介護業界で働くにあたって、ますます重要性を増してきている介護の公的資格。
訪問介護に従事する際に「介護職員初任者研修」などの資格が必要なのは以前から変わっていませんが、近年ではその他の施設でも、求める人材に有資格者を挙げることが多くなってきました。
なかでも「実務者研修」は、国家資格である介護福祉士試験の要件となっており、ステップアップ資格としても注目されています。
そこで今回の記事では、注目度の上がっている「実務者研修」について詳しくご紹介します。
目次
実務者研修とは?
実務者研修とは、介護の基本的な知識と技術を習得する介護職員初任者研修の上位の資格として、より実践的な幅広い知識と技術を得ることを目的とした資格です。
2013年より介護職員基礎研修とホームヘルパー1級が「実務者研修」に統合され、複雑だった介護の資格が簡素化されました。
実務者研修が創設された背景は「介護福祉士の資質向上」
実務者研修が創設された背景には、介護福祉士の資格取得方法の見直しが関係しています。
これまでは介護にかかわる実務経験が3年以上あれば、初任者研修しか持っていない人でも介護福祉士の資格試験に挑戦することができました。
しかし、多様化していく介護のニーズに対応するためには、介護業界で唯一の国家資格である介護福祉士についてさらなる資質向上を図る必要があるという判断がなされたのです。
それにより、一定の教育課程によって知識や技術を学んだ人材にのみ、国家資格を与えることが決定しました。
そうして生まれたのが、介護の実践的な知識や技術を学ぶことができる実務者研修。
2017年以降、実務を経てから介護福祉士を受験する場合には「3年以上の実務経験」に加えて「6ヶ月以上の実務者研修の受講・修了」が必須となっています。
実務者研修は「キャリアアップに直結する」
実務者研修を修了することによって得られるメリットは主に3つ。
- 介護福祉士試験を受験できるようになる
- サービス提供責任者になれる
- たん吸引や経管栄養を学べる
それぞれ具体的に見ていきましょう。
国家資格「介護福祉士」の試験が受験できるようになる!
2017年以降、介護福祉士の国家資格試験を受験するためには実務者研修の修了がひとつの受験要件となっています。
介護福祉士資格は介護業界で唯一の国家資格。介護の世界でキャリアアップしていくためには、ぜひ持っておきたい資格と言えます。
介護福祉士資格を得るためにも、実務者研修はぜひ受けておきましょう。
なお、実務者研修を修了していれば、介護福祉士試験で実技試験が免除されます。
訪問介護で活躍!「サービス提供責任者」になれる!
実務者研修を修了していると、サービス提供責任者(サ責)として働くことができます。
サービス提供責任者は、訪問介護事業所などでケアマネジャーやホームヘルパーと連絡・連携をとり、適切な介護サービスが提供されるようコーディネートする職種のこと。
指定訪問介護事業所にはサ責の配置が義務づけられているため、なくてはならない重要なポジションといえます。
ホームヘルパーとして勤務して現場で介助業務を行うより、サ責として相談業務に応じる方が高い給与を望むことができます。
夜勤がつらい……とお悩みの介護職員さんにもおすすめです。
個別に受講することなく「たん吸引」や「経管栄養」が学べる!
