少子高齢化が深刻化している昨今、我が国では、高齢者の増加に比例する形で認知症患者の数も増えてきています。
内閣府が発表しているデータによれば、2025年にはその数なんと700万人にのぼるそうです。
施設や病院、訪問介護事業所などで働く介護職員は、認知症の利用者さんと接する機会も多いですよね。
介護のプロフェッショナルとして、認知症に対する専門的な知識やケアをきちんと勉強したい! と思っている方も多いのではないでしょうか。
そんな方におすすめしたい専門資格が「認知症ケア専門士」です。
この記事では「認知症ケア専門士」の資格取得方法や認定試験の詳細、資格取得のメリットなどをわかりやすく解説します。
目次
認知症ケア専門士とは
認知症ケア専門士は、一般社団法人 日本認知症ケア学会が認定する民間資格。
認知症ケアに対する優れた知識と高度の技能を備えた専門技術士の養成を目的として、2005年より認定が始まりました。
この資格を取得することで、認知症に関するさまざまな専門知識と技術を兼ね備えた「認知症ケアのプロ」としてに近づくことができるでしょう。
日本全国で活躍している認知症ケア専門士は、2017年9月時点で32,591人。
主な職場としては認知症患者の方と直接関わる、介護保険施設やグループホーム、有料老人ホームなどが挙げられます。
また、医師や看護師などが認知症ケアに関する知識や技術をスタッフに正しく伝えるため、勉強の一環として資格を取得するなど、医療現場においても認知症ケア専門士の資格は役立てられています。
認知症ケア専門士になるには?
認知症ケア専門士になるためには、定められた受験資格を満たした上で筆記試験と論述・面接試験からなる認知症ケア専門士認定試験に合格し、所定の登録申請を行う必要があります。
受験資格
受験資格は認知症ケアに関する施設・団体機関等において、3年以上の認知症ケアの実務経験があること。
ただし、この実務経験は、認定試験が実施される年の3月31日から遡った過去10年間におけるものが対象となります。
つまり、過去に認知症ケアに関わった経験があっても、所定の期間内から外れる場合には、試験を受けることができません。
また、ボランティア活動や実習は実務経験に含まれないので注意しましょう。
認知症ケアに関する施設・団体機関とは?
認知症患者の受け入れを専門にした施設に限らず、認知症患者の利用者さんがいる施設や団体機関はすべて対象となります。
また、認知症ケアに携わっていることが証明できるなら、職種や職務内容が何であっても制限されることはありません。
具体的にどのような施設が対象となるのか、その一例を見てみましょう。
- 介護老人保健施設
- 特別養護老人ホーム
- ショートステイ
- グループホーム
- デイサービス(通所介護)
- 介護付有料老人ホーム
- 訪問介護事業所
- 居宅介護支援事業所
- デイケア
- 訪問リハビリテーション
- 通所リハビリテーション
- 訪問看護ステーション
- 地域包括支援センター
- 認知症疾患医療センター
- 各市町村の福祉課
など
なお、認知症ケア専門士の受験を申し込む際には、自分が勤めた施設・団体から「認知症ケア実務経験証明書」を発行してもらう必要があります。
公式サイトで販売されている「受験の手引」(=願書)と併せての提出が必須ですので、忘れないようにしましょう。
「認知症ケア専門士」認定試験の概要
認知症ケア専門士の認定試験には、第1次認定試験(筆記)と第2次認定試験(論述・面接)があります。
それぞれどのようにして行われるのか、順番に見ていきましょう。
第1次認定試験(筆記)
第1次認定試験は毎年7月上旬頃に行われる、五肢択一・マーク式の筆記試験です。
問題は4分野(認知症ケアの基礎、認知症ケアの実際I:総論、認知症ケアの実際II:各論、認知症ケアにおける社会資源)から各50問ずつ、合計200問が出題されます。
第1次認定試験の合格条件は、4分野すべてにおいて70%以上の正答率で合格すること。
各分野の合格有効期限は5年間と定められているため、5年のうちに1分野ずつでも合格して4分野クリアできれば、次の第2次認定試験に進むことができます。
1次試験情報まとめ
試験日 | 毎年7月上旬頃 |
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試験分野 | (1) 認知症ケアの基礎 (2) 認知症ケアの実際Ⅰ:総論 (3) 認知症ケアの実際Ⅱ:各論 (4) 認知症ケアにおける社会資源 問題数は各50問ずつで4分野すべてで200問(マーク式・五肢択一) 試験時間は各60分 |
受験地 | 札幌,仙台,東京,名古屋,京都,小倉(福岡) 上記の受験地より1か所を選択 |
受験料 | 3,000円×受験分野数(4教科で12,000円) |
合格要件 | 各分野とも70%以上の正答率で合格 4 分野すべての合格をもって、第1次試験の合格となります。 |
第2次認定試験(論述・面接)
第2次認定試験は毎年12月上旬頃に行われる、論述・面接試験です。
第1次認定試験の合格者を対象に行われます。
試験内容は以下の通りです。
論述 | 出題される事例問題に対する論述を行う |
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面接 | 6人1グループでの面接 当日発表されるテーマに添って、個々の1分スピーチと、約20分のディスカッションを行う |
第2次認定試験の合格条件は、論述・面接の総合評価で、以下5つの要件を満たすこと。
- 適切なアセスメントの視点がある
