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与薬介助と医療行為と猫マンマ~薬にまつわる話:前編~

「薬飲まないと死んじゃうから!」
先日あるバラエティ番組で、お笑い芸人のD氏が放った一言。
そこには、共演者らが旅先でバーベキューを楽しむ傍ら、1人だけマイペースに薬を一粒ずつ飲み込む、D氏の姿が映し出されていた。といってもバラエティなので、当然そこは笑いになった一幕でもある。

それはさておき、もし自分で薬を飲めない人だったら、果たしてどうだろうか?
それこそ誰かが飲ませなければ、笑い事では済まされなくなる。多かれ少なかれ、そうした状況と直面せざるを得ないのが、介護の現場だ。
そこで、与薬について少し掘り下げてみた。

利用者の状態によって与薬介助も違ってくる

 

与薬介助の際は、薬を直接飲ませるというより、食事や飲み物に混ぜて服用させるのが“現場流”だ。ではなぜ、そうする必要があるのか?

咀嚼&嚥下機能が低下している人

例えば、物を噛み砕く「咀嚼」ができても、飲み込む方の「嚥下」ができなければ、むせたり、喉に詰まらせたり、ということが起こる。
それとは逆に、嚥下はできても、咀嚼ができなければ、口のなかに物がたまったままなので、結局のところ摂取できていない状態と変わらない。
そして、それらは服薬でも同じことがいえる。とはいえ、咀嚼・嚥下機能の低下は人によってさまざまなので、簡単に把握できるものではない。

そうしたとき、「刻み、ペースト、とろみ、ゼリー」などの食事の形態が、当人の状態を見きわめるうえでの判断材料になる。
普通に自分で薬を飲める人なら、ただ水と一緒に飲み込めばいいだけの話だが、介護の現場で服薬させるとなれば、ただではいかない。それが与薬介助なのだ。

薬が苦手な人

機能の低下とは別に、粒状だと飲めなかったり、薬の味が嫌だったり、という人も少なくはない。
そうしたとき介護の現場では、さまざまな工夫を施す。
例えば、粒状なら細かく砕いてあげる。薬嫌いの人には何回かに分けて少量ずつ飲ませる。もしくは会話を膨らませ相手の気分を高めるなど、その手段は数多くある。
だが、どれも時間を要するという点では否めない。

だからといって、それらの時間を短縮してしまうと、誤飲や誤嚥につながるほか、相手から薬以上に嫌われてしまうことにもなるだろう。
いくら大人とはいえ、全ての人が抵抗なく薬を飲めるわけではない。

口のなかが乾きやすい人

こちらは、唾液の分泌量が低下している人に多く見られるケース。
その原因はいろいろとあり、また大半の人は唾液の分泌を促す薬が処方されている。
だが、改善されていないから処方されているのであって、やはり口のなかが乾燥状態であることに変わりない。

そのため、特に食前薬を服用している人には、事前に飲み物で口のなかを潤わせる必要がある。
乾燥したまま服薬してしまうと粘質がないため、むせやすくなるからだ。薬が気管に入ってしまった場合、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性も高くなる。
もし、口内の乾燥に加え咀嚼機能も低下している人なら、水分を含ませたガーゼなどで口のなかを保湿してから与薬する、というやり方もある。

看護師が現場にいないと困る医療行為


与薬介助と一口に言っても、それは単に服薬者の状態を把握するだけにとどまらない。
そもそも与薬は医療行為にあたることから、原則として「看護師の管理のもと介護者が与薬介助をできる」とされている。
しかし国の定めるガイドラインには、介助者による医療行為(与薬等)がどこまで可能なのか、条件が明記されていない。そのため、グレーゾーンというのが現状だ。
ただ施設介護の現場では、看護師が薬の仕分けや配薬をしたあと、介護職員が与薬介助に回るという「分業スタイル」を採用するのが一般的。
では、そうしたときに、いったいどんな問題が出てくるのか? 

看護師不在+手薄の夜勤時は悶絶

介護施設で看護師が夜勤をするケースは、皆無といえるほど稀だ。
主任クラスの看護師なら夜遅くまで残業することはあっても、大半は定時の17時前後が退社時間になる。
そのため看護師不在の夜勤中に、薬が足りなかったり、急変時用の薬が必要になった場合、介護職員では対応しきれない。
なぜなら薬は看護師が管理しており、介護職員はナースステーションに勝手に入ることはできないからだ。
対処法はただ一つ、看護師に連絡して現場まで来てもらうほかない。ただでさえ夜勤はスタッフが手薄のため、経験者ならきっと悶絶するような時間を味わったはずだ。

朝食時における誤薬とヒヤリハット

看護師の早番制を敷いているところは別として、猫の手も借りたいほど忙しい朝食時では、看護師の有無が1日を左右するときもある。
例えば薬を失くしたり、落としたり、あるいは違う利用者に飲ませたなどの「誤薬」が起きた際、看護師がいれば現場はストップせず流れる。
ところが看護師不在の場合は、前述の通り対応が困難になるほか、ヒヤリハットで時間を大きく取られる。
なにせ看護師がいないのだから、事細かに状況を説明しなければならない。

朝食前の各介助からはじまり、配膳と下膳、そして与薬介助のあと、入浴やレクの準備に取りかかる。ヒヤリハットは、そうした忙しない朝の時間に割って入ってくるのだ。
「せめて昼食時と同じくらいのスタッフがいれば、ヒヤリハット報告書を書かずに済んだ」と思っている人は少なくないだろう。それだけ朝の時間帯の誤薬は多いのだ。

看護師が同行できない外出レク

日中は当然、夜勤や朝の時間帯よりスタッフが多い。しかしいざレクリエーションに出かけるとなれば、同行スタッフも手薄になる。
また看護師の数が介護職員より少ないことから、看護師不在でのレクリエーションという場合も多い。
そうした最中、出先で誤薬や急変が発生したとなれば、楽しいはずのレクリエーションも一変する。
もちろん計画書には、万が一に備えた対処法を想定して書いてあるだろうが、懸念はつきない。
とはいえ、リスクだけ考えていたら、「なんのためのレクリエーションなのか」ということにもなる。
そうすると、町でよく見かける外出レクの付き添いスタッフらは、介護職のスペシャリストといえるだろう。

私見でまとめる ~啓蒙よりも大切なこと~

よく介護の現場で誤薬が起こると、「ヒヤリハット」「リスクマネジメント」「重大事故」という声が飛び交っていた。
駆け出しのころは、ヒヤリハットやリスクマネジメントと言われてもピンとこなかったが、そのうち嫌でも耳にするようになるので、意味を調べてみたら、もっと分からなくなった。
そうした研修も多くあったが、やはり頭に入ってこない。だからかもしれないが、どうしても「言葉だけが独り歩きしている」という感じは拭えなかった。
ではなぜ、与薬の危険性を考えるようになったのかというと、子育てがヒントになったからだ。
乳児に服用させる際は、粉薬を水でとぎ、それを指で口のなかにまぶしてあげないと、上手く飲んでくれない。
ところが、親としては早く風邪を治して欲しいがために、無理やり薬を入れようとする。当然、結果は失敗に終わる。
そうこうしているうちに、介護も子育ても一緒なんだと気づく。

冒頭で現場流と述べたが、誰も「薬の猫マンマ」を好き好んで食べたい人などいない。
介助する側も、それをしたくてやっているわけではないはずだ。

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