実務者研修では、「たん吸引」や「経管栄養」(胃ろうなど)の基礎的な知識を身につけることができます。
たん吸引や経管栄養については、原則として医師や看護師にのみ認められている医療的ケアになります。介護職がたん吸引や経管栄養をするためには、個別に基本研修と実地研修の2つからなる「喀痰吸引等研修」を受ける必要があります。
しかし、実務者研修を修了した人は、この「基本研修」の受講が免除になります。
(※スクールによって研修内容が異なる場合があるので注意してください)
実務者研修でたん吸引や経管栄養の医療的ケアを学んでおけば、「喀痰吸引等研修」の修了にも役立つのです。
450時間の研修で何を学ぶの? 実務者研修の講座カリキュラム
まず、実務者研修には受講条件が定められていないため、誰でも受講することが可能です。
介護職員初任者研修を保有していない無資格の方でも、介護経験がまったくない人でもOK! ステップアップの順序としては介護職員初任者研修から受けるのが一般的ではありますが、ご自身の都合に合わせて、実務者研修からチャレンジすることもできます。
それでは、具体的にどのような内容を学ぶことができるのか、実務者研修の講座科目を見てみましょう。
科目内容 | 時間数 |
---|---|
人間の尊厳と自立 | 5時間 |
社会の理解Ⅰ | 5時間 |
社会の理解Ⅱ | 30時間 |
介護の基本Ⅰ | 10時間 |
介護の基本Ⅱ | 20時間 |
コミュニケーション技術 | 20時間 |
生活支援技術Ⅰ | 20時間 |
介護過程Ⅰ | 20時間 |
介護過程Ⅱ | 25時間 |
介護過程Ⅲ | 45時間 |
発達と老化の理解Ⅰ | 10時間 |
発達と老化の理解Ⅱ | 20時間 |
認知症の理解Ⅰ | 10時間 |
認知症の理解Ⅱ | 20時間 |
障害の理解Ⅰ | 10時間 |
障害の理解Ⅱ | 20時間 |
こころとからだのしくみⅠ | 20時間 |
こころとからだのしくみⅡ | 60時間 |
医療的ケア | 50時間 |
実務者研修受講時間数 | 450時間 |
保有資格によって受講時間が変わる!
保有資格によっては、受講科目の一部が免除される制度があります。
そのため、持っている資格に応じて、下記のように受講時間が変わります。
保有資格 | 受講時間 |
---|---|
なし | 450時間 |
ホームヘルパー2級 | 320時間 |
介護職員初任者研修 | 320時間 |
ホームヘルパー1級 | 95時間 |
介護職員基礎研修 | 50時間 |
※受講時間の詳細は、スクールによって異なります。
スクールによって修了試験の有無が異なる
現在、実務者研修には資格取得のための試験が義務付けられていません。
そのため、修了試験があるかどうかはスクールによって異なります。ご自身の通うスクールや利用する通信講座に試験があるかどうか、きちんと確認しておきましょう。
とはいえ、試験は「講座で学習した内容を理解しているか」を確認するためのテストであることがほとんど。不合格でも、試験だけ再チャレンジすることができるでしょう。
試験を実施しないスクールの場合は、講座の全課程を受講することで修了となります。
介護職員初任者研修と実務者研修、受けるべきなのはどっち?
介護系資格として挙げられる「介護職員初任者研修」と「実務者研修」。
後者の方が上位の資格として位置づけられていますが、どちらも無資格でも受講できるというのが特徴ですよね。
「どちらを取得すればいいの?」と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは具体的に、取得することで得られるメリットから、介護職員初任者研修と実務者研修の違いを見ていきましょう。
介護福祉士の受験資格になるのは「実務者研修」だけ
実務経験を経て介護福祉士試験を受ける場合、「実務者研修の修了」が必須になります。
介護職員初任者研修を取得していても、実務者研修を取得していなければ介護福祉士試験に挑戦することはできません。
働きながら将来的に国家資格を取得したいと考えているなら、実務者研修を受けるのが近道となります。
サ責になったときの介護報酬が変わる
介護職員初任者研修の修了者も、実務者研修修了者と同様にサービス提供責任者になることができます。
ただし、介護職員初任者研修のみを取得している人がサ責になる場合、実務経験が3年以上必要になります。そして、事業所の介護報酬が10%減算されてしまいます。
一方、実務者研修を取得している場合にはサ責になっても減算対象にはなりませんし、実務経験を問われることもありません。
これから介護について勉強する未経験の人が資格の取得を目指す場合には、基礎から学べる介護職員初任者研修を受けるのがおすすめです。
しかし、すでに介護業界である程度の期間働いていて、介護の基礎知識を現場で培っているのであれば、実務者研修を受けてキャリアアップを目指すのがよいのではないでしょうか。
編集者より
実務者研修は、初任者研修と並び無資格からキャリアアップするための最初のステップといえます。また、働きながら介護福祉士を目指す場合には必須の資格ともなり、その他にも、持っていることで得られるさまざまな恩恵があります。
介護業界でキャリアップを目指すなら、ぜひ受講を検討してみてはいかかがでしょうか。
参考文献・サイト
- 介護の資格最短net「介護福祉士実務者研修とは」(2019/07/03)