介護は、利用者さんのお話を聞いたり、食事介助をしたりするだけでなく、体位変換や移乗といった重労働の介助を行うシーンもたくさんあります。そのため、介護に携わる多くの方が「腰痛」に悩まされています。
たとえば、寝たきりの利用者さんを介助する場合。利用者さんからの協力が得づらいため、介護者の身体に、利用者さんの体重がそのままかかってしまいます。これが、大きな負担となり、腰痛の原因になってしまいます。介護者は、介護を続けたくても、ひどく腰を痛めてしまったら現場から離れざるを得ません。
そこで、腰痛を防ぐための方法として、「ボディメカニクス」があります。
ボディメカニクスを活用して介助をすると、介護者の身体への負担が少なくなります。
腰痛で悩んでいる方も、介護を長く続けていきたい方も必見!
ボディメカニクスの定義や7つの原則と活用法をご紹介します。
目次
ボディメカニクスとは
ボディメカニクスとは、骨格・筋肉・内臓などを中心とした身体のメカニズム(身体力学)を活用する技術です。
ボディメカニクスの7つの原則と活用法
ボディメカニクスには、7つの原則があります。それを介護に活用することで、利用者さんにも介護者にも負担をかけずに、安全な動作ができます。
ボディメカニクスの7つの原則と活用法は以下の通りです。
① 足幅を前後左右に広げ、腰を落として立った状態を安定させる(支持基底面積を広くとる)
床と接している足もとの面積を支持基底面積といいます。この面積は大きい方が安定します。足を閉じて立つと、支持基底面積が小さくなり、足を開いて立つと、支持基底面積が大きくなります。
足を左右に広げるだけでなく、前後にも開くことで支持基底面積はさらに大きくなります。
加えて、腰を落として身体の重心を低くすると、身体はより安定し、よろめきにくくなります。
できるだけ足を開いて立ち、腰を落として重心を低くし、身体を安定させてから介助を行いましょう。
② 利用者さんと自分の重心を近づける
利用者さんと自分の重心を近づけると、重心が離れているときよりも、少ない力で介助をすることができます。
たとえば、お米が入った重い段ボールを持つとき、段ボールと腰を密着させていませんか?
段ボールと腰を離して持つと、双方の重心が離れるため、重く感じてしまいます。さらに、腰も曲がるため、腰痛の原因にもなります。
自身の立位を安定させたあとに、利用者さんと自分の重心を近づけましょう。
③ 利用者さんの手足を体の中央に引き寄せてもらい、小さくまとめる
利用者さんのうでを組み、ひざを立てることで、利用者さんの身体は小さくまとまります。そうすることによって、利用者さんの身体の力が分散せずに一点に集中するため、動かしやすくなります。
さらに、利用者さんの手足を中央に寄せると、ベッドとの接地面積が小さくなります。そのため、摩擦抵抗が減少し、少ない力で介助をすることができます。
利用者さんのうでを組み、ひざを立ててから介助をしましょう。
④ 指や手だけでなく、腹筋や背筋などの大きな筋肉を使う
利用者さんを移動させるときは大きな筋肉を使うようにしましょう。
指や手など使う筋肉を限定してしまうと、負担がその筋肉に集中してしまい、すぐに疲れてしまいます。
利用者さんを移動させるときは、腹筋、背筋、大胸筋、お尻の筋肉、太ももの前側の筋肉など、全身を使う意識をすると良いでしょう。
⑤ 利用者さんを持ち上げずに、水平移動を行う
利用者さんを移動させるときは、持ち上げるのではなく、水平に移動させましょう。
利用者さんを持ち上げる行為は、重力に逆らうことになるため重さを感じます。
また、利用者さんを押すのではなく自分に向かって引きよせるように移動させましょう。
何かを押し出そうとすると、力が前方へ広がって分散してしまうことになります。逆に、引き寄せるようにすると、力が自分のお腹の方へ集中されるため、力を入れやすくなります。
利用者さんを自分に引き寄せるように、水平移動を行いましょう。
⑥ つま先を移動する方向に向け、腰と肩を平行にする
不自然に身体をねじると、腰と肩の平行を崩してしまい、腰痛の原因になります。
また、身体をねじると不安定になり、重心の移動がしづらくなってしまいます。
重心移動をしやすくするためにつま先を移動する方向に向け、身体をねじらずに介助しましょう。
⑦ てこの原理を利用する
てこの原理とは、力点(力を加える点)と作用点(力が働く点)の間に支点(支えとなる点)をおくことで、大きなものを少ない力で動かせる原理です。
たとえば、利用者さんを端座位(ベッドの端に両足を垂らして座った状態)にさせるときは、利用者さんの臀部(でんぶ)を支点にして回転させると、てこの原理が働き、少ない力で介助することができます。
利用者さんを持ち上げるのではなく、てこの原理を利用して介助をしましょう。
介護を長く続けるために、ボディメカニクスを活用しよう!
介護者が元気でいてくれると、利用者さんは安心して介護者に介助を任せることができ、生活への不安も少なくなります。
利用者さんは、心から介護者を頼りにしています。介護者がケガをしてしまうと、利用者さんは「〇〇さんの身体は大丈夫かしら」「私の生活はこれから成り立つかのかしら」と、さまざまな心配をしてしまいます。介護に携わる方には、身体に気をつけて少しでも長く介護を続けてほしいと思います。
日々の介護にぜひボディメカニクスを取り入れてケガを予防し、利用者さんのためにも自分のためにも、自身の身体を大切にしてください。
参考サイト
介護応援ネット「ボディメカニクス」(2017年6月22日,https://kaigoouen.net/skill/shift/48)