- 認知症を理解している
- 適切な介護計画を立てられる
- 制度および社会資源を理解してい
- 認知症の人の倫理的課題を理解している
筆記試験に比べると対策しづらい内容ですが、「人前で話すのが苦手……」という人などは特に、スピーチやディスカッションの事前練習をしておくとよいでしょう。
2次試験情報まとめ
受験資格 | 第1次認定試験の合格者 |
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試験日 | 毎年12月上旬頃 |
受験地 | 札幌,仙台,東京,名古屋,京都,博多(福岡) 上記の受験地より1か所を選択 |
受験料 | 8,000円 |
試験内容 | 【論 述】 出題される事例問題に対する論述 【面 接】 6人を1グループとした面接 |
認定試験の合格率は50%前後
近年行われた認定試験の結果は以下の通り。
認知症ケア専門士の合格率 | |
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第13回(2017年) | 56.5% |
第12回(2016年) | 49.3% |
第11回(2015年) | 59.8% |
第10回(2014年) | 53.5% |
第9回(2013年) | 49.3% |
合格率は例年50%前後。
2人に1人は不合格になってしまっていることを考えれば、決して高いとは言えない数字です。
筆記と面接を総合的に対策し、合格を目指しましょう。
認知症ケア専門士は5年に一度の更新が必要
認知症ケア専門士は更新制の資格です。
資格を取得して以降も所定の単位を修めて、5年に一度のペースで更新手続きを行う必要があります。
更新のためには、資格取得後の5年間のうちに30単位以上を取得しなくてはなりません。
単位は日本認知症ケア学会が主催する講座への参加や、論文投稿等で取得することができます。
※単位などの詳細については日本認知症ケア学会ホームページを参照してください。
更新手続きを忘れてしまうと資格を維持できないので、更新の時期には注意が必要です。
認定試験の勉強法は「独学」か「対策講座」の2パターン
認知症ケア専門士の試験対策には、2つのパターンがあります。
1つめは、テキストなどを購入し独学で勉強する方法。
2つめは、日本認知症ケア学会が主催する対策講座を受ける方法です。
独学で、自分のペースで勉強する
独学での勉強法は、決められたスケジュールにあわせる必要がないため、仕事の合間などを利用して自分のペースで勉強することができるのが大きな強みです。
重点的に学びたい分野やあまり学ぶ必要がない分野など、自分の理解度にあわせて勉強時間を調整することもできるのがいいですね。
勉強にかかる費用はテキスト代のみなので、コストをかけずにできる勉強法です。
学会主催の対策講座を受ける
独学のみの勉強では不安があるという人には、認定元である「日本認知症ケア学会」と「特定非営利活動法人 認知症ケア教育機構」が主催する受験対策講座を受けることをおすすめします。
講座は毎年5月頃、2日間にわたって実施されます。
2018年の5月に開催された講座では、1日目は9:30~18:20まで、2日目は9:00~16:35までみっちり対策が行われ、公式テキストの重要ポイントの解説を聞くことができました。
また、2日目の最後には模擬試験を受験することができるため、より実際の試験に近い形で勉強することができます。
参加費は2日間で15,000円です。
資格取得のメリットは何?
認知症ケア専門士の資格を取得するメリットは、大きく分けてふたつあります。
ひとつは「認知症ケアについて実践的なスキルアップが望める」こと、
そしてもうひとつは「待遇面や転職活動において優遇される」ことです。
スキルアップが望める
認知症ケアは通常の介護とは性質が大きく異なる上、人によって症状もさまざまで、一概に「こうすべき」という判断がしづらいものです。
現場で難しい判断を迫られ、とりあえずできるだけの対応はしたものの、「あのときの私のケアって正しかったのかな?」とモヤモヤしたことがある介護職の方も多いはず。
認知症ケア専門士の資格を取得すれば、そういった難しい認知症ケアについて、現場でも活かせるような知識を専門的に学ぶことができます。
どのようなケアをしていくべきか方向性がわかるので迷わずに済みますし、介護職員が自信を持って介護を行う様子は、それを受ける利用者さんにも安心感を与えます。
より自信を持って認知症ケアを行いたい人、自分の知識を深めたい人には、大きなメリットがあると言えるでしょう。
待遇面や転職活動で有利になる
認知症ケア専門士は民間資格のため、現状では資格手当を支給している施設は少ないですが、認知症ケアの重要性を鑑みて、すでに認知症ケア専門士に資格手当(5,000円~10,000円)を設けている施設・事業所も存在します。
今後、資格取得者がさらに活躍していけば、認知症ケア専門士の資格手当が普及する可能性もあるでしょう。
また、資格の保持によって認知症ケアの技術や知識をアピールできるため、認知症患者の多い施設への転職で有利になる可能性もあります。
認知症対応型のデイサービスやグループホーム、特別養護老人ホーム、認知症病棟のある病院など、活躍の場が広がるのも魅力ですね。
編集者より
認知症ケア専門士の資格取得を通じて得られる知識は、介護職員としてのスキルアップに大きく貢献します。介護のプロとして活躍していくためにも、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。