さまざまな種類がある介護施設の施設形態のひとつに、「サービス付き高齢者向け住宅」と呼ばれるものがあります。
国土交通省と厚生労働省が所管する「高齢者住まい法」の改正によって創設されたもので、「サ高住(さこうじゅう)」「サ付き」という略称でも呼ばれています。
国土交通省の調査によると、2017年12月時点でのサ高住の登録戸数は225,374戸。
2011年に創設されてから約6年で大幅に登録数を増やし、全国的にも普及しています。
この記事では人気が高まりつつあるサ高住について、サービス内容や費用、入居基準、有料老人ホームとの違いなどを詳しく解説します!
目次
サービス付き高齢者向け住宅とは
サービス付き高齢者住宅とは、高齢者が単身または夫婦・親族とともに暮らせる賃貸住宅のことを指します。
2011年、国土交通省と厚生労働省が所管する「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正により、登録制度が創設されました。
高齢者が安心して暮らせるようにバリアフリー構造で建てられているほか、安否確認や生活相談といった見守りサービスの提供が義務付けられているのが大きな特徴です。
サ高住には「一般型」と「介護型」の2種類がある
サ高住には、「一般型」と「介護型」の2種類の形態があります。
「一般型」はあくまで賃貸住宅としてサービス展開しているため、入居者に介護が必要になった場合、外部または提携先の護事業者から介護サービスを受けるようになります。
一方「介護型」は特定施設入居者生活介護事業者の指定を受けているため、介護が必要になっても、常駐するスタッフから日常生活上の支援や機能訓練などの介護サービスを受けられます。
サ高住の入居基準
サ高住の入居対象となるのは、60歳以上もしくは要支援1以上の認定を受けている60歳未満の方または夫婦世帯です。
夫婦でなくても同居は可能ですが、同居は下記の方に限られています。
- 配偶者
- 60歳以上の親族
- 要介護・要支援認定を受けている親族
その他の条件としては「自己管理、自立した生活ができる」「認知症ではない」「感染症にかかっていない」など、施設によってさまざまです。
ただし「介護型」であれば、介護度の高い方や認知症の方にも対応している施設があります。
サ高住ではどんなサービスが受けられる?
まず、どちらのタイプでも共通して行われているサービスとして「安否確認」と「生活相談」があります。
「安否確認」は、定期的にスタッフが直接訪問したり、感知センサーやカメラなどを設置したりして入居者の安全を確認すること。その方法は、施設によって異なります。
「生活相談」は、常駐する生活相談員、もしくは委託している外部の事業者が入居者のさまざまな相談に応じることを指します。
「介護型」ならではのサービス
「一般型」のサ高住の場合、食事・掃除・洗濯のサポートといった生活支援や、入浴・食事・排泄などの身体介護、機能回復訓練などのサービスを受けるには入居者が必要に応じて外部の事業所と個別契約する必要があります。
しかし「介護型」のサ高住は特定施設入居者生活介護の指定を受けているため、それらの「介護サービス」を同施設内で提供することができます。
バリアフリーが特徴!サ高住の規模・設備
サ高住の規模・設備については、「一般型」も「介護型」も共通の基準が定められています。
- バリアフリー構造であること
- 1居室当たりの床面積が25平方メートル以上であること
(ただし、十分な広さの居間や食堂、台所などの共同設備がある場合は18平方メートル以上) - 1居室ごとに台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備えていること
(ただし、台所と収納設備または浴室は、共同スペースに各居室に備える場合と同等以上の環境が確保される場合には、各居室に備えていなくても可)
施設によっては、共有スペースの設備としてレストランや温泉、カラオケルームなどが設置されているところもあります。
さらに、入居者に対してスムーズに介護サービスを提供するために、訪問介護事業所や居宅介護支援事業所などが併設されている施設もあります。
