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2019年から新加算も!「介護職員処遇改善加算」をおさらいしよう

少子高齢化が進んでいる昨今、わが国では介護業界の人材不足や離職率の上昇が深刻な問題となっています。
これからさらに介護職が必要になるのに、肝心の担い手が足りない……このままではそう遠くない未来、日本の介護現場は立ち行かなくなっていってしまいます。

そのような中、国が解決策のひとつとして打ち出したのが「介護職員処遇改善加算」。
介護職員の待遇改善について取り組んでいる事業所に、賃金アップに使えるお金を介護報酬に加算する形で支給する、という制度です。

今回の記事ではこの「介護職員処遇改善加算」について、詳しく説明します。

「介護職員処遇改善加算」ってどんな制度?

介護職員処遇改善加算とは、介護職員の賃金向上のために、介護報酬を加算して支給する制度のことを言います。

加算の種類は全部で5つ。区分ごとにそれぞれ、設定されている要件や支給額が異なります。
介護事業所はその要件を満たすことで加算を取得でき、そしてその分だけ職員への賃金改善を行うことができます。

2011年まで実施されていた「介護職員処遇改善交付金」を引き継ぐ形で、翌年2012年から運用が開始されました。

加算を受けるために必要な「2つの要件」

介護職員処遇改善加算を取得するために必要な要件は2つ。
キャリアパス要件」と「職場環境等要件」です。

キャリアパス要件

キャリアパス要件は、その事業所で働く介護職員のキャリアパスをどのように整備しているか? という観点でチェックされます。

キャリアパス要件の内容
  • 要件Ⅰ:職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をする
  • 要件Ⅱ:資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設ける
  • 要件Ⅲ:一定の基準に基づいて昇給する仕組みを設ける
カイゴン
要件Ⅲの昇給制度は、「勤続年数や経験年数に応じて」昇給する仕組み、「介護系資格の取得に応じて」昇給する仕組み、「実技試験や人事評価などの結果に基づいて」昇給する仕組みなどが具体例として挙げられるゴン。

職場環境等要件

職場環境等要件は、職場環境の整備・改善など、賃金に関わること以外の処遇改善への取組を指します。
主に以下の3つの区分に分けられ、それぞれの区分についてひとつ以上の取組をしている必要がありますが、すでに何かしらの取組をしている場合は、新規で取組を行う必要はありません。

  • 介護職員の資質向上について取り組んでいるか
  • 労働環境や処遇の改善について取り組んでいるか
  • その他(地域交流や非正規職員の正規職員登用など)

介護職員処遇改善加算の「5つの区分」

介護職員処遇改善加算には、「加算Ⅰ」から「加算Ⅴ」まで5つの種類があります。
介護事業者が申請できる加算の区分は、事業所がどの要件を満たしているかによってそれぞれ異なります。

介護職員処遇改善加算の5区分
加算Ⅰ 介護職員ひとり当たり37,000円/月の加算を取得できる
条件はキャリアパス要件Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのすべて+職場環境等要件を満たすこと
加算Ⅱ 介護職員ひとり当たり27,000円/月の加算を取得できる
条件はキャリアパス要件ⅠおよびⅡ+職場環境等要件を満たすこと
加算Ⅲ 介護職員ひとり当たり15,000円/月の加算を取得できる
条件はキャリアパス要件ⅠまたはⅡ+職場環境等要件を満たすこと
加算Ⅳ 介護職員ひとり当たり13,500円/月の加算を取得できる
キャリアパス要件ⅠまたはⅡ、職場環境等要件、共に満たさない
加算Ⅴ 介護職員ひとり当たり12,000円/月の加算を取得できる
キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱも職場環境等要件も満たさない

なお、平成30年度の介護報酬改定により、ⅣとⅤの2区分は経過措置期間を設けた上で廃止されることが決定しています。
加算Ⅳおよび加算Ⅴで算定している事業所が少ないことや、加算制度をよりシンプルにしたいこと、さらなる職場環境の改善を進めたいことなどが背景として挙げられます。

経過措置期間がどのくらいになるのかは明言されていませんが、現状で加算Ⅳ・