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「最期まで生ききるためのお手伝いを」自立支援こそが介護の本質|デイサービス

高井戸の住宅街の一角にある、大きなお庭付きの一軒家。中に入るとデイサービスとは思えない、アットホームな空間が広がっています。一軒家をほぼそのまま利用している建物には、お風呂に入るにも段差があり、玄関だってもちろん段差があります。

「転んで骨折しちゃうじゃないの!」
「危なくないの?」

高齢者の自立支援を掲げ、最期まで生ききるためのお手伝いを!をモットーに運営されているデイサービス「空の花 高井戸」では、さまざまな取り組みがされています!今回、「空の花 高井戸」にお邪魔して、今後、どのような介護が求められるのか伺ってきました。

★今回お話を伺った方


佐藤 弘幸(さとう・ひろゆき)

1978年生まれ、愛知県出身。21歳で上京後、法律を学ぶ傍ら強烈な対人恐怖症に悩み、独学で心理学を研究。接客業や営業に携わることでこれを克服し、その後不動産業、経営コンサルタントなどを手掛ける。2011年の訪問美容サービスFC本部立ち上げと同時に株式会社「介護コネクション」代表取締役の奥平幹也氏に出会う。奥平氏に啓蒙を受け、介護業界への進出を決意。「すばらしい人々が心身ともに豊かでいられる世界を創造する」ことを理念に掲げ、自らの経験から、心の声を聴き心を満たすサービスを提供するケアの実践を軸に2014年デイサービス「空の花 高井戸」設立。2015年理学療法士森惣次郎氏(現・一般社団法人「変わる!介護」代表)、小川順也氏(同理事)と提携し、自立支援の取り組み、組織運営及び人事、他職種連携を強化。独自の自立サポートシステムの共同開発を行っている。


後藤 京子(ごとう・きょうこ)

「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。

介護現場の実態を見て愕然とした!

―――まず、一軒家をそのまま利用されていることに驚きました

佐藤氏:教室のようにツルツル無機質な床では生活感がないですし、居心地も悪いですよね。何より私たちは高齢者の方が自立して生活できるよう支援する側なのに、生活空間でない場所で支援するなんておかしいと思ったのです。

ご覧のとおり、ごくごく普通の一軒家なので、2階にあがる階段を利用して昇降運動を行ったりしています。もちろん、スタッフが必ずサポートしているため安全です。

―――デイサービスに行くというより、第2の家のような感じですね?

佐藤氏:「全ての人々が笑顔に溢れ、心身ともに豊かで居られるような社会を創造する」という経営理念を掲げています。自立支援とは、最期のそのときまで笑顔で心身ともに豊かでいること。日常生活の動きをリハビリとして行うことで、まだまだ自宅で生活できる、寝たきりにはならないという気持ちにもなりますよね。そのため、できるかぎりご家庭にいられるような空間を作りたかったのです。

―――一般的なデイサービスのような雰囲気にはしたくなかったということですか?

佐藤氏:私はこの事業を始めるにあたり、介護関係のカフェやセミナーにたくさん通いました。そこでは、「今後の介護は心のケアだ!」とか「高齢者の心の声を聞こう!」ということを言っていたんですね。介護ってすごい!と率直に思いました。

しかし、いざ現場に行ってみると全然ついていっていないんです。「心の声を聞こう!」と言っていたはずなのに、介助に追われているスタッフとただただそこにいるだけの高齢者と…。それでデイサービスを始めるときに、今の介護を壊して新たな介護を築こうと思ったのです。

「Re-habilitation」= その人をふさわしい状態に戻すこと

―――他のデイサービスとの差別化などは行っていらっしゃるのでしょうか

後藤氏:大前提としてお話したいのですが、デイサービスに来られる高齢者を「利用者」と言いますが、私たちの会社内では「お客様」と呼んでいます。そもそも、介護というのはボランティアからはじまりました。その後にヘルパーが登場したのですが、ヘルパーは「お世話をしてあげている」という、高齢者ありきの考え方が根付いた職業でした。

しかしその人のパーソナリティを大切にし、その人らしさを支援していく場で、本来であれば「お客様」とお呼びしなければならないのに「利用者」と呼ぶのはおかしいと考えています。

それを前提に、スタッフも勉強し成長していかなければなりません。お客様と接する上で、旧態依然とした「お世話してあげるだけでいい」という考えでいてほしくない。「リハビリはPT(理学療法士)やOT(作業療法士)だけがする」ということではなく、「Re-habilitation=その人をふさわしい状態に戻す」ということ。つまりその人に関わる全ての人が、生活そのものの中で行うことができるという考え方を理解する必要があります。

