ここ数年、多くの介護事業所と関わるようになりました。
職種や役職を問わず、さまざまな職員と話すうちに、わかったことがあります。
それは、ほとんどの事業所でリーダーに関する悩みを抱えているということ。
「リーダーが育たない」「リーダーにふさわしい人材がいない」といった声は、本当によく聞きます。もちろん「うちには優秀なリーダーがいるから何も問題ないよ!」という事業所も存在します。しかし、数としてはかなりの少数派。
いま、多くの介護施設・事業所が「リーダー育成」について悩んでいるといえるでしょう。
今回は、介護事業所の教育・研修に携わっている身として、あらためて「介護現場のリーダー」について考えてみたいと思います。
目次
介護現場のリーダーとは
介護現場のリーダーには、どのような役割があるのでしょうか。
ほとんどの介護現場には、リーダーとは別に施設長や所長などの「管理者」が存在します。
「管理者」は、組織を管理する立場の人であるため、介護現場だけをマネジメントすることはできません。
そのため、「現場を管理する者」として「リーダー」が存在します。
事業所によってさまざまな名称がある「リーダー」
介護現場のリーダーの名称・役職は統一されておらず、事業所によってさまざまです。下記に、いくつか例を挙げてみます。
- リーダー
- ユニットリーダー
- フロアリーダー
- チーフ
- 主任
上記はよく耳にするのではないでしょうか。少し変わったところだと……
- トップケアコンシェルジュ
- トップケアワーカー
などの役職名もあるようです。
現場からみたリーダーという存在
リーダーの名称は違っても、どの事業所にも「リーダーとしての役職をもつ職員」はいると思います。実際にリーダーは存在しているのに、なぜ「リーダー不在」と言われるのか……?
まずは実情を知るために現場の声を集めてみることにしました。
シンプルな3つの質問を用意し、現場の職員、管理者、リーダー本人に回答してもらいました。
協力していただいた施設・事業所は、特別養護老人ホーム、デイサービス、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、訪問介護事業所の5つ。全ての回答は挙げられないため、抜粋して掲載します。
質問1:あなたが働く事業所の「現場のリーダー」はどんな存在ですか?
<現場の声>
☞現場の方向性を決める人
☞現場の動きを管理する人
☞困ったときに相談する人
☞指導者というか、ケアの手本を示してくれる人
☞いてもいなくてもあまり変わらない、名前だけの人
☞名前はリーダーだけど、特にみんなと変わらない
☞リーダーの機嫌で現場の雰囲気が変わる、良くも悪くも大きな影響力のある人
「役職」ではなく、「そのひと個人」に関する印象もあるようです。
職場によって、リーダーそのものの立ち位置がだいぶ違うことも読み取れました。
次は管理者の回答を見てみましょう。
<管理者の声>
☞現場の状況を把握してくれている人
☞率先して仕事をしてくれている、信頼できるパイプ役
☞現場をマネジメントする役割、理念を具現化する重要な立場
☞自ら動いて現場を引っ張り、手本を示す役割
☞いい相談役
リーダーの上司にあたる管理者クラスの人たちからは、「こうあってほしい」という希望も含まれた回答になっているようです。
質問2:リーダーについて、困っていることはありますか?
<現場/管理者の声>
☞相談をしても解決しないことが多い……
☞リーダーが休みの日は誰を頼っていいかわからない
☞施設長の言いなり
☞あまり仕事や介護のことを教えてくれない
☞自分で全部決めてしまうから業務がめちゃくちゃになる
☞現場職員に寄り添いすぎている、もっと運営/経営のことも考えてもらいたい
☞自己犠牲になっている、申し訳ない部分でもあるが……
☞リーダーとしての仕事がなにかわかっていないのかも……
リーダーについて、現場職員や管理者が抱える悩みがわかりました。では、リーダー自身はどう思っているのでしょうか?
質問3:リーダーになって困っていることはありますか?