いくら必要? サ高住の費用・料金
サ高住の費用には、初期費用と月額利用料があります。
サ高住のほとんどは賃貸住宅のため、利用者さんは入居時に事業者と賃貸借契約を結ぶことになります。
そのため、通常の賃貸住宅の契約と同様に、初期費用として敷金が必要となるのです。
※敷金は原則、退去時に居室の原状回復をして余った費用が返還されます。
ただし事業者が入居者に請求できるのは敷金と家賃、サービス対価のみ。礼金や契約更新料、入居一時金などを受け取ることはできません。
月額利用料の目安は、下記のとおりです。
家賃と共益費 | 4万円~(地域によって異なる) |
---|---|
食費 | 4万円程度(1日3食×30日間の場合) |
水道光熱費 | 実費 |
基本サービス費 | 1万~4万円程度 |
合計 | 9万円~(全国平均は10万円程度) |
家賃と共益費は、地域の賃貸住宅料金に準じた金額になっています。
居室または共用スペースにはキッチンが設置されているため、食堂で提供される食事サービスを利用せず、入居者自身で自炊することもできます。食費は食事サービスを利用した分だけ請求されます。
日中はケアの専門家が常駐!サ高住の人員配置
サ高住では9時から17時までの間、最低でもひとり以上、ケアの専門家が常駐しています。
ここでいうケアの専門家とは、以下の者を指します。
- 社会福祉法人・医療法人・指定居宅サービス事業所等の職員
- 医師
- 看護師
- 介護福祉士
- 社会福祉士
- 介護支援専門員
- 介護職員初任者研修課程修了者
常駐場所は、敷地内か隣地敷地内、もしくは歩行距離で約500メートル以内の隣接する土地の建物です。
スタッフは1日に1回以上、訪問などの方法で「安否確認」を行います。
サ高住では夜間の人員配置の義務がないため、多くの施設では夜間にスタッフを配置していません。
しかしスタッフが常駐していない時間帯においても、各居室に設置している通報装置に対応してサービスを提供します。
サ高住の契約には、高齢者の生活を守る基準がある
都道府県などへの登録が必要なサ高住では、契約に関して二つの基準が定められています。
ひとつは「高齢者の居住の安定が図られた契約であること」。
もうひとつは「前払家賃等の返還ルールおよび保全措置が講じられていること」です。
具体的には、下記のような決まりがあります。
- 書面による契約を交わすこと
- 専用の居住部分が明示された契約内容であること
- 受領できる金銭は敷金、家賃・サービス費のみで、権利金などの金銭を受領しないこと
- 長期入院などを理由に事業者から一方的に解約できないこと(居住の安定が図られた契約内容になっていること)
- 前払金の算定基礎、返還債務の金額の算定方法が明示されていること……など
いずれも高齢者の安全で安心な生活を守るための基準です。
有料老人ホームとサ高住の違い
高齢者を対象とした介護施設のひとつに、「有料老人ホーム」があります。
両者は運営母体が主に民間企業であることなど、たくさんの共通点があります。
とくに、「食事の提供」「介護の提供」「家事の供与」「健康管理の供与」のいずれかを行っているサ高住は制度上では有料老人ホームに該当するため、違いが分かりにくくなっています。
そこで、両者の特徴を比較し、まとめました。
有料老人ホーム | サービス付き高齢者向け住宅 | |
---|---|---|
施設の特徴 | 「介護付き」「住宅型」「健康型」の3タイプがある。 タイプに関係なく、施設の特色などのバリエーションが豊富。 さまざまな高齢者を対象としている |
「一般型」と「介護型」があるが、9割以上は「一般型」。 主に介護を必要としていない高齢者を対象としている |
介護サービス | 介護付き:施設のスタッフによる介護サービスを提供 住宅型:外部の事業所による介護サービスを提供 介護型:常駐スタッフによる介護サービスを提供 |
一般型:外部の事業所による介護サービスを提供 健康型:基本的に介護サービスは受けられない |
入居条件 | 「60歳以上の自立の方」や「原則65歳以上で要介護1以上の方」など施設やタイプによって異なる | 60歳以上の高齢者 |
