援していきたいので、高齢者総合相談センター立石だけでなく、同じ地域の居宅の主任ケアマネにも気軽に相談できるような環境をつくっているところです。

さまざまな人と関われること、対等な立場で仕事ができることが包括の魅力

___包括で働く魅力を教えてください。
中村:人が好きなので、いろいろな人と出会えるのはすごく楽しいです。
先日も、社会福祉協議会や民生委員、町内会などの方々と一緒に地域のイベントを開催しました。

居宅や施設ケアマネのときは、地域の方と一緒にイベントを開催したり、町内会でお話を聞いたりすることはほとんどなかったので、包括ならではだと思います。

このように地域の方と関わることによって、地域の特性も知ることができます。立石は下町という特徴があるからか、みなさん情報通で(笑)。
「○○さん、普段はこうなのに、この前会ったときはこうだったんだよ」と、さまざまな高齢者の方の近況を教えてくれます。
みなさんのお話から病気や異常の早期発見ができることもあるので、本当に大事な関わりになっています。

また、お返しではありませんが、町内会の方には包括のことをお伝えしています。
高齢者の総合相談所という役割のある包括ですが、その存在を知らない人はまだまだ多いんです。だから、困ったときに包括を利用できるよう「こんなことも相談できるんですよ」と、包括の紹介をしています。

そうやってさまざまな人と関わりながら、地域の方々の支援をできるのはとても楽しいですね。

___ケアマネも他職種との関わりが多いと思いますが、関わる人がさらに増えるんですね。
中村:そうですね。関わる方の幅がさらに広がります。それから、包括は他職種との関係性もより対等な印象ですね。

私自身は、他職種に対して壁や遠慮などはとくに感じてこなかったのですが、医師や看護師などの医療職に遠慮している介護職やケアマネは少なくないと思います。
老健で働いていたときは、母体が病院だったので、職種による序列のようなものがあったと思います。

一方で包括は、さまざまな人の支援によってひとりの相談者を地域全体でサポートしているので、みんな対等な関係です。
本来であれば、そのような関係性が正しいと思うのですが、なかなか古い考えや文化が払拭できない施設もあるのかもしれません。

職種による上下関係のようなものを感じて仕事がやりづらいなと思う人は、包括では働きやすいと感じるのではないでしょうか。

包括に向いているのは「人が好き」な人。必要なスキルはおのずと身に付く

___逆に、包括ならではの大変なことはありますか?
中村:そうですね……。あんまり考えたことがなかったので難しいのですが、はじめのころは電話対応が苦手でした。

居宅ケアマネの場合、担当の利用者さんやそのご家族、関係する他職種の方など知っている方から連絡がくることが多いです。
また、新規の利用者さんから連絡がきた場合も、「介護保険を利用する前提」で相談が進むことがほとんどです。
その前提があるので、相談内容が想定しやすくスムーズに答えられることが多かったと思います。

一方、包括は何でも相談できるので、相談内容がまったく想定できません
頭をまっさらにして、ゼロベースで考えて答えなければいけないため、最初は電話をとるのがこわかったですね(笑)。

というのも、「自分でも何を相談したいのかよくわからないけれど、とにかく困っているから電話をしている」という相談者の方が少なくないのです。話がまとまっていないので、主訴がつかみづらい。そのため、一生懸命想像しながら一番の困りごとを探ることを意識して、話を聞いています。
必ずしも介護保険を利用するとは限らないので、主訴がつかめたあとも、どのサービスにつなげるのが最適なのか考えをめぐらせています。

___とても難しいですね……。では、電話を恐れずに主訴をつかむスキルがある人が、包括に向いているのでしょうか?
中村:そんなことはないですよ。
電話は、最初はこわかったけれど、慣れれば問題ありません。「まぁ、訪問すればいいんだな」って思えるようになりましたね。
実際、訪問してみなければわからないことも多いんです。電話ですべてを把握することはできないので、そんなに気負う必要はありません。

だから、今主訴をつかむスキルがなかったとしても、包括に向いていない、なんてことはありません
そのようなスキルは、経験すればおのずとできるようになります。

大事なのは、「人が好きなこと」
人が好きな人はみんな、包括に向いていると思います。

孤独な環境から相談しやすい環境になった今だからわかる、「まわりを頼ること」の大切さ

___さいごに、地域包括支援センターで働く中村さんが感じていることを教えていただけますか?
中村:私は、本当に包括にきてよかったと思っています。

居宅ケアマネのときはみんな訪問に出ていて、本当に事務所に人がいなかった。どんなに仕事内容が楽しくても、頼れない環境であれば、つらくなってしまうときもあります。
だから、もっとチームで動きたかったのですが、なかなか難しい環境でした。
相談しやすい環境を整えられなかったのは少し……心残りでもあったんです。

その点、包括はもともとチームで動くスタイルです。同僚や他者から専門的な意見を聞きやすく、すごく助かっています。
たとえば、権利擁護の相談で悩んだら社会福祉士の堀兼に聞くことができる。頼れる環境というのは、とても心強いですね。

私は、介護職、居宅、包括とさまざまな職場を経験してきましたが、仕事をするうえで大切なのは「まわりを頼ること」なんだと思いました。

今、頼れる仲間たちとチームで働けて、本当に楽しい

だからこそ、相談できなくてつらい思いをしているケアマネがいたら、力になりたいです。
遠慮せずに頼ってほしい。

ケアマネ・介護職などに限らず、福祉職は人から頼られる仕事です。
頼られる立場だからこそ、まわりの人を頼れる環境で働いてほしいと思います。

編集後記

介護職から施設・居宅のケアマネを経て、包括で働く中村亜希子さん。
中村さんのまっすぐな瞳とブレない言動から、さまざまな経験をしたからこそ、簡単に言葉にすることができない強い思いがあるように感じました。

多くの経験と知識をもって立派に仕事をしている中村さんであっても、「仲間や環境が大事」とおっしゃっていました。

よく言われる「仕事はひとりではできない」という言葉は、真実なのでしょう。
相談できない悩みはもちろんですが、自分のスキルや質などの悩みも、実は頼れない環境にいることが原因のひとつになっているのではないでしょうか。

自分の努力だけではどうしようもできない場合もあります。
そんなときは、相談しやすい環境に身をおくことで、いろいろなことがうまくいきはじめるのかもしれません。

「人っておもしろい」地域包括支援センターで働く社会福祉士に聞く、相談援助の魅力古いお店が数多く残っており、まるで昭和にタイムスリップしたかのような雰囲気が漂う東京の下町、葛飾区立石。 そこに、社会福祉法人共生...

※この取材記事の内容は、2019年5月に行った取材に基づき作成しています。

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