<リーダーの声>
☞全部です
☞リーダーが何をどこまでする立場なのか、いまいちわからない
☞思った以上に職員が指示を聞いてくれない
☞伝え方が難しい。してほしいこと、お願いしたいことはたくさんあるのにうまく
伝えられずもどかしい
☞職員を育てたい気持ちはあるけど、自分でやった方が早いので自分で仕事を抱え
すぎてしまう。悪循環になっている
☞権限がないので現場のことも全て管理者/社長に聞くことになっているが、それなら
リーダーはいなくてもいいのでは?と思ってしまう
回答から、「リーダーだって大変」である状況が伺えます。
今回は「困っていること」にウエイトを置いた質問が多かったので、ネガティブな回答が目立ちましたが、実際は悪いことばかりではないはずです。
今回の結果でいうと、事業所によってリーダーはさまざまであること。そして、良くも悪くも「リーダーの役職をもった人」は、ほとんどの事業所に存在していることがわかりました。
リーダーは現場のヒーローではない
回答から、多くの事業所に「リーダーの役職をもった人」がいる事実が明らかとなりましたが、なぜ「リーダーが不在」「現場にリーダーがいてほしい……」という声があがるのでしょうか……?
それは、役職をもった人は存在しているけれど「現場/管理者が求めているリーダー」ではないという、理想と現実の差が激しい環境にいるからかもしれません。
特に多かったのが……
「リーダーが現場寄りの考えに偏ってしまい、適切なマネジメントを行っていない」
という声でした。
職員が困っているときに颯爽と駆けつける、困りごとを瞬時に解決するなどの「現場になくてはならない存在」、いわゆるヒーロー的立ち位置。「この人がいないと現場は成立しない!」とまで言われるほどの存在感。
だれしも一度くらいは、そのようなヒーロー的存在に憧れたこともあるのではないでしょうか。
現任リーダーの中には、そのような素晴らしいヒーローを理想のリーダー像にしてしまっている人もいるようです。
一見、ヒーローリーダーを目指すことは良いようにも思えますが、リーダーとは、そう単純にはいかないものです。
「自分」ではなく「現場」をヒーローにする
「その人(リーダー)がいなければ現場が成立しない」状況は非常にリスキーです。
リーダーに限らず、計画作成担当者や管理者も同様です。1人のヒーローによって成り立っている事業所は非常にもろく、突発的な事態への対応力が備わっていないため、危機的状況に陥りやすいといえます。
では、リーダーの真の役割とはなにか。
それは、「自分がいなくても同じクオリティのケアを提供できる現場」をつくること。
管理者とは違う立ち位置のアプローチで、1人のヒーローに頼らずにすむように「職員全員がヒーロー」になれる環境を整備し、強い組織をつくりあげることが求められます。さらに、現場だけではなく「運営/経営の視点」で物事を捉えられるスキルも必要となります。
正しいリーダー像は、人それぞれ異なる
ヒーローとしてのリーダーに限らず、自身の中にある曖昧なリーダー像を頼りに仕事をするのは当然リスキーです。そのほか、「リーダーとはこうあるべき!」と本人が強い思い込みを持っていることも避けたい事項です。
思い込みをもつきっかけとして、他者による刷り込みの機会があることも考えられます。
そのため、リーダー本人だけでなく任命者側も気を付けてほしいポイントです。
それでは、正しいリーダー像とは何でしょうか。
人にはそれぞれ個性があるように、現場やリーダーにも個性があります。現場、法人、人の特性に合ったリーダーを目指す必要があるのです。
管理者とリーダーの「任命プロセス」で認識のズレをなくす
そこで重要となるのが、任命側の意向です。
リーダーに任命した理由を本人と任命側双方で確認・共有することで「その人のリーダー像」が構築されはじめるからです。
経験上、適切なリーダー誕生の裏には、任命以前のプロセスが大きく関与していると感じます。
任命のプロセスが上手くいく前提には、管理者/経営層/育成者とリーダー候補者をはじめとした職員間で適度なディスカッションや能力評価が存在していることが、一例としてあげられます。
私の場合、現場よりもマネジメントが合っていると認識していると当時働いていた病院の上司に話したことで「マジメントの分野で活躍してほしい」と役職をいただいた経験があります。
「マネジメントの分野で活躍してほしい」という任命理由を上司が私に共有する(プロセス)ことで、おのずと「自分のリーダー像」ができていきます。