費用 | 初期費用:0~数千万円 月額利用料:20~40万円 |
初期費用:敷金のみ 月額利用料:10万円程度 |
契約形態 | 利用権方式 | 賃貸借方式 |
バリエーションの違い
有料老人ホームは、「介護付き」「住宅型」「健康型」の三種類があります。それぞれバリエーションに富んでおり、高齢者が自分の生活にあった施設を選ぶことができます。
一方、サ高住は主に介護を必要としていない高齢者に安否確認や生活相談のサービスを提供する施設。
老後の生活を安心して送るための住居として適しています。
介護サービスの違い
有料老人ホームの介護サービスは、タイプによって異なります。
介護付き | 一番介護サービスが手厚い形態です。 施設の職員または提携先の介護サービス事業所が24時間体制で介護サービスを提供するほか、洗濯や掃除などの家事サービス、健康管理などのサービスが提供されています。 |
住宅型 | 外部または併設している介護事業所が、介護が必要になった入居者へ介護サービスを提供します。 |
健康型 | 自立の方を対象としているため、基本的に介護サービスは受けられません。 必要に応じてのみ、食事や洗濯、掃除などの家事サービス、健康管理などのサービスを施設から受けることができます。 |
一方、サ高住の場合はほとんどが「一般型」のため、基本的には外部の介護事業所が入居者に対して介護サービスを提供する形になります。
特定施設入居者生活介護に指定されている「介護型」の場合には、有料老人ホームと同様に、施設に常駐しているスタッフが24時間体制で介護サービスを提供します。
入居のハードル
有料老人ホームはタイプや施設によって入居条件が異なります。
介護付き(介護専用型) | 原則65歳以上で要介護1以上の方 |
住宅型 介護付き(混合型) |
60歳または65歳以上の自立もしくは要介護認定者の方 |
健康型 | 60歳または65歳以上の自立の方 |
一方、多くのサ高住の場合、基本的に60歳以上の高齢者であれば誰でも入居できます。
ただし、要介護度の低い方を対象とした施設もあります。
費用の違い
有料老人ホームでは、一定期間分の利用料金をまとめて前払いする「入居一時金(前払金)」と「月額費用」を支払います。
入居一時金(前払金)は0円~数千万円と施設によって異なります。入居してから一定期間で契約が終了した場合は、利用期間分の利用料金などを償却した金額が返還されます。
一方、サ高住では有料老人ホームのような入居一時金は必要なく、基本的に初期費用は敷金のみです。敷金は、一般的な賃貸住宅のように退去時に原状回復に必要な分を除いて返金されます。
月々にかかる費用は、家賃・共益費やサービス費用、食費、水道光熱費など。
一般的にサ高住のほうが安価に住めるでしょう。
契約形態
有料老人ホームとサ高住の一番の違いはこの「契約形態」です。
終の棲家として利用される有料老人ホームでは、多くの場合、入居時に「利用権契約」を結びます。
利用権契約とは、入居一時金を支払うことで終身利用権を得る契約。
施設が提供するサービスを契約する、という条件で、居室・共用部分・設備などを終身にわたり利用する権利を購入することになります。
一方、ほとんどのサ高住では、入居時に一般的な賃貸物件の契約と同様の「賃貸借契約」を結びます。
契約には家を借りるところまでしか含められていないため、介護サービスなどは別に契約する必要があります。
サ高住に入居するメリット・デメリット
サ高住を利用する入居者にとって、どのようなメリットやデメリットがあるのか見ていきましょう。
メリット
入居者のメリットとして、以下のようなことがあげられます。
- 外出許可などがいらず、自由度が高い
- バリアフリー構造や安否確認サービスがあるため、安心して生活できる
- 初期費用が敷金のみなので、安価で入居できる
- 必要な介護サービスを選択して利用できる
入居者の大きなメリットは「自由度が高い」環境であるということ。
サ高住は一般的な介護施設と異なり、外出や外泊、来客などに付き添いなどの制限がないところが多いです。
また、介護が必要になった場合は、外部の介護サービスを選択して利用ができます。そのときに必要なサービスだけを自分で選んで受けられるのも安心ですよね。
