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介護職員だって、傷つき怯えている
2015年9月に発覚した、川崎市の有料老人ホームで3人の入所者が連続転落死した事件は、職員から入所者への暴力・虐待の事実と共に大々的に報じられました。厚労省と協議した川崎市は、11月13日にも、同施設に対して、入居者の受け入れと介護報酬の請求を3ヶ月間停止する行政処分を行う方針を固めています。
利用者への虐待は当然許されることではありませんが、こうした利用者への虐待は厳しく糾弾される一方で、実は日常的に行われている利用者から介護職員への暴力・暴言は、ほとんど話題なりません。今回は、介護職の皆さんを、利用者の暴力・暴言から守る方法を考えてみます。
利用者の暴力・暴言に悩む、介護職員の声
鉄製のモップで振り回したり、私を追っかけたりしてました。なんとかなだめようと、しましたがモップで胸骨をつかれたり、叩かれました。その後は、フロアのキッチンにあった、キッチンバサミを取り、刺すぞ!と脅す行為もみられ(中略)、腕を切られました。
出典:けあとも
介護をしようとすると、叩いて来たり蹴ってきたり、腕を噛まれたりもしました。自分の体が傷つくことがとても悲しく、「嫁入り前の体に何してくれんのよ!」と内心思っていました。
出典:シゴヤメ
認知症でも体力十分で、力の加減ができない高齢者の暴力等は、「仕事だから」で耐えられる範疇を超えています。こうした利用者からの暴力・暴言は、どの位の人々が経験しているのでしょう?
約5割の介護職員が、暴言・暴力被害あり
少し古いデータになりますが、平成20年3月、長野県が「介護・看護労働者の実態・意識調査結果」を発表しています。調査によると、暴力・暴言を「利用者やその家族から受けた」と回答した人は47.3%と、約5割にのぼる数字になりました。暴力・暴言の具体的な内容としては、「罵声・叱責を浴びせられた」が80.5%、「殴られた」が36.7%でした。
■調査対象:3,145名(介護福祉士 2,535 名、看護師 610 名)
■回答数:858名
■参考文献:「介護・看護労働者の実態・意識調査結果」(長野県)
全国的な統計データでないことを考慮に入れたとしても、約5割とは深刻な数字です。
具体的に、どのような対策をとれば良いでしょうか。
介護職員が身を守る為にできる対策
理不尽な暴力・暴言への対策としては…
関わり方を振り返る
・暴力・暴言を受けているのは、自分だけ?
・暴力・暴言を受けている職員と、受けていない職員の違いは?
・声をかける前に、利用者の身体に触れていないか?
・言葉の選び方、声の調子、表情などが、威圧的になっていないか?
等について、上司や同僚に相談して客観的な意見を聞き、改善点が見つかれば実施してみます。それでも状況が変わらない・相性の問題であれば、他の職員に頼んで、自分は距離を置いてみます。
応援を呼ぶ、利用者から離れる
責任感が強い方ほど、暴力を振るわれても「一人で収めなくては」と頑張ってしまいます。結果、大怪我にも繋がりかねないので、頼ること・逃げることも時には大切です。
体調不良を疑う
認知症の場合、自分の体調不良を言葉で上手く伝えられず、苛立ちから暴力・暴言に繋がる場合も。医療職へ相談し、興奮が収まった時に体調チェックを。
管理者・経営者に報告し、対応を求める
個人でできるレベルの対応を取っても変わらない場合は、「自分のスキル不足だから」「どうせ何も変わらないから」と、一人で抱え込まず、責任者に報告・相談しましょう。以下のように毅然と対応してくれる事業所もあります。
当方では、本人や家族に問題や問題行動がないかを重要視します。利用者の理不尽な要求、暴言、暴力は絶対に許しません。優秀な人材を失っては、介護サービスの提供に支障をきたします。(中略)利用者の職員への暴力・暴言については、証拠を残した上で家族に提示し退去を勧告します。
出典:みんなの介護
専門機関に相談する
上司や管理者が対策を考えようとしない場合は、労働基準監督署、弁護士の無料相談、警察など外部の専門機関に相談することも一つの方法です。「泣き寝入りしない」姿勢を見せることで、上層部の対応が変わる可能性はあります。
まとめ
志が高く、使命感が強い介護職の方ほど、「未熟な自分に問題がある」「我慢すれば良い」等と考えてしまいがち。利用者への虐待と同じく、介護職員への暴力・暴言も深刻であり、軽視されている現状こそが問題だと考えます。個人でできるレベル対処をしたにも関わらず、上司や経営者が真剣に取り合ってくれない場合は、「どこもきっと同じだから…」と考えず、転職も視野に入れましょう。