古いお店が数多く残っており、まるで昭和にタイムスリップしたかのような雰囲気が漂う東京の下町、葛飾区立石。
そこに、社会福祉法人共生会が受託運営する地域包括支援センター「高齢者総合相談センター立石」があります。
地域包括支援センターでは、「社会福祉士」「主任ケアマネジャー」「保健師(または経験のある看護師)」の3職種が中心となって、幅広く高齢者に関する相談援助の業務を行っています。
しかし、地域包括支援センター自体にそこまで馴染みがなく、ましてやそこで働くことを具体的に想像できない介護職も多いのではないでしょうか。
そこで、高齢者総合相談センター立石(地域包括支援センター)で働く現役の社会福祉士・堀兼良佑(ほりかね りょうすけ)さんに仕事内容や魅力、必要なスキルなどをお伺いしました!
将来的に相談援助業務に携わりたい方はもちろん、現在ほかの施設の相談員として活躍している方もぜひ参考にしてみてください。
目次
20年以上地域に根付いた支援を行う「高齢者総合相談センター立石」
___はじめに、高齢者総合相談センター立石について教えてください。
堀兼良佑さん(以下、堀兼):高齢者総合相談センター立石は、さかのぼること約20年前の1998年に「在宅介護支援センター東四つ木」としてスタートしました。
在宅介護支援センターとは、高齢者福祉の基盤を整備するため、高齢者の方やそのご家族が身近な場所で専門職による相談・援助が受けられる相談窓口として1989年より設置が進められた機関です。
介護保険制度導入後、地域包括支援センターが創設されたことにより「在宅介護支援センター」の多くは「地域包括支援センター」へと移行しました。
ここも2006年に「在宅介護支援センター東四つ木」から「地域包括支援センター東四つ木」へ移行。
当初「地域包括支援センター」の数は少なく、この地域もはじめはひとつだけでしたが、よりきめ細やかな支援をするために分室がつくられました。それが、「地域包括支援センター立石」です。
2012年から、親しみやすさとわかりやすさを求めて「高齢者総合相談センター立石」という通称名を使用しています。
___地域包括支援センターはどのような業務をしているのですか?
堀兼:地域包括支援センターには、柱となる下記の4つの業務があります。
- 総合相談支援
- 介護予防ケアマネジメント
- 権利擁護、虐待早期発見・防止のための支援
- 包括的・継続的ケアマネジメント支援
そのほか、地域のケアマネジャーに対する支援や介護予防のイベントの開催なども行っています。
なかでも、中心となるのは「総合相談支援」の業務です。
日によってバラつきがあるので一概には言えませんが、相談件数は1日約20件、月に300~400件ほどです。
平成30年1月時点の東京都23区高齢化率の統計データをみると、葛飾区は24.5%。23区のなかでは、3番目に高い数字です。ほかの区と比べると高齢者の方の割合が多く、相談件数も多いのかもしれません。
ただ、平成29年10月時点の全国平均は27.7%なので、全国的に見ると高齢化率は低いほうです。
それぞれの得意分野の知識を活かし、困ったときは相談しあえる環境
___「社会福祉士」「主任ケアマネジャー」「保健師(看護師)」の3職種が活躍する包括ですが、職種によって担当する業務内容が分かれているのでしょうか?
堀兼:高齢者総合相談センター立石では、職種によって明確な担当業務があるというわけではありません。しかし、それぞれが得意とする分野はあります。
社会福祉士の場合、権利擁護の業務で学んだことを活かしやすいかなと思います。
具体的には、「高齢者の虐待」や振り込め詐欺などの「消費者被害」のケースですね。成年後見人制度を活用することもあるので、ある程度の専門知識が必要だと思います。
主任ケアマネジャーは、地域のケアマネジャーの支援やケアプランの作成。保健師(看護師)は、介護予防や認知症予防のイベントなどで、それぞれの専門知識を活かしていると思います。
