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カラフルな介護へ!LGBT・セクシャルマイノリティへの支援は“個別ケア”~トランスジェンダーの介護福祉士が語る介護と性について~

介護の専門学校を卒業後、特別養護老人ホームで4年半ほど経験を積み、現在は訪問介護に移って2年目という佐藤悠祐さん(26歳)にお話を伺いました。トランスジェンダーであることを公表している佐藤さん。介護福祉士として働きながら、NPO法人Startline.netの代表として、セクシュアルマイノリティやその老後・介護についての認識を広める活動を行っています。

佐藤さんにとって、介護職は「一番働きやすい仕事」。彼が考えるセクシュアルマイノリティ当事者へのケアや、トランスジェンダーが介護職として働くことについて、語っていただきました。

金銭的な理由で足を踏み入れた“介護”の世界

―なぜ介護職を選んだのでしょうか

介護の専門学校を選んだのは、資格の取得よりは、金銭的な理由が大きかったです

高校時代に吹奏楽部の遠征などの活動で、金銭的な負担を両親にかけてしまったので、大学への進学は諦め、介護福祉士の奨学金をもらって、専門学校に進学しました。

Startline.net代表 佐藤悠祐さん

現在も介護職を続けている理由は、2年生のときに実習に行った特別養護老人ホームで、「介護のイメージ」が変わったからです。それまで、介護というのはオムツ交換や食事介助がメインだと思っていましたがその施設では本人の望みを引き出し、いかにそのニーズをチームで叶えるかを徹底的に実践していました。

吹奏楽の経験から、チームで何かをすることが好きだったので、介護は「個人の叶えたい未来に向けて、チームで動く面白い仕事」だと感じました。また、看取りに力を入れている施設だったので、医者でも看護師でもない立場で看取りにかかわれることも魅力的でした。

現在働いている訪問介護の現場は、利用者が「その日に食べたいもの」や「したいこと」を叶えられる介護だと感じています。

LGBTへの介護に潜む問題点は「できない」より「言えない」

同性パートナーと老いていくことの壁

―同性パートナーと老いていくことへの壁はどのようにお考えでしょうか

同性パートナーシップ条例を導入する自治体は増えつつあります。しかし、同性パートナーと老いていくことの壁の多くは、同性同士で“結婚”できないことで起こる問題です。特に相続に関することですね。生命保険に関しては、保険会社さんが独自で取り組んでくれていますが、法律がかかわってくる相続は難しいものがあります。

トランスジェンダーの中には、病気などの理由で性別適合手術を受けることができない人もいます。たとえ身体的に性別を変えられても、結婚したい相手と戸籍上の性別が同じであれば結婚できません。異性同士の結婚であれば、婚姻届だけで認められることが、同性同士だからという理由で、手続きが煩雑になってしまうのです。

介護で「できない」はない

―セクシュアルマイノリティの利用者さんの場合、どのような壁があると思いますか

介護に関していうと、利用者がセクシュアルマイノリティ当事者だからといって、特に「これはできない」ということはありません。

同性愛者やトランスジェンダーが、公にカミングアウトできるようになってきたのはここ最近の話です。病気だと言われたり、セクシュアルマイノリティ当事者が事件に巻き込まれることが多かったりという時代を生きてきた世代の人々とって、カミングアウトは難しいものなのだと思います。

私自身はそれほど差別を受けた経験がありません。しかし、そういった時代を経験された高齢者の方は「言えない」という気持ちがあると思います。セクシュアルマイノリティに関する活動をされている年配の方に話を聞くと、今の自分が抱えている生きづらさとは違うものを感じます。

有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などでは、同性パートナー同士でも「言えば一緒に入居できる」ところが増えていると思います。しかし、「カミングアウトをする」ことについてハードルが高い、と感じている当事者も少なくありません。

Startline.netの活動を通して目指しているのは、「カミングアウトしやすい社会」です。

自身のプライベートなことについて「言いたくない」人がいるのは当然ですが、言いたくても「言えない」という社会は作りたくありません。あくまでも「絶対カミングアウトしようね」ではなく、「自分が楽になると思うのなら、カミングアウトできる」社会を目指して活動しています。

セクシュアルマイノリティ当事者のケアに介護職が求められるもの

―セクシュアルマイノリティの方をケアする際、介護職として求められることはありますか

セクシュアルマイノリティの利用者に対して、必要なケアといいますか、これは誰にでも当てはまることですが、あなたがどんな人でも受け止めますという姿勢を介護職として、徹底的に示し続けることだと思います。否定的なことや差別、侮辱的なことをいうひとがいると、言いたいことを言えない雰囲気を作ってしまうので、それは避けるべきだと思います

