サイトアイコン 介護のお仕事研究所

認知症患者、ひとりの人間として見つめて

介護については、病気への理解と不安を持たないようにとことんその方へ付き合うことがとても大切だ。
先日電車で出かけた際に、あるおばあちゃんとお会いした話をしてみたいと思う。

危ない!駅で出会った不思議なおばあちゃん

私が乗り込んだ駅で、変わった動きをするおばあちゃんがいた。駅員さんや周りのお客さんに、目的地への行き方を聞いている。聞こえた目的地は一緒の方向。
「ああ一緒の方だな。目的地まで二回乗り換えが必要だな」と心の中で思った。
変わったおばあちゃんだな、ぐらいにしか見ていなかった彼女は、腰がきれいに90度に曲がっていた。しかしとても愛嬌のある、笑顔のかわいらしいおばあちゃんだ。農家だったのかな、と思った。

しかしそのおばあちゃんは、一回目の乗り換えのホームでも人の流れに逆らい、いたる女性に行き方がわからないと聞いていた。
これはまずいなと思い、声をかけた。
「○○駅ならこの上ですから、一緒ですから、一緒にいきましょう。」
そうするとおばあちゃんは、「すいません、すいません」と繰り返した。
話を聞くと、「同窓会に参加するの」とのこと。そのために電車に乗ったのだという。一緒に改札まで行き、「切符の確認して」と伝えると……。

「ない」

えっ!?じゃあ、どうやって乗ったのだろう!?駅の事務所へ同行し、駅員さんに事情を話すことに。
しかし駅員さんはおばあちゃんに高圧的な態度をとる。彼女の不安を増長させるだけだとは思ったものの、切符を探すのが先決……。
「もう一度探してくださいね」と言った。
その時の駅員さんとおばあちゃんの会話がかみ合っていなかったので、そこでおばあちゃんがMCI(軽度認知障害)なのかなと推測。もう一度探してもらうと、切符は財布からみつかった。
しかしこれでは、同窓会の会場までは行けないだろう。そう思い、二回目の乗り換えの改札まで見送りをしようと決めた。

自分、家族、友人……大切な思い出は覚えている

異様な光景だっただろうと思う。周りから見たら、訝しく感じたかもしれない。腰の曲がったおばあちゃんが、スーツ姿のおっさんに誘導されているのだから。
一回目の乗り換えで、切符を買ってもらおうと券売機に行った。おばあちゃんのお財布の中は、小銭だらけだった。
認知症になると計算ができなくなると聞くが、まさにそのとおりなのだろう。

おばあちゃんいわく、同窓会の集合時間は12時。しかし現在の時間は、なんと9時30分!どうしようもないと思い、同窓会の幹事さんの名前と電話番号を聞いた。
するとおばあちゃんは、きちんとそれを暗記していたのだ。さすがに素晴らしい!
幹事さんに連絡を取ったところ、近隣の喫茶店も11時からしか開かないとのこと。おばあちゃんと一緒に、駅構内にあるフードコートで時間をつぶすことになった。
昔のお話やご家族のお話に花が咲く。その会話中、おばあちゃんは一度も「すいません」とは言わなかった。
その言葉は、表に出している不安の証なのではないかと思う。

温かなまなざしを向ける未来へ

今後このように、迷子になるお年寄りは増えてくる。その時に隣にいたら、どんな対応をしたらいいだろうか?
これは今こそ、「真剣に考えていく岐路なのではないか」と感じたひとつの出来ごとだ。
まずは知ってほしい。要介護者=なんにもできない人ではない。彼らにもできることがある。ゆっくりならできる。それを奪わないでほしい。
認知症患者のペースに付き合うことも、患者の不安解消につながるだろう。
いつか自分もなるであろう認知症。みんなで支え合うような、周囲のやさしい目が必要だ。

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