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『共感』と『傾聴』の認知症ケア「バリデーション療法」って?

海外発祥の認知症に特化したコミュニーケション技術は数々あります。前回は、フランス発のユマニチュード®をご紹介しました。今回は、ユマニチュード®よりも歴史が深く、欧米を中心に3万以上の介護施設で用いられている、アメリカ発の認知症ケア技術「バリデーション」をご紹介します。バリデーションの特徴は、認知症の人に嘘をついたりごまかしたりせず、「傾聴」と「共感」を基本にコミュニケーションを行うこと。その詳しい中身をみてみましょう!

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認知症の人に『共感』して接するバリデーションとは?

バリデーションとは、1963年にアメリカのソーシャルワーカーであるナオミ・フェイル氏によって生み出された認知症高齢者とのコミュニケーション技法。主にアルツハイマー型認知症及び類似の認知症と診断されたお年寄りに用いられます。バリデーションでは、認知症の人が大声を出したり、徘徊をしたりすることにも全て「意味がある行動」として捉え、なぜそのような行動をとるのかに立ち返ります。接する上で「うそをつかない」「ごまかさない」ことで、信頼関係が深まり、高齢者の言葉の奥にある“真の訴え”を理解する、という基本的態度を重視しています。

日本におけるバリデーション第一人者の関西福祉科学大学教授 都村尚子先生によると、「バリデーションで特に重点をおいているのは、『傾聴』の姿勢。認知症の人にとって「言葉」は「記号」にすぎず中身がなくなってしまう。聞いているように見えていても言葉を理解しているわけではない。ただ、自分の話を「聞いてくれる人」「聞いてくれない人」の理解はしている」とのこと。

例えば、認知症の人が「部屋に誰かがいる!」と騒いだ時に、「本当だね、誰だろうね」とその場を取り繕うとすると、認知症の人はごまかされたと感じるといいます。まず、「どこにいますか」「どんな人ですか」と聴き、彼らがみている世界を教えてもらい、彼らの感情や思いに近づこうとするのがバリデーションです。

バリデーションの14の基本テクニック

バリテーションで提唱している14の基本テクニックは、次のとおりです。

1.センタリング(介護者が精神を集中する)
介護者が自分自身の中にある怒りやイライラを追い出すことで、認知症の人の気持ちを心から感じられる準備します。
2.オープンクエスチョン(開かれた質問をする)
「はい、いいえ」で答えられる質問ではなく、「いつ」「どのように」「どこで」「なぜ」「誰」「何」(5W1H)といった自由に回答できる質問を投げかけることで、相手の考えを具体的に知りやすくなります。
3.リフレージング(相手の言葉と同じ言葉を繰り返す)
認知症の人は、相手が自分の言うことを繰り返して、それが確認されると安心します。例:「お茶はいらないよ」→「お茶はいらないのですね」
4.極端な表現を使う
極端なケースをイメージすることによって、自分の気持ちを表現しやすくします。例:「ご飯がまずかった」→「今までで食べた中で最悪でしたか?」
5.反対のことを想像する
反対のことを想像することは、若い頃に困難から立ち直るためによく使った方法を思い出の中から導き出します。例:「誰か知らない人が部屋に入ってきた」→「彼が入ってこなかった日はあるんですか?」
6.レミニシング(懐かしい思い出話をする)
過去を尋ねることで、見当識障害のある人が失ってしまったものを、過去に用いていた方法を利用して取り戻すことが出来ます。例:「夜よく眠れない」→「お若い頃も眠れないことがありましたか?」
7.曖昧な表現を使う
曖昧な表現を使うことによって、認知症の人が何を言っているのかわからなかった場合でも、コミュニケーションを取ることが出来ます。例:「それは面白いんですか?」「その人が嫌なことをするんですか?」
8.(高齢者の)好きな感覚を用いる
認知症の人の好きな感覚(視覚、臭覚、触覚)を見つけて、その感覚を連想する言葉で話します。例:「いい匂いですね」「さらさらですね」等
9.親しみをこめたアイコンタクトを意識する
ユマニチュード®にも共通する技法。視界が狭くなっている認知症の人に対して、視線を合わせ、長く見つめることで不安を取り除きます。
10.はっきりとした低い、優しい声で話す
高音は高齢者にとって聞き取りづらいので、低い声で話します。聞き取りやすく、落ち着いたトーンで話すことで、安心に導きます。
11.タッチング(手や肩など一番心地よい場所に触れる)
両手で頬を包み込む「母のタッチング」、肩に手を置く「友のタッチング」など、目的に応じて触れます。※触られることに抵抗する様子がある場合は中断する
12.音楽を使う(必要に応じて歌ったり音楽を聴く)
認知症の人が昔好きだった曲を一緒に歌ったり、聴いたりしてコミュニケーションをとります。
13.ミラーリング(相手の動きや表情に合わせる)
相手の言葉だけでなく、表情や声の大きさ、口調も真似て繰り返します。
14.満たされていない人間的欲求と行動を結びつける
不穏な症状が現れた時は、「愛されたい」「人の役に立ちたい」「感情を発散したい」という3つの人間的欲求のうちどれにあてはまるか?を想像します。