このプロセスをたどれば、その人の進むべき方向性に対して、双方の認識のズレが起こることも少ないでしょう。
リーダー以外のキャリアにも重要な「任命のプロセス」
任命のプロセスは、リーダーだけでなく別のキャリアを考えるメンバーに対しても重要なコミュニケーション方法です。
「将来的に、講師などの教える立場になりたい」
「現場経験は十分に積んだので、別の角度からも見てみたい」
そんな風に、現場職員にもそれぞれやりたいことはあるでしょう。その人の望むキャリアを考えた結果、用意した道(役職・仕事)であれば、お互いにやりがいも大きくなるのではないでしょうか。
逆に、意味もなくリーダーを任命したり、「こうあるべき!」と思い込みに縛られているリーダーがいたりする現場がどうなるかは……ご想像の通りです。
リーダーが介護現場で行うマネジメント
リーダーは、言い変えるとマネジャーと表現することもできます。そういえば、「マネジャー」という役職名がある介護事業所は少ないかもしれませんね。場合によってはリーダーよりも適切な名称になるかもしれません。
マネジャーといえば、マネジメントを実践する人のことです。さて、マネジメントする人とは……いったいどんな人でしょうか?
「マネジメント」の発明者とされるピーター・ドラッカーは、マネジャーを「組織の成果に責任を持つ者」と定義しています。それでは、介護現場に落とし込んで考えてみましょう。
チームによる成果を最大化させるために考え、実行していく
まずは、介護現場の登場人物を整理してみます。
「リーダー」「チーム」「メンバー」「利用者」の4者が主な登場人物ですね。「チーム」は人物ではありませんが、大事な役割があるので加えています。
それでは、それぞれの関係性・役割を確認しましょう。
リーダーは、当然ながらチームをまとめます。
チームは、サービスの対象である利用者にケア/支援/貢献を提供します。
利用者は、その存在やニーズによってチームに存続と発展をもたらします。
一方でチームは、メンバーである介護職員に対して自己実現の機会や役割を提供します。
対して介護職員は、チームに仕事の機会や地位、信頼をもたらします。
このような関係性・役割から、リーダーは「チームによる成果を最大化させるために今何が必要で、自分はどうあるべきか?」を考える必要があります。
つまり、リーダーによるマネジメントとは、「チーム」が明確に存在し続けるために考え、実行していくことといえます。
適切なマネジメントを行うには、相応の報酬が必要
リーダーとしてのマネジメントを実践する上で、実際に行うことは以下の3つに集約されます。
- 管理/経営層と現場職員双方の話を聞き、伝え、納得を得る
- チームが望ましい方向に進むための調整を行う。そのためのシステムを構築する
- 現場レベルで実践する(動く)
リーダーは、自分の権限の中で上記のマネジメントを実践しなければなりません。とても大変な仕事です。
ところが、仕事と責任は増えているにもかかわらず、報酬と権限は増えない……という名ばかりのリーダーを配置している事業所は少なくありません。つい先日も、なんの辞令もなくいつの間にか役職がつけられ、責任だけを求められて困っているというエピソードを聞きました。
このような場合、いくら「マネジメントが大切」と言われてもやりようがないでしょう。
リーダーに適切なマネジメントを行ってほしいのであれば、相応の報酬は必ず与えるべきです。
リーダーが育たないのか、育てられないのか
こうなると「リーダーが育たない」のではなく「リーダーを育てられていない」ということにもなります。
ある事業所では、画期的な方法で介護職員の人材育成を行っています。
それは、新入職員から中堅職員、そしてリーダーになる過程で、細やかな面談と研修でフォローする方法。職員のキャリアアップとして「現場のプロ」「管理者」「指導者」などいくつかルートを用意し、職員個々の特性と能力を担当者が把握して、資質のある職員をそれぞれのルートで育成しています。
リーダー候補となる職員には、常に現場で起きた状況や現在の職員配置等から「シミュレーション」をする訓練を施し、マネジメント能力を養う機会を提供しています。評価されるスキルも当然、ルートによって異なります。「現場のプロ」であれば現場の介護スキルが評価されますが、「リーダー」であればマネジメントスキルが高く評価されます。
こんな事業所は要注意!