とはいえ、相談ごとに担当者を設定しているわけではないので、難しいケースや知恵を借りたいケースなどは職員間で共有して相談しながら対応しています。
___堀兼さんの1日の業務の流れを教えてください。
堀兼:1日の予定は日によって異なります。あくまで参考程度になりますが、ある1日の例を紹介します。
08:30 出勤
09:00 窓口受付開始
10:30 訪問相談①
13:00 お昼休憩
14:00 訪問相談②
16:00 窓口対応
18:00 退勤
高齢者総合相談センター立石の窓口受付時間は、月曜~金曜は9:00~19:00、土曜日は9:00~17:30です。
そのため、窓口が開く前の8:30に出勤し、1日の予定を確認します。
窓口が開いた後は、電話や来所での相談に対応したり、ケアプランを作ったりします。
こちらから出向いて行う訪問相談もあるので、訪問予定があれば資料の準備なども行います。
訪問件数は日によってバラバラで、訪問が無い日もあれば、4件ほど訪問する日もありますね。
___お休みはどうでしょうか?
堀兼:立石は、土曜日は交代で出勤し、日曜祝日年末年始がお休み。
ほかの地域包括支援センターでも、土日休みや日曜祝日年末年始が休みのところは多いようです。
固定休みのため、予定が立てやすいのは地域包括支援センターの魅力のひとつだと思います。
興味のなかった高齢者福祉の世界で見つけた、大きなやりがい
___堀兼さんのこれまでのご経歴を教えてください。
堀兼:大学で社会福祉士の資格を取得し、卒業後は児童館の職員として3年ほど勤務しました。その後転職し、地域包括支援センターで約3年、社会福祉協議会で約1年勤め、現在の社会福祉法人共生会に就職。今年で6年目になります。
___最初は、児童館で働いていたのですか?
堀兼:はい。実は、もともと児童館の職員になりたかったんです。
高校時代に児童館でボランティアをした経験から、児童福祉の分野で働きたいと思い、保育士資格を取得できる大学を選びました。
私が通っていた大学は、希望する資格のコースを途中で選択するシステム。そのコース選択のときに、はじめて「社会福祉士」資格の存在を知りました。社会福祉士についていろいろ調べてみると、児童福祉分野のなかでも幅広く活躍できることがわかり、社会福祉士コースを選択したんです。
無事に社会福祉士資格を取得し、大学卒業後はめざしていた児童館職員として勤務することになりました。
___どうして、児童から高齢者の分野に?
堀兼:実は……自分から希望したのではなく、まったくの偶然なんです。
児童館から、児童福祉分野の事業も手がけている社会福祉法人に転職したのですが、私が社会福祉士の資格をもっていることもあり、「地域包括支援センター」への配属になったのです。
面接で「児童福祉の分野で働きたい」旨は伝えていたので、当時は包括へ配属されるなんて予想もしていませんでした……。
___それは、びっくりしますね!
堀兼:高齢者福祉の分野は自分の専門外で全然わからなかったので、とても戸惑いました。
児童と高齢者では、対象者が異なるだけでなく福祉事業の基になる根拠の法律から違います。
今まで得た知識はほとんど使えず、「介護保険」という言葉しか知らない状況でのスタートです。「どういう仕事をしているのか」という基本的な知識から、ひとつひとつ周囲の方に教えてもらって、覚えていきました。
正直、社会福祉士の養成校で、もっと高齢者福祉について実践的なことを教えてくれればよかったのにと思いましたね(笑)。
介護予防のケアプランを作るのも一苦労。
もちろん研修はありますが、研修後は実際に業務をしていかなくてはいけません。
当然、最初はうまく作れず、先輩や役所の方がアドバイスをくれることもありました。そうやってサポートしてくれる人がいたので、なんとかやってこれたんだと思います。
思い返すと、1人前になれるまで3年ほどかかりました。
私のようにまったくのゼロからのスタートだと、そのくらいは必要かなと思います。
___とても苦労されたんですね。
堀兼:そうですね。でも、やりがいも感じました。
包括は、高齢者の方の自宅に訪問して、実際の生活の場で相談を受けることも多い。「高齢者の方とどう接したらいいのかもわからない」状態だったので大変でしたが、次第に高齢者支援の大切さがわかるようになりました。
というのも、実際に生活の場を見ながら話を聞くので、すごく……「伝わってくる」んです。
「あぁ、この方はこういうところで困っていて、支援を必要としているんだ」というのが、よくわかる。その訪問相談の経験から、「支援すること」の必要性や大切さを、心から実感できるようになりました。
その後、興味があって社会福祉協議会にも勤めましたが、窓口相談が中心となる社協よりも包括のほうが自分にあっているとわかり、包括に戻ってきました。
はじめは興味のなかった高齢者福祉の世界でしたが、今はさまざまな高齢者の方の生活に触れて、支援の大切さを感じて、そして実際に提案していけることに大きなやりがいを感じています。