―――介護職という考え方から変えていらっしゃるんですね

後藤氏:「Rehabilitationとは何か」を学ぶことは、同時にスタッフ間の連携を生むのです。なぜなら学びの中で、スタッフ間でも相互の「Rehabilitation=その人を相応しい状態に戻す」を行うようになるからです。現在在籍しているスタッフは日々のケアの内容を自分で考えながら行っています。そうすることで自らの役割を認識し、スタッフ間で得意不得意を活かしあい、よりよいケアを実現することを可能にしています。

――お客様が元気になるのはいいことですよね。しかし収益の点ではどうですか?

佐藤氏:一般的な経営者の目線で言いますと、お客様の介護度が下がり、さらには施設を卒業されると当然収益は下がります。また集客しなければならないのは普通なら大変ですよね。では、お客さんを手放さないようにするために、一般的にはどのような対応をするでしょう?

―――介護度をさげないようにする…?

佐藤氏:そうです。ここに介護職員のジレンマがあるのです。高齢者に寄り添うため介護の仕事に就いたのに、やることと言えば決まった時間に決まった介助や作業で、回復すれば上司から叱られる。やりがいなんて本当になくなりますよね。こうしたことが、現在の介護職離職の原因を作っています。

これが「負のスパイラル」の始まりです。人手不足になり、スタッフは疲弊し、がんばってもサービスはますます低下、これでさらにやりがいを失い、離職に歯止めがかからなくなります。

現場でまず優先すべきはスタッフの満足度

―――介護保険の仕組みと、現場を知らない経営方針が離職を加速させているということですが…

佐藤氏:高齢者の自立支援を促すためには、何よりも現場スタッフを第一に考えなければならないんです。分かりやすく言うと、お客様を大切にする熱意と同じくらい、スタッフに対しても接していく。

そもそも、介護の仕事に正解はありません。お客様によって正解は変わってくると言った方がいいでしょう。ではどうやって正解へと導くか。やるしかない。ひとりひとりのスタッフが考えてケアをする。もちろん、やるからには間違いもあります。でも私は、間違いは成功と考えています。間違っていたのであれば改善すればいい。何もしないことこそ不正解なのですから。

具体的な自立支援方法を聞く

―――「空の花」で行っている自立支援に向けての取組みってどのようなものがありますか?

佐藤氏:ケアを行う上で、お客様自身の目標・目的が重要です。逆を言えば、目標・目的がないのにケアはできません。私たちは、お客様の目標・目的を把握した上でケアを行うことで、その方自身の望んでいる生活を過ごせるようリハビリを行います。

TAC(Total Assessment Chart)シートを使って、おひとりおひとりの心身の状況、日常生活を3ヶ月に1回見直しています。このシートの中には「認知症」という言葉は出てきません。「認知症」とひとくくりにくくるのではなく、その方の症状を書くことで目標がより明確になるのです。つまり、困っていることはなんだろう?その人の心を満たす本当の望みはなんだろうということが分かってくるのです。

―――心の声を聞くことで介護側が何をしなくてはならないのか、具体的に見えてくるのですね?

佐藤氏:はい。少し前の話になってしまうのですが、以前勤めていたスタッフ数名を全員辞めさせたことがあります。全員介護職経験者だったので、介助技術は完璧だったのですが、心の声を聞くということが理解できなかったんです。

苦渋の決断でしたが、振り返るとプラスの判断だったと思います。現在、小規模通所介護事業所の倒産が相次いでいますが、ありがたいことに空の花は2店舗目を構える準備を進めています。

後藤氏:佐藤の言うようにスタッフ第一にしてきたからこそ、よりよいケアを常に提供できるようになりました。このため、お客様のご家族はもちろん介護職員同士の口コミでも評判が広がり、おかげさまでお客様からのお問い合わせも途切れず、素晴らしいスタッフもどんどん増えています。

佐藤氏:まずは杉並区から、介護を変えていきたいですね!

さいごに

今回お話を伺った「空の花 高井戸」の取組みが、今後の介護業界の主流になることで、よりよい老後の実現が可能になると考えられます。介護職員を第一に考えることがポジティブなサイクルを生み、さらなるポジティブを巻き込んでいく…足を踏み入れた途端、その様子を感じることができました。

現場の意見を経営層が吸い取ることで、介護従事者はもちろんですが介護が必要な高齢者にとってもプラスに働いていくのではないでしょうか。今後注目のデイサービスになること間違いなしです!

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