インタビュー

「自分が正しいと思っているメンバーを、どこまでフラットにしていけるか」施設ケアマネジャー・棈松憲郎さんインタビュー

場所は千葉県、柏市。JR柏駅からバスに揺られて、のどかな畑の合間をぬって歩いた先に、その特別養護老人ホームはありました。
施設の名前は、「あおいの里・柏」。
ショートステイ・デイサービスも展開している、昨年できたばかりの新しくて綺麗な施設です。

入居定員100名を誇る特養で、入居者さまによりよい生活を送ってもらうべく、施設ケアマネジャーさんは日々奮闘されています。
ケアマネジャー1年目となる、棈松憲郎(あべまつ のりお)さんもその一人です。

介護のお仕事研究所は今回、「施設ケアマネの魅力」を探るべく、現役ケアマネジャーである棈松さんにお話を伺ってまいりました!

同じ特養の職員でも、違う角度からケアを見たかった

 ――棈松さんがケアマネジャーになるまでの経緯を教えていただけますか?
棈松憲郎さん(以下、棈松):以前は別の特養で、10年ほど現場で介護職をしておりました。

ケアマネジャーはその頃から職員として身近なところにいたんですけれども、「実際どのような仕事をしているのかな?」というのは見えないところもあったんです。

介護職員からケアマネジャーになれば、別方向から入居者さまのケアが見えるのかなって思って、資格を取りましたね。
同じ組織の中で視点を変えてみたいというのがあったので、施設ケアマネジャーを選ばせていただきました。

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できたばかりの「あおいの里・柏」。シックな外観が素敵です。

 ――施設ケアマネジャーの、どんなところに魅力を感じていますか?
棈松:専門職の方がたくさん身近にいるのは、学ぶことが多くていいところかなと思います。
医療のことであれば看護師の方、食のことであれば管理栄養士さんの方とか、いろんな分野の方が1つの場所に集まっているんですね。
分からないことがあった時にすぐ聞けるのは、スキルアップや知識の面で強みなのかなと思います。

みんな自分が正しいと思っている、だからそこをすり合わせる

 ――実際にケアマネジャーになられて、現場の介護職だった時と違うな、と思うのはどんなところですか?
棈松:知るべき情報の違いはありますね。

現場では本人がいて、どんな資源が必要かを考えればよかったと思うんですけれど、今の立場になって「目の前の入居者さまの課題を解決するために、さまざまな過程がある」と知りました。

あとはご家族の姿が見えることかな。現場で入居者の方だけ見てるのとは違う見方になりますね。立ち入った話を聞いて板挟みになるというか……。
家族との関わりは変わってくると思いますね。

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入居者さんが利用される個室。広々としています。

 ――関わる人が増えて、ケアマネジャーのお仕事は大変なことも多いかと思います。どのようなところで、大変だと思われますか?

棈松:近くで得られる情報がある反面、居宅のケアマネさんみたいに外部の同業者と情報交換がしづらいところですかね。
あとはやはり人のお世話をする仕事なので、「自分が正しい」っていう意見も絶対じゃないこと。いろんな職種の考えのすり合わせや、折り合いをつけることも大変です。

 ――他の職種との連携は、やはり悩まれるポイントですか?

棈松:視点も違うでしょうし、キャリアもいろいろと違いますから……。入居者さまの幸せや生活の質を考えた時に、それぞれの職種で自分の考えが映り込んでしまうのかなって。

たとえば「健康のために野菜しか食べちゃだめです」ってお医者さんが入居者さまに言ったとして、一生お肉を食べられないような生活をしたとして。
それで健康になったからって、「幸せですか?」っていうとどうなのかなってところ、あるじゃないですか。
その落としどころを考えた時に、単に自分に置き換えてるだけの主観が混じってる部分を、どうフラットにするかは考えるところですね。

 ――そのすり合わせはどのようになさっていますか?
棈松:文章にすることですね。
書き出すと自分の意見を冷静に客観視できますし、文章に残しておけば他の方の目にも触れる機会があると思うので……。
すり合わせのことを考えると、「ケアマネとして必要な素質」は、知識経験よりもよく話せることなのかなと思います。

心を開いてもらえた瞬間には、喜びと驚きがいっぱい!

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面談コーナーは、施設内をお散歩される入居者さまの休憩スペースにもなるそうです。
あおいの里・柏の内装は『源氏物語』がモチーフになっていて、ユニットも「柏木」「若紫」といった名前になっています。屏風絵のパネルがみやびですね。

 ――しかし一方で、ケアマネジャーのお仕事にはやりがいもたくさんあると思います。お仕事をされていて、嬉しかったことはありますか?
棈松:ベタですけど……やはりご家族の方に名前を覚えていただいて、声をかけていただけたことですね。少しでもお役に立てているのかな、ありがたいなって思います。
たとえばご家族さんでもとっつきにくい方……って言ったらあれですけど、ちょっと普段そっけないような方が、なにかの拍子に「ああそういえば」って名前を呼んでくださったりすると、覚えていただけてるのかなって嬉しくなります。

 ――それでは、ケアマネジャーのお仕事で驚いたことは?
棈松:相手との距離が思った以上に近くなる時があることですね。
やる前は「入居者さまのことだけ話していればいいのかな?」と思っていたんですけれども、経済状況の話だったりとか、家族・親族の関係の話だったりとか……言いにくいようなことを話していただくことがあって。
もちろん必要があって言っていただけているんだとは思うんですけれども、施設に入られている方だけではなくて、その家族の方の立ち入った深いところを聞く機会もあるんです。
そんなことまで話しちゃうんだ!と驚く時はありますね。

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介護入浴装置。写真ではあまり伝わりませんが、浴室はとても広々としています。

 ――これからケアマネジャーを目指される方や、なられたばかりの新人さんにアドバイスをお願いします!
棈松:自分が言うのもおこがましいんですけど……。
ビジネスマナーを身につけておいた方がいいかな、と思います。僕が働き始めた時は、一般常識を学ぶ機会が少なかったと感じているので。

入居者さまとの距離感を大切にする上で、いち社会人として知っておくべきことですね。

あとは、あまり「ケアマネってこういう仕事」だって決めつけない方がいいのかな、っていうこと。
何でも学びになって、どれも後々自分の身になることだろうから、変な枠を作らないで入ってみてもいいんじゃないかな。

編集後記

貴重なお話、ありがとうございました!
インタビュー終了後、棈松さんのご案内で施設見学もさせていただいたのですが、すれ違うさまざまな職種の方が、棈松さんに笑顔で声をかけていくのが印象的でした。

ケアマネジャーにとって必要な素質……「人に信頼される」穏やかで優しいお人柄が、垣間見えたように思います。
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