ひとりの人間として受け入れてもらえた「2年間の相談援助」
___印象的な相談者のエピソードはありますか?
堀兼:そうですね……。あるおじいさんの相談援助が強く印象に残っています。
そのおじいさんは、ずっとひとりで頑張って生活をしてきました。けれど、少し体調が悪くなって入院することに。ご家族とは疎遠になっていたので、ご家族からの支援は期待できません。そんなおじいさんの退院後の生活を心配して、病院から包括へ連絡が入りました。
支援の必要性を感じてご本人に連絡しましたが、おじいさんからの答えは「NO!」。
とくにひとりで頑張ってきた自負やプライドのある方は、人の手を借りることに慣れていなくて、受け入れがたいのかもしれません。
「人から支援を受けること」は必要だし大切なことなんですが、恥ずかしいと思う方もまだまだ多いようです。
___拒否がある方の支援は難しいですよね……。どうやって支援につなげたのでしょうか?
堀兼:おじいさんの拒否は強く、最初は訪問もできませんでした。
でも、絶対に支援を受けたほうがいいと考えていたので、まずは家に入れてもらうことを目標にしました。そのためには、私をひとりの人間として信頼してもらう必要があります。
何度も訪問したりいろいろなお話をしたりして、少しずつ関係を築きました。
そうして家に入れてもらえるようになってから、支援の必要性を説き、約2年ほどかけてやっと訪問看護のサービスを受け入れてもらえました。
入退院を繰り返す生活でしたが、訪問看護が入ってからは体調が安定したので落ち着いた生活を送れています。
___受け入れてもらったときは、やっぱり達成感が大きいのでしょうか?
堀兼:達成感というより……ほっとしました。
入退院を繰り返していたので、少なくとも2年間は体調のいい日が続く経験を味わっていなかったと思います。
誰でも、体調に波があると不安ですよね。
これで少し……落ち着いて生活してもらえるかな、と安心しました。
足を運んで自分の目でみることで、本人にとって一番いい支援を提案できる
___特別養護老人ホームや病院などの施設と比べて、地域包括支援センターの相談員の魅力はなんでしょうか?
堀兼:特養や病院の経験がないので一概には言えませんが、やはり、実際に在宅生活の場に訪問できることではないでしょうか。
包括は、ご家族から相談をもらうことも多いです。なかには、遠方に住んでいてしばらくご本人の姿を見ていない方もいます。
その場合、ご家族の話と実際の本人の様子にズレがあることもあるんですよね。
実際に訪問し、「あれ? お話と違うな」ってなることもある。今の本人の生活を見て、きちんと情報のすり合わせをしたうえで提案できるので、本人にとって一番いい支援を提供できるのではないかなと思います。
それから、相談内容の幅が広いのも魅力のひとつです。
想像になりますが、特養や病院は入所(入院)や退所(退院)など、ある程度相談の内容がしぼられてくるのではないかなと思います。
一方、包括の相談内容は本当に多岐にわたります。
介護保険のことはもちろん、ご家族やお金、住環境など、65歳以上の方は原則なんでも相談できます。
高齢者の方のさまざまな悩みと向き合うので、マンネリを感じたことはありません。ひとつひとつの相談に私自身もどうしようと悩みながら、ほかの職員に相談しつつ解決策を考えていく。
いつも新鮮な気持ちで、新たな学びや発見ができる環境だと思います。
地域の情報収集は大変でもあり、魅力でもある
___逆に、包括ならではの大変なことはありますか?
堀兼:地域の情報を収集するのは大変ですね。
包括は地域に根づいた総合相談所なので、あらゆる相談を受けます。
相談を受けたとき、私たちの窓口ですべて解決できるわけではありません。消費者被害などは消費生活センターなどの関係機関と連携していくことで予防や解決につなげます。
そのほかにも、介護保険事業所や保険外サービスなど地域のあらゆるサービスの情報を把握して、はじめてさまざまな相談に対して適切な提案ができると思います。
だから、地域の情報収集はとても大切。
けれど、地域の情報はさまざまな場所に散らばっています。
インターネットはもちろん、役所が発行しているパンフレットなどから情報を得たり、包括に残っている過去の記録を参考にしたり、人づてに情報を得たり……いろいろな方法を活用して情報を集めています。
ただ、どんなに努力してもすべての情報を網羅することは難しい。
最近も、「こんなサービスをしているところがあったんだ」と驚きました。だからこそ、地域包括支援センターの職員として地域情報収集のアンテナはずっと張っておく必要があります。
大変ですが、さまざまなサービスの存在を知ったり、いろいろな人と関わったりできるので、いい刺激になります。逆にそれが、包括で働く魅力であり、やりがいとも言えるのかもしれません。