一方で、管理/経営者が全員に「なんか嫌なことある?」と20分ほど聞くカタチだけの無駄な面談をして、満足している事業所もあります。
この方法では、当然職員の特性や能力が把握できないため、いい加減な人事になってしまいます。職員の特性や能力を活かした適材適所の配属はできないでしょう。
先に紹介した事業所では、現場をしっかりマネジメントできる適切なリーダーが育ち、後者の事業所では「前のところでもやってたし、とりあえずこの人で」など、雑なリーダー任命をして現場が混乱する事態に陥るのは、当然の結果と言えるでしょう。
とくに下記のような状況にある事業所は要注意です。
- 明確な理由なしにリーダーを任命している
- リーダーを任命しっ放しで放置している(自助努力に任せている)
- 「リーダーが育たない」「良いリーダーが出てこない」という声が上がっている
- 組織力が低下し、ケアのレベルも低下している
このような環境では、リーダー・職員ともにモチベーションとレベルが下がっていくことになるでしょう。
リーダー育成は、適切なプロセスをたどることが大切
リーダーを育成する上で大切なのは、適切なプロセスをたどること。
教育や研修が整備されていない事業所でも、下記のプロセスをたどることでリーダーを育成できます。
- 事業所側はリーダーに理念/目標を伝える
- 事業所側は理念に基づいた、リーダーの仕事/役割を伝える
- 事業所の理念や自分の仕事を把握した上で、リーダーは現場をどうしていきたいかというビジョンをもつ
- そのビジョンを実現するために、現場にどう動いてほしいか、職員に何を考えてほしいかを考える
- リーダーの考えを職員に理解してもらうために、まずは現場に理念を浸透させる
- その後「うちにはこのような理念があるよね。だから、私はこんな現場にしたい。そのために、みんなにはこのように考え、動いてほしい」と、現場に求めることを伝える
新任リーダーが一番最初にする仕事は、事業所の理念/目標を確認して「ビジョンを理解すること」。
その上で、下記を考えることが現場リーダーの実践するマネジメントの基本になります。
- 現場の職員を通して事業所の理念/目標をどう実現していくか?
- 職員に自分というリーダーを使って事業所の理念/目標をどう実現してもらうか?
リーダーは法人・事業所の理念/目標というビジョンに対して、「どうやって」実現するか? を突き詰めて考え、現場レベルで作りだしていきます。
こうすることで、任命されたリーダーが「自分なりの理念」を掲げてしまうリスクが減少します。
そのため、事業所側はリーダーを任命したあとすぐに
- あらためて法人や事業所の理念/目標を示す
- リーダーの権限を明確に示す
を確実に行うことが大切です。
このプロセスをたどることで、リーダーは適切なビジョンを描くことができ、職員に対して行動・思考してほしい内容が明確になります。ブレなく仕事ができるため、リーダーとしての役割を果たしていけるでしょう。
さいごに
良くも悪くも、現場の職員にとってリーダーは大きな存在です。
そして、現場の顔になるのもまたリーダーです。リーダーは常に見られていますし、実務でも対外的にも重要な役割を持っています。
法人や事業所は、リーダーを任命するときに「誰もいないからこの人で」などと雑な決め方にならないように気を付けましょう。
適切な人事を行うには、常日頃から職員個々の能力や適性を把握するための手法と育成を実践する必要があります。
リーダーは法人・事業所の理念を把握し、「理念を実現するために自分が現場の職員とともにできることはなにか?」を突き詰めていくことが大切です。
今の介護現場は、人手不足や利用者の多様化で疲弊していることも事実です。日々大変な思いをしていると思いますが、リーダーという立場だからこそ、得られることも多いはず。
自身とチームのためにも、現場のリーダーとして今後さらに活躍していってください。