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介護福祉士が聞いた、利用者家族の「ホントの気持ち」

私は演劇活動をしているのですが、1月に公演した作品(10月に横浜と長野で上演予定)を観に来てくれた友人Sさんから、彼のお母さんについて相談をされました。
Sさんの話は、もしかしたら多くの要介護者を親に持つ子供が持つ気持ちなのかもしれないと思い、今回許可を得て書かせて頂きました。

本当は何かしてあげたい、利用者家族の気持ち

「僕、自信がないんです」
親子であることに何の自信が必要なのか分からず、私は話を聞いていました。
「僕は末っ子で、お母さんの介護に全く関わっていないんです。そして、お母さんを施設に入れるってなった時、僕は全く何もせず、兄が全部やったんです。僕は、何も出来てなくて、自信がないんです」
私「会いに行ってあげたら、いいと思うのだけど……。」
「そう、僕、この1カ月、会いにも行けてなくて。それも、心にあって……。行っても、手を握ってあげることしか出来ないし……。母は、寝たきりなんです。だから、何をしてあげることも出来なくて……」

彼のお母さんが入ったのは特別養護老人ホーム。施設の職員さんは、きっと毎日大変です。
私自身、特別養護老人ホーム出身なので、その過酷さをよく知っています。

それでも、この時私はSさんに言いました。

私「散歩に連れて行ってあげるのが、一番といいと思うよ。寝たきりでも、食事の時は起きてるんでしょう?車椅子か何かで」
「それは、起きてるけど……」
私「じゃあ、起こせるんだよね?」
「でも、どうやって起こしたらいいか分からないし……」
私「職員さんに、『すみません、母を散歩に連れて行きたいので、起こして頂けませんか?』って言ってみて。忙しいから、もしかしたら『げっ』って顔に出ちゃうかもしれないけど。でも、断らないと思うから。」
「いいのかな?」
私「それも大事なことだから。散歩に行きながら、歌を歌ってあげたらいいと思うよ」
「……これから、天気もいいしね……。ずっと、部屋の中で寝てるんだし、ちょっと風に当たるだけで、違うよね。
もう目はよく見えないし、耳も聞こえないけど、顔にちょっと風が当たると、分かるよね」

被介護者が「美しい人」である瞬間を見つけて

Sさんは話を続けます。
「凄く、綺麗な人だったんだ。僕、自慢の母だったんだよ。それが、こんなになっちゃって、何だか可哀そうで……」
私は少し考えて、思い出したある女性の話をしました。

私「何年か前に、ショートステイに来られた人の話なんだけど。認知症があって、徘徊とかもあって、大変な方ではあったんだけど……その人がね、他の入居者さんと3人で本を見ながら歌ってた時、手を叩いてくれたの。
リズムをとる。その何でもない仕草が、ただの拍手なんだけど、凄く、凄く美しくて、『ああ、この人は綺麗な人だったんだ』って感動したんだ。
そんなに綺麗な人だったんなら、そういう瞬間が、絶対あると思う。

そういう瞬間を、いっぱい見つけてあげたらいいんじゃないかな?」

「そっか……やってみようかな。僕が娘たちに、車椅子を押してもらって歌を歌ってもらったら、ちょっと泣いちゃうな」
私「自分がやってもらったら嬉しいことを、したらいいと思う。無理して大変なことしなくていいと思うんだ。ちょっと散歩に連れてってあげるみたいなのを、時々してあげたらいいよ」

本当にいいケアをするなら、利用者の家族にも目を向けよう

私の言葉が、Sさんの力になれたかは分かりません。しかし話を聞いていて、こんなにお母さんのことを思っているのにうまくいかない悩みがあるんだなあと思いました。

施設現場は大変ですよね。でも、入居者様には幸せであって欲しいです。
一番入居者様が嬉しそうにされるのは、ご家族に会う瞬間だと私は思っています。
口では「あんた、忙しいんでしょ。早く帰んなさい」とおっしゃっても、ご家族と会った瞬間の顔が、いつもと違う輝きをお持ちだからです。
もし利用者さんのご家族――息子さんや娘さん方が悩んでいらっしゃる様子が見えたら、介護職として話を聞いて、少しでも気持ちを汲んであげたいですね。

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