想像力を働かせながら、「こういうことに困っているんじゃないかな」という視点で話す
___どんな人が包括に向いていると思いますか?
堀兼:うーん……難しいですが、「本当の困りごとを見極める能力」は大事なスキルのひとつになると思います。
お話好きだったり、寡黙だったり、同居家族がいたりいなかったり、性格や環境など高齢者の方の状況はさまざま。
その人にあわせてできるだけ話しやすい雰囲気をつくり、じっくりと話を聞くことが大切です。
また、人によっては本当の思いとは裏腹なことを言ってしまったり、本当の困りごとに本人自身が気づいていなかったりするケースもあります。
そのような場合はご本人の言葉をそのまま受け取らず、「こういうことですか?」「こういうこともありませんか?」と、潜在ニーズや思いが出てくるように代弁したり促したりします。
___それは訪問相談だけでなく、すべての相談に対してでしょうか?
堀兼:そうですね。すべての相談において、想像力を働かせながら「こういうことに困っているんじゃないかな」という視点で話していきます。
簡単なようで、実は一番難しいことかもしれません。
ある程度の経験があると想像しやすいのかもしれませんが、経験がないから向いていない、できないということは決してありません。
共感して想像する努力を積み重ねていけば、きっと大丈夫です。
___対人援助技術が大切なんですね。
堀兼:ほかにも、関係各所と連携していくための社会コミュニケーションスキルも必要です。
包括ではさまざまな関係機関と連携して、高齢者の方の生活を支えています。関係が悪化すると適切な支援ができなくなる可能性もあるので、良好な関係を築いていくことが大切です。
新たなサービスを知って問い合わせをするときなども、うまくコミュニケーションをとっていく必要がありますね。
「ここまで人の生活に入り込める仕事はない」地域包括支援センターで働くということ
___さいごに、「地域包括支援センターで働く」ことについて堀兼さんが感じていることを聞かせていただけますか?
堀兼:専門外の高齢者福祉の分野でしたが、包括で仕事をしていくうちにその魅力にハマりました。
やっぱり、人と関わるのは楽しいです。
なかなかここまで人の生活に入り込める仕事はないんじゃないかなと思います。
居宅のケアマネジャーも同じような環境だと思いますが、ケアマネジャーの場合は介護保険を利用する前提で相談が進みます。
包括の場合は「その前の段階」なので、拒否があったり、波があったり、さまざまな状態の方の相談を受けます。なかには、訪問して「出ていけ!」と怒鳴る人もいます。
そんなときは「なんでこんなに怒っているのかな? しつこくしていないのにどうしてだろう?」と興味を持ってしまいますね。人っておもしろいなーって。
ちょっと変わっているかもしれません(笑)。
でも、いろいろな人がいて良いと思うんです。
むしろ、いたほうがいい。いろいろな人に関わることでしか得られない学びや経験ってありますよね。拒否されて、はじめてわかることもあるんです。
高齢者の方のサポートをしているようで、実は多くのことを教えてもらっている立場だと感じています。
そういう環境で働けている私は、とても恵まれています。
だから、これからもずっと包括で、高齢者総合相談センター立石で働いていきたいです。
編集後記
地域包括支援センターで働く、社会福祉士・堀兼良佑さんにお話を伺いました。
物腰柔らかで、丁寧な言葉づかいが印象的。決して、人に不快な思いをさせない雰囲気の方です。
性格的な部分もあるかもしれませんが、きっと、さまざまな高齢者の方と接するうちに身に付けたスキルも大きいのではないかと思いました。
膨大な業務に追われ、利用者さん自身と向き合う時間が少ない介護職も多いでしょう。
もし、「本当にこれでいいのかな」「私がやりたかったことってこれかな」と現在の仕事に疑問をもっているのなら、利用者さんとしっかり向き合って支援の提案ができる相談員という仕事を選択肢に入れてもいいのかもしれません。
そのなかでも、生活の場に足を運び、さまざまな相談に対応する地域包括支援センターで働くことは、大きな経験となるのでないでしょうか。
高齢者総合相談センター立石のホームページはこちら
次回の記事では、地域包括支援センターで働く主任ケアマネジャーの中村亜希子(なかむら あきこ)さんに、主任ケアマネの仕事内容や魅力などをじっくり伺いました。ぜひ、お楽しみに!
※この取材記事の内容は、2019年5月に行った取材に基づき作成しています。