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【徹底解剖】「ICF(国際生活機能分類)」とは?―「生きる全体像」を把握して、「よりよく生活するためにどうするか」につなげる

疾病の後遺症や高齢のため歩けなくなり、外出を諦めなければならない……そうした状態の利用者さんに、あなたも会ったことがあるのではないでしょうか。
けれどその”障害”を「車椅子があれば外出できる」と捉えれば、「できない」は「できる」に変わります。
このようにその人の「生きる全体像」を捉えて、「よりよく生活するためにどうするか」を考える生活機能と障害の分類法を、「ICF(国際生活機能分類)」といいます。

ICF(国際生活機能分類)の考え方とは


「ICF」は「「International Classification of Functioning, Disability and Health(国際生活機能分類)」の略で、2001年に世界保健機構(WHO)で採択されました。正式名称を「生活機能・障害・健康の国際分類」といいます。
「ICF」では下図のように「健康状態」「心身機能・構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」の各要素を約1500項目に分類し、それぞれが相互作用していると考えます。

「ICF」の前身には1980年にWHOにより発表された「ICIDH」(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps、国際障害分類)がありますが、その考え方は下図のように、「疾病」「機能・形態障害」「能力障害」「社会的不利」と一方通行的。

たとえば脳卒中(疾病)の後遺症で歩行が困難になり、買い物に行けなくなった場合、その「買い物に行けない(社会的不利)は脳卒中(疾病)が原因と考えるのです。

一方「ICF」では、「買い物に行けない」のは脳卒中が原因であるとしても、「車椅子を使ったり、介護者に協力してもらえば買い物に行ける」と考えます。
障害をさまざまな角度から捉え、「○○すればできる」とポジティブに改善していくことが「ICF」の特徴なのです。

各項目の具体例


次に、先ほどの「ICF」の図に具体例を入れて、それぞれの要素を見てみましょう。

健康状態

疾病や体の変調のほかに、肥満や怪我、妊娠、ストレス状態などを含みます。
生活機能にさまざまな影響を与えるため、高齢もひとつの健康状態として捉えます。

心身機能・構造

心身機能として、手足の動き、精神の働き、視覚、聴覚、内臓の働きなどが挙げられます。
身体構造とは、手足や心臓の一部(弁など)など体の部分のことをさします。

活動

歩行やADLのほかに、家事行為(調理や掃除など)、職業上の行為、余暇活動(趣味やスポーツなど)に必要な生活行為がすべて含まれます。
本人が実際に行っている「している活動」と(実際に行っていないけれど)能力的に「できる活動」に分かれます。

参加

社会や家庭に参加して、そこで役割を果たすことをいいます。社会や家庭のほかにも、趣味の会やスポーツへの参加など、あらゆる場面が考えられます。
また、地域組織の中での役割や政治的・宗教的な集まりに参加する、など広い範囲のものが含まれます。

環境因子

周囲を取り巻く環境要因が挙げられます。

個人因子

年齢、性別、民族、生活歴、価値観、ライフスタイル、興味関心など、その人固有の特徴のことをいいます。

「ICF」の視点から見た「Aさんの全体像」

実際に「ICF」の考え方に沿って、とある高齢者・Aさんの全体像を見てみましょう。

健康状態
くも膜下出血後遺症による左片麻痺
心身機能・構造
・左肩間接に亜脱臼がみられ、可動域が制限される
・左半身筋力低下
活動
・自宅内では手すりにつかまって歩行可能。外出時には杖、シルバーカーを使用
・排泄は、昼間は自宅のトイレ、夜間は居室内のポータブルトイレを使用
・入浴は自宅で一部介助
参加
家事としてテーブル拭きを担当
環境因子
・2階建て住宅に次女夫婦と同居
・自宅は手すりなどを取り付け、改修済み
・長女夫婦が隣接する区に居住
・機能訓練型デイサービスに週2回通う
個人因子
・84歳。女性。要介護1
・茨城県出身。終戦後東京に移住して結婚。60歳で夫と死別
・娘時代に洋裁を習っていた。ファッション好き
・自宅からバスで5分の駅にある街でショッピングを楽しんでいた

Aさんの状況が大体把握できるため、上記の情報も今後のリハビリに生かすことが可能です。
たとえば歩行訓練のリハビリも、「以前のようにバスに乗ってショッピングを楽しむ」ことを目標にすれば意欲も高まり、杖や装具、シルバーカーなどの活用でそれを実現させる方向に持っていけるのです。

まとめ

「ICF」によって当人や家族をはじめ、保健や医療・福祉など幅広い分野の人が、生活機能や疾病の状態について共通の理解が持てるようになります。
考え方を利用する際には分類や評価より、その人が「よりよい生活を送るためにはどうしたらいいのか」を主眼として、サービスの計画や評価・記録などに役立てていきましょう!

参考文献
・厚生労働省大臣官房統計情報部「生活機能分類の活用に向けて(案)」(2007)
・国立長寿医療センター研究所生活機能賦活研究部「ICF(国際生活機能分類) -「生きることの全体像」についての「共通言語」-」(2006)
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