介護コラム

連載介護小説「ユウキの日記」vol.7

第7話「介護職員への道」

【前回までのあらすじ】
いとこからの頼みで、彼女の母にして自身の伯母である美佐子を介護することになった有紀。
しかし介護について何もわからなかった有紀は、美佐子の挙動に振り回され、うんざりしてしまう。
しかしそれ以上に、いとこの和子は追い詰められていた。
彼女が実の母に対して介護虐待をしてしまったことをきっかけに、有紀はきちんと介護の勉強をする決心をする。

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「介護士ってどうすればなれるんだろう?」

介護士になろうと決心したものの、当時の私は本当に何も知りませんでした。
相談する友人もいなかったので、取りあえず仕事で使っていたパソコンのネット検索に頼ることにしました。

~介護士になるには?~

続々と出てくる資格取得講座の数々。
「へえ、国家試験に合格すればいいんだ」

学生時代の友人で、看護師や保育士になった子は大勢いました。
みんな、専門の学校に通って数年勉強したのちに資格を取得していましたが、介護士というのは、学校に通う以外にもなれる道があるようでした。
けれど、読み込んでみると……

~3年以上の実務経験が必要~
「え?いきなり働かないとダメなの?伯母さんの介護がしながらじゃ絶対に無理……」

介護士になる以外で、介護の勉強をするにはどうすればいいのか。
検索を続けていると、私の目に「介護職員初任者研修(ホームヘルパー2級)」という言葉が飛び込んできました。

介護の基礎が学べるらしく、介護の職場でもこれを学ぶと働きやすいとのこと。

「介護士ではなく、介護職員になるのか……」
と考えていると、パソコンの画面には「この資格は、ご家族の介護にも絶対に役立ちます!」という文字が!

「家族の介護!!」

このキャッチコピーに心奪われた私は、早速検索を進めました。
すると、家のそばに明日から開講する学校があると分かりました。
「定員になり次第締め切ります」とあったのですが、明日はちょうど伯母さんの介護当番も休みの日。

もしかしたらと思い連絡をすると、授業料は当日でも構わないとの返事。
そこで翌日、私はメールで貰った地図を片手に、その「介護職員初任者研修」の会場に向かったのです。

さっそく始まる、介護の授業は……

最寄駅からほど近いシティーホテルの会議室。
始まるギリギリに焦って重い鉄の扉を開くと、そこには整然と椅子に座った生徒さんたちが並んでいました。

どうやら私は、開始時間15分前集合というのを聞き漏らしていたようです。

「失礼します」と挨拶した私に、全生徒が振り返ります。それはまさに老若男女。
高校生のような風貌の女の子から、70代と思える初老の女性、厳つい中年男性に、引きこもりのような前髪で顔を隠した青年。

中には、真っ赤な口紅を引いて派手な服を着た、およそ介護とは縁のなさそうな女性たちの姿も見えます。
「どうぞこちらにお座りください」

促されたのは、空いていた教壇の真正面の席でした。
やはり大人になっても、こういう席は誰も座らないのだなあ。
思いながら腰を掛けると、現れたのは私より随分と若い先生でした。
そして配られた三冊の重たい教科書。
急に不安と期待が入り交じり、私の心臓はどきどきと高鳴り始めます。

「これ、全部覚えられるかな」

学生以来、数十年ぶりの勉強。
こうして私の、介護職員への道が始まったのでした。

【つづく】
※この作品は、登場人物のプライバシーに配慮して設定を変えていますが、私が体験した事実に基づいた物語です。

ABOUT ME
坂本淳仔
アマチュア劇団の座付き作家、ライターを経て、上京後公募作家に挑戦(集英社ビジネスジャンプ漫画原作、池袋演劇祭、KADOKAWA「幽」怪談実話コンテスト、戯曲など多数入賞)。しかし現在は、相次ぐ親の看取り経験から公募審査員のバイトを退職。初任者研修を修了後、レクリエーションボランティアを経て、デイサービスに勤務。高齢者サロンのスタッフ、行政の文化振興委員のお手伝いをしています。