はじめまして、看護小規模多機能型居宅介護事業管理者とサテライト型小規模多機能型居宅介護事業管理者を兼務している「naki,」と申します。
私は介護の仕事に新卒から携わらせてもらい、大変さも感じますが、それと同じくらい楽しい思いをさせてもらっています。日常の暮らしのなかで、特別ではない当たり前にある介護や、生活の延長線上にある死を伝えていければと思います。
今回は「小規模多機能型居宅介護」はどのような職場なのか、紹介させていただきます。
目次
「小規模多機能型居宅介護」が生まれた背景
『小規模多機能型居宅介護(「小規模多機能」と略されます)』は、2006年4月の介護保険法改正によって、地域密着型サービスの枠組みで生まれました。
その目的(基本方針)は、
出典:『指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準』第四章 第一節 基本方針(第六十二条)
とあります。
「小規模多機能型居宅介護」の意味を噛み砕いて説明すると
この漢字ばかりの「小規模多機能型居宅介護」の言葉の意味を次のように分解して考えたいと思います。
「小規模」「多機能型」「居宅」「介護」
それぞれは、
「多機能型」=1つの事業所で、通い、訪問、泊まりの3つのサービスを提供してそれらを自由に組み合わせることによって多様なニーズに合わせる機能性を持つ。
「居宅」生活が営まれる場所。自宅を中心とした生活圏域で、自宅だけとは限らない。(個人的見解)
「介護」生活の手助け(個人的見解)
という意味で、
さきほどの国が定めた基本方針とまとめてみると、
「地域に根ざした小さな事業所が提供する、通い、訪問、泊まりサービスを自由に組み合わせて利用してもらい、本人の能力に応じた生活圏域での日常生活を営む手助けをする」事業、といったところでしょうか。
小規模多機能のメリット・デメリット
次に、利用者目線での小規模多機能のメリット・デメリット(「注意点」ともいえます)について説明します。
主なメリット
包括費用が安い
小規模多機能に登録した利用者は1ヶ月の利用回数に関わらず、包括的に1ヶ月定額の介護度による介護保険1割(または2割)負担で利用ができます。
24時間365日、柔軟性のあるサービスが受けられる
決まった利用の他に、各利用者に合わせたオーダーメイドの組み合わせが可能です。変更も臨機応変に対応でき、夜間も対応ができます。
サービスごとにスタッフが変わらない
小規模多機能を使わずに介護保険サービスを利用しようとすると、通いはデイサービス、訪問は訪問介護、泊まりはショートステイとケアマネジャーをコーディネーターとして、別々の事業所を利用する必要がありましたが、小規模多機能では、通い、訪問、泊まりのサービスを同一事業所のスタッフが提供し、情報の共有もサービス横断的にできます。
主なデメリット
登録定員と利用定員の制約がある
小規模多機能を利用するにあたっては、事業者との契約により登録が必要です。各事業所によって登録定員数と、1日の通い上限である利用定員数、泊まり室の数によって泊まり定員が定められています。特段の理由がない限り、利用定員を超えて、また所定の泊まり定員を超えての利用はできません。
利用にはケアマネの変更が必要
小規模多機能の利用にあたって、今まで介護保険サービスを利用するために、お世話になっていたケアマネジャーから小規模多機能専属のケアマネジャーへの変更が必要です。
介護保険サービスで併用できないサービスがある
小規模多機能を利用することで、使えなくなる介護保険サービスがあります。訪問介護、通所介護、短期入所生活介護など小規模多機能が提供するサービスを中心に、他の事業所のサービスを利用できなくなります(併用できる介護保険サービスもあります)。
小規模多機能の「通い」「訪問」[泊まり」はちょっと独特
小規模多機能のサービスでは、デイサービス、訪問介護、ショートステイの3つと似たサービスを提供しています。しかし、利用の制限などに違いがあります。
通所介護(デイサービス)との「通い」の違い
通所介護は、あらかじめ決まった時間枠による利用とスケジュールがあり、時間数に応じた負担額があります。一方、小規模多機能の通いサービスは、午前中だけ、午後だけ、夕方だけなどスポットでの利用も可能です。さらに、「1日通して朝昼夕食を食べてから帰る」など利用者のニーズに合わせた時間の過ごし方が可能です。
訪問介護との「訪問」の違い
訪問介護は、時間数に応じた負担額や時間枠によるサービス内容の制限がありますが、小規模多機能の訪問サービスは、包括費用となっており時間や回数制限がありません。通常の訪問介護のサービス(食事作りや洗濯、掃除)はもちろん、5分間の安否確認や、傾聴など必要な時間に必要な分だけオーダーメイドでの利用が可能です。
短期入所生活介護(ショートステイ)との「泊まり」の違い
短期入所生活介護では、基本的に事前予約制で、あらかじめ予定を立てる必要がありますが、小規模多機能の泊まりサービスは、突然の予定変更にも柔軟に対応が可能です。
介護のプロの近道!?「小規模多機能」という職場の魅力
小規模多機能の3つのサービスの特徴で述べたとおり、訪問介護、通所介護、短期入所生活介護の側面をもったサービスを1つの事業所で展開しているので、そこで働くスタッフは訪問、通い、泊まりのサービス形態を一気に学ぶことができます。
もちろん小規模多機能ならではのアレンジが加わっていますので、そのまま訪問介護、通所介護、短期入所生活介護そのままのサービスではないところが注意が必要ですが、働くスタッフとしてはより多くのことが学べます。
他にも職場としてはこのような魅力があります。
より身近なサービス展開を含めた柔軟な発想力・デザイン力
個々の高齢者の生活を支えていく介護の仕事ですが、上記に記したように、3つのサービスを組み合わせて1つの事業所が提供することで、情報の共有がスムースになります。また、それぞれのサービスの時間的な制限や、内容の制限が比較的に少ないため、柔軟に、臨機応変に利用者の生活に合わせたサービスを提供できます。
その組み合わせ方は、ひとりひとりの発想力次第。より自由な発想が身につきます。また地域密着型で、小規模な単位での運営となります。事業所だけで完結するのではなく、本人の暮らしを地域を巻き込んだサービスをも組み合わせた地域をデザインするちからが身につきます。
より近い人間関係の構築
小規模な、地域限定での運営のため、より利用者と近い関係性を築けます。また近隣との関係性を築くことにより、さらに利用者の生活の質の向上、人付き合いを失ってしまわないように、内にも外にも豊かな関係構築をする素地があります。
地域の介護に精通できる
上記の2つも含めて、地域密着型サービスの特徴で、地域包括支援センターや、民生委員、町内会など地域の中心となっているメンバーとしてチームを組むことがしばしばあります。そこから近隣の介護相談や紹介などを通して、地域事情に詳しい地域通になれる…かもしれません。
「介護離職」を防ぎ、居宅介護を支えていくために
小規模多機能の「通い」「訪問」「泊まり」の3つのサービスを、定期利用と臨時利用、そして突然の予定変更に柔軟に対応しながら組み合わせていくことで、利用者の自立した生活と、家族のサポートを同時に達成する地域包括ケアの中核を担うサービスです。
とはいえ、利用者全員が毎日利用するなど、全員のニーズに十分応えるような極端な利用は制度上難しいので、3つのサービスを上手に組み合わせながら、本来必要なニーズを見極めていくことが重要です。
あくまでも「居宅において自立した日常生活を営むことができるようにするものでなければならない」サービスであることを忘れてはいけません。