デメリット
入居者のデメリットとして、以下のようなことがあげられます。
- 介護・医療サービスは別途費用のため、状況によっては月々に必要な費用が高額になることも
- 入居後に要介護度が高くなった場合、退去を求められる場合もある
- 看取りや医療ケアが充実しておらず、終の棲家としては利用しづらい
介護や医療などのサービスは別途費用になります。
少ない頻度で利用する分には大きな負担とはなりませんが、要介護度が高くなり多くのサービスが必要となった場合、その費用は高額になることもあるので注意しましょう。
また、サ高住の入居基準や退去条件が運営会社によって異なる点にも要注意。
中には要介護度が高くなったり、医療ケアが必要になることで退去を求められるケースもあります。
どのような場合に退去となるのか、どんな状態になったら住みづらくなるのかを事前に確認しておきましょう。
サ高住で働くメリット・デメリット
つぎに、サ高住で働くスタッフにとって、どのようなメリットやデメリットがあるのか見ていきましょう。
メリット
働く人のメリットとして、以下のようなことがあげられます。
- 自立度の高い入居者が多いので、身体的な負担が少ない
- 施設によっては夜勤がない
- 入居者の個性や性格を尊重し、要望をかなえられる
一般的な介護施設・事業所を利用する人の多くは、要介護認定を受けています。
とくに特別養護老人ホームは利用者の平均要介護度が高く、身体介護を提供することがメインとなるため、介護職員の負担は大きなものとなります。
しかし、サ高住の入居者の多くは自立または要介護度の低い高齢者です。
その上、ほとんどのサ高住では外部の介護事業所が介護サービスを提供するため、身体介護を提供する機会もそう多くありません。それだけスタッフの身体的負担も少ないでしょう。
さらに、サ高住は夜間の人員配置が義務付けられていません。
夜間にスタッフを配置していないサ高住も多いため、夜勤ができない人にとっては働きやすい環境と言えるでしょう。
デメリット
働く人のデメリットとして、以下のようなことがあげられます。
- 運営会社によって差が大きく、選びづらい
- 身体介護スキルを学びづらい
- 言葉づかいや身だしなみに気を遣う必要がある
サ高住は、タイプや運営会社によってスタッフの職場環境が大きく変わります。
身体介護や夜勤の有無、常駐スタッフなのか兼業スタッフなのかも運営会社によってさまざま。
身体介護がないと思って入職したのに、実際は常駐スタッフではなく他施設のスタッフと兼業だった、ということもあります。
「こんなはずではなかった」とならないように、入職する前にきちんと確認しておきましょう。
また、メリットであげたように、常駐スタッフのほとんどの場合は身体介護を行いません。
身体への負担が少ないというメリットがある一方で、身体介護スキルが身につきづらい、忘れてしまうといったデメリットになることも。
編集者より
有料老人ホームや特別養護老人ホームといった従来の施設とは違って、賃貸借契約を結ぶことが特徴のサ高住。
初期費用や月額費用が安く入居基準も60歳以上とほかの施設よりも入居のハードルが低いため、人気の高い施設です。
人気の高さが影響し、サ高住の登録数は年々右肩上がり。今後もますますの増加が見込まれます。
施設数が増えることで介護職員の求人も増えるため、多くの人がサ高住を職場の選択肢のひとつとして考えることができるでしょう。
サ高住は介護保険適用の施設ではないため、職場によって働き方や環境がさまざま。
働く側としてしっかり職場環境を確認し、認識のズレが起きないように気を付けましょう。
参考文献・サイト
- 厚生労働省『サービス付き高齢者向け住宅について』
- 東京都福祉保健局『特定施設入居者生活介護(サービス付き高齢者向け住宅)について』
- 厚生労働省『どんなサービスがあるの? – 特定施設入居者生活介護』
- 厚生労働省『高齢者向け住まいについて』
- 国土交通省『サービス付き高齢者向け住宅』
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