「(介護福祉士養成の)学校の先生になりたいけどどうすればなれるの?」
「講師になるにはどうしたらいいの?」
という質問をこの10数年で数百回は受けてきました。
たしかに、教壇で喋っているあの人たちが「どうやってそこに来たのか」を知っている人は少ないかもしれません。
そこで、今回は介護業界ではちょっとしたレアな職種にも思える介護教員や講師になる方法をお伝えします。
目次
介護業界の「先生」には種類がある
一口に「先生」と言ってもいくつかの種類に分けられます。
私の場合、普段は介護事業等の運営をしていますが、その他介護教員として介護福祉士養成校で非常勤講師(専任教員は少し前に退きました)、実務者研修・初任者研修の講師をしつつNPO法人で介護研修事業として各施設や団体の研修を請け負っています。
その中でも、特に質問が多い「介護教員」「実務者研修教員」「各種講師」についてお話しします(今回は医療的ケア教員については除きます)。
「介護教員」は実務経験と講習会が必須
講師業の中では最も汎用性が高い介護教員、これは介護福祉士等の国家資格を取得していて、5年以上の実務経験があることが前提条件。さらに、「介護教員講習会」というそれなりに長い研修を受けて初めて名乗ることができます。
介護教員になると介護福祉士養成校の専任教員になることができ、3年以上の専任教員経験をもってカリキュラム編成の責任者「教務主任」にもなることもできます。
各養成校には学生の定員が決まっており、その数に応じて専任教員の配置数も決まります。ちなみに40名定員の養成校なら専任教員は3名必要(うち1名は看護師)です。
介護教員講習会カリキュラム
分野 | 開講科目名 | 時間数 | 受講料 |
---|---|---|---|
基礎分野 (2 科目以上で各 30 時間以上) |
社会福祉学 | 30 | 32,000 円 |
心理学 | 30 | 32,000 円 | |
専門基礎分野 (4 科目すべてで90 時間以上) |
教育学 | 30 | 32,000 円 |
教育方法 | 15 | 16,000 円 | |
教育心理 | 30 | 32,000 円 | |
教育評価 | 15 | 16,000 円 | |
専門分野 (7 科目すべてで150 時間以上) |
介護福祉学 | 30 | 32,000 円 |
介護教育方法 | 30 | 32,000 円 | |
学生指導・カウンセリング | 15 | 16,000 円 | |
実習指導方法 | 15 | 16,000 円 | |
介護過程の展開方法 | 15 | 16,000 円 | |
コミュニケーション技術 | 15 | 16,000 円 | |
研究方法 | 30 | 32,000 円 | |
合 計 | 300 以上 |
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介護教員の求人は一般には出回らない
前述した「介護教員講習会」を受ければ介護教員になることができます。が、意外とマニアックな講習会のため、一般にはあまり知られていません。多くの介護教員は養成校に就職してから講習会を受講して介護教員になっています。
ちなみに私の場合も就職が先です。養成校以外で働く人も受けられないわけではないですが、受講者のほとんどは養成校の教職員です(一部科目は放送大学で受講できるものもあります)。
ではどうすれば養成校に就職できるのか……。
これは地域にもよりますが、あまり一般求人としては出回りません。現任の教員から直接声をかけられて教員になるか、もしくは大学をはじめとした各養成校が教員の採用状況をホームページに掲載している場合があるため、随時チェックすることもひとつです。
授業だけじゃない!介護教員の仕事とは?