“結婚”や“パートナー”についての話題は「誰もが幸せになる話題ではない」ということも認識として持っておくことも必要だと思います。

体制的な問題のある「同性介助」

―「同性介助」においてはどのようにお考えでしょうか

そもそも、同性の定義ってなんなんでしょう。僕にとって同性ってどっちになるのだろうとよく考えています。同性かどうかより、この人にケアしてもらいたいと思ってもらえることがまずは一番大事なんじゃないかなと思いますね。

それを踏まえた上で、同性介助の話をすると、厳密に言うと体制的にまだ整っていないと思います。体格の大きな女性を、女性スタッフだけでお風呂などの介助ができるのかどうかと言われると、そこには物理的な難しさもあるでしょう。

リフトなどの補助器具を使ったり、洋服を着ている段階でストレッチャーに乗ってもらったりして物理的な難しさを解決できたとしても、その日の出勤者の性別が偏っていると難しいなど、人材確保や勤務形態の問題も出てきます。

介護で無視されがちな“性”や“性別”

―介護職員のセクシュアルマイノリティへの理解はどの程度進んでいると思われますか

介護業界においては、セクシュアルマイノリティへの理解はあると思います。利用者や同僚がセクシュアルマイノリティ当事者だと聞かされたら、「そうなんだ」程度で受け止めてくれる人が多いでしょう。

しかし、知識は十分ではありません。例えば、トランスジェンダーと聞いて、「女装をしている人」だと誤解する人もいます。そのような不十分な知識では、相手を傷つけてしまうこともあるんです。

セクシュアルマイノリティの利用者へのケアは特別なことではありません。利用者一人ひとりに合わせた「個別ケア」を実践すればいいだけだと思います。

まずは介護事業所や介護職員に、セクシュアルマイノリティ当事者が世の中には一定数いることを知ってもらい、後は徹底的に個別で対応してもらいたいです。

個別ケアを提供する介護職には、情報の引き出しをふやしていくことが求められます。介護では性や性別は割と無視されてしまいがちですが、ケアの個別化が重視されている中で、セクシュアルマイノリティのことも今後はきちんと考えていかなくてはいけません。

トランスジェンダーが介護職として働くということ

―トランスジェンダー当事者として介護業界で働いてみて、どのように感じていらっしゃいますか

「言えば何とかなるのに、言えない」というのは、利用者だけではなく、介護職員にも当てはまります。職場の環境も「言えば何とかなる」ことが多いと思います。

トランスジェンダーに関して言うと、制服はどうするのか、利用者さんや家族には説明するのか、他の職員には伝えるのかなど、事業所にはちゃんと話し合える環境を作って欲しいなと思います。

私は、必要だと思ったら自分で発言するため、環境の整った職場で働けています。細かなことも職場に伝えれば、環境を整えてもらえることは可能だと思います。

セクシュアルマイノリティはどの業界でもある程度はいると思いますが、介護職は人と関わる仕事なので、自分のことも出していかなくてはいけません。その点、ほかの職種よりもわかりやすいのだと思います。

トランスジェンダーの中には、治療をしている人もいれば、病気などの事情で治療ができない人もいます。同じ介護の仕事をしていても、どちらの性別に見えるかで、働きやすさは変わってくるでしょう。

私は利用者さんがどちらの性別で見てくれるかで割り切ることにしています。「男性だ」と思えば男性でいいし、「女性だ」と思えば女性でいいしっていう感じです。

“同性介助”となるとトランスジェンダーの場合、「何が同性になるんだ」「僕の同性はいったいどっちなんだ」と悩んでしまうので、利用者さんや管理者、ご家族と話す必要があるでしょう。

私は男性として働けることが多いのですが、治療をしていない方やはじめたばかりの方は特に周囲への説明が必要になると思います。

一番働きやすい仕事

―セクシュアルマイノリティ当事者である介護職員に対して、伝えたいことはありますか

セクシュアルマイノリティ当事者が介護職として働くときに大切なのは、「自分がどうしたいか」をはっきり持つことです。

あとは職場を選ぶ目も大切ですね。「セクシュアルマイノリティに理解がある事業所ということで入職したけれど、実はブラックな職場だった」という相談も、Startline.netには多く寄せられています。

セクシュアルマイノリティに限ったことではありませんが、職場を選ぶポイントとして、見てほしい点があります。それは、食事が終わった利用者さんの口の周りがきれいかどうかです。忙しさってそういう細かいところに出ますよね。職員が大切にされて余裕があれば、利用者さんも大切にできるはずです。

トランスジェンダーである自分を理解してくれ、人にかかわれる介護の仕事を、私はとても楽しんでいます。私にとって介護職は「一番働きやすい仕事」です。

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