バリデーションを使って考える、帰宅願望への対応

例えば、家にいる時に、そわそわと探すような素振りをしたり、鞄に荷物を詰めて「家に帰らせていただきます」と言って出ていこうとする場合。「ここはあなたの家ですよ」説明したところで、素直に納得する人は多くありません。こんな時よくある対応法として、

「玄関のドアが壊れて開かないから出ていけないよ」とごまかしたり、
「もうバスも来ないので家の中でお茶でも飲みましょう」と気をそらしたりします。
これは、パッシング・ケア=やりすごすケアと呼ばれます。このパッシング・ケア、介護者は手を変え品を変え、頑張って行うものの、認知症の本人からすると、「何だかよくわからないけれど、嘘をつかれている」と感じることも多いと言われます。

この時、バリデーションでは、
「ご自宅はどこですか?」
「お家にはどなたが住んでらっしゃるんですか?」
「お子さんは何人でしたっけ?3人も!それは立派ですね」
「お家のことが心配でしたら実際に帰って確認しますか?」

といった、会話のキャッチボールを通して、「帰りたい」といった言葉がでてきた背景を探ります。

ポイントは、

  1. カンタンな質問をいくつか投げ掛ける
  2. 会話が成立しているような状態を一定時間保つ

のふたつ。本人の失われていた記憶を引き出し、自分の帰る先には いかに価値のある出来事があるのか。介護者が理解しようとする姿勢を見せることで、落ち着いた状態になり、自分がどうしてここにいるのか?という位置関係の理解ももたらすと言われています。

バリデーション・ワーカーという資格も!

バリデーションについて、もっと深く学びたい方には、「バリデーションワーカー」という専門資格を取るという道もあります。資格取得するには、アメリカ発祥のバリデーショントレーニング協会が開催する講座の受講が必要です。日本では、「公認日本バリデーション協会」という協会があり、年数回講座を開講しています。受講料は295,000円と決して安くはありませんが、、バリデーション・ワーカーとしての資格を得られる数少ない機会として、毎回定員を超える応募があり、キャンセル待ちの状況が続いているとのこと。

詳しい情報は、下記、公認日本バリデーション協会のサイトからチェックできます。

さいごに

今回ご紹介したバリデーションも、前回のユマニチュード®でも、細かい技法に違いはありますが、いずれも人間の“身体だけ”を支えるのではなく、人間の“人間性”を支える、という心構えが共通しています。また、どちらも「みつめること(アイコンタクト)」と「さわること(タッチケア)」を大切にしていることも特徴的です。

日々せわしない介護の中で、こうしたバリデーションのテクニックを常に忠実に取り入れるのは難しいかもしれません。また、人によっては全く効果がなかったりすることもあります。ただ、「傾聴」と「共感」をベースにその人の本来の気持ちを引き出すコミュニケーションは、認知症の人と心を通わせるために欠かせないものだと思われます。介護する上で、毎回実践することは厳しくても、心のなかには常に留めておきたい内容です。
関連記事:暴言が消えた!魔法みたいな認知症ケア「ユマニチュード®」って?

※参考※
公認日本バリデーション協会
認知症高齢者ケアにおけるバリデーション技法に関する実践的研究
バリデーション・ブレイクスルー―認知症ケアの画期的メソッド
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