仕事内容は、もちろん教員なので授業をします。が、当然それだけではありません。
大学・短大・専門学校の場合、自身の研究や実習巡回、学生指導、クラス担任、非常勤講師対応、サークル担当、保護者対応……。さらに、学校によっては新入生獲得のための高校訪問(つまり営業)や出前授業など多岐に渡ります。
ちなみに介護教員が働く養成校は「日本介護福祉士養成施設協会(介養協)」に属し、全国・各ブロック・各都道府県の介養協活動にも参加することになります。
じわじわ人気が広がる「実務者研修教員」
平成28年度から介護福祉士国家試験の受講要件に実務者研修の受講が義務付けられたこともあり、今ふつふつと人気職になってきているのが「実務者研修教員」です。介護現場で働きながら講師を目指す人が増えてきていることに一役買っている印象です。
実務者研修教員になるためには「実務者教員研修」を受講するか、介護福祉士養成校での教歴等が必要です。
実務者研修はあらゆる機関・法人が実施していますので、教員募集も多くなっています。
たとえば「介護過程Ⅲ」のように教員要件が厳しいものもありますが、科目によって要件が変わるため、募集があった場合は積極的に問い合わせてみるのもひとつです。
実務者研修教員の要件
①・②のいずれかに該当+実務者研修教員講習会(50時間)修了
① 実務5年以上の介護福祉士
② 介護に関する科目を教授する資格を有する者であって、以下のいずれかに該当
ア)大学等の教授、准教授、助教又は講師
イ)養成施設、福祉系高校(一般)での教歴3年以上
ウ)福祉系高校(特例)、実務者研修での教歴5年以上
○ 介護過程Ⅲ(スクーリング)及び医療的ケアを担当する教員に限り、一定の要件を課す(スクーリングを委託する場合においても同様)
<介護過程Ⅲ>
・ 専任教員要件の①又は②を満たし、かつ、実務者研修教員講習会、実習指導者講習会等を修了していること等
<医療的ケア>
・ 実務5年以上の看護師等であって、かつ、医療的ケア教員講習会を修了していること等
出典:厚生労働省 実務者研修
要件はないが能力や実績が必要な「各種講師」
「私は講師です」と名乗れば今日からあなたも講師です。
介護事業所には、種別毎にそれぞれ法定研修が定められていることは周知の事実ですが、さらに「施設内研修」を独自で実施することも多くあります。そこで「じゃあ誰が講師になって研修を実施する?」となった時があなたの出番です。いわゆる「外部講師」というポジション。
この講師業は個人でも展開でき、介護教員や実務者研修教員のように「なるための要件」が全くありません。要は能力だけです。
とはいえ、突然「講師いりませんか?」とやってきた人に「あ、お願いします」という事業所はほぼ存在しないので、それなりの実績や能力を示すものを提示するポートフォリオやホームページ等は必要でしょう。
私が講師として依頼を受ける研修で多いものは「虐待」「腰痛予防」などのテーマです。中には「男性保育者向け」「官公庁対象」などの特定の狭い対象に向けた研修や「◯◯障害でADLが◯◯の方の◯◯の介助」というさらに超ピンポイントな研修依頼もあります。
この各種講師の特徴は、
- 他業種からの依頼も受けやすい
- 自分主催の研修会も開くことができる
- 講師料設定が自由
- 特別な設備がなくてもできる
という点にあります。
気になる介護教員・講師の報酬はどのくらい?
介護教員の年収は地域・学校によってバラバラなのでここで取り上げるのは難しいですが、講師については時給もしくは1回の講義毎に報酬が決まるケースがほとんどです。金額は事業所や依頼主の形態によってさまざまです。自分で報酬を決定する場合は研修時間・準備にかかる時間・参加人数・内容…を勘案して料金形態を確定させます。
たとえば、1回1時間半の介護事業所内研修の場合、参加人数20人程度で2~5万円程度の報酬が一般的ですが、受講者が多い場合やテーマによって価格を設定するケースもあります。内容によっては1時間半で10万円程度の講師料になることもあります。
実務者研修のように継続的に開催される研修は、科目・講師の実績によって1時間毎の料金が確定しているものも多く、1,500円~1万円程度と幅広い設定があります。
講義の準備に使う時間等も考えて報酬を捉えることも仕事としては大事です。
介護教員・講師になるということ
最初に挙げたように、教員や講師になりたいという方は本当に多いです。
そこで「なんで教員(講師)になりたいの?」と聞くと6〜7割の方が「自分の経験を伝えたい」と答えます。そこでさらに質問します。
「あなたの経験を伝えたらどうなるんですか?」
教育や研修では個人の経験がモノを言う場面などたかが知れています(超がつくほど特別な経験談がある場合はもちろんニーズがあります)。なんだかんだ言ってベースは最前線の知識を得続けるための勉強、クリエイティビティと専門性の枠に捉われず介護を見つめる目が大事です。
そして、プレゼンテーションスキル・教授スキル・スライド作成スキル等も必須です。求められるものにもよりますが、学術的なベースを持ち、それに自身の経験や研究、勉強したもので味付けをする。
みなさんの学生時代、教科書を読むだけの先生や言葉の説明だけで終わる先生の授業は眠くつまらないものではありませんでしたか?
学校にこもっているだけの先生より学外を飛び回る先生の授業は面白いものだったと思います。
介護教員・講師はハマればめちゃくちゃ面白い仕事です。
みなさんの将来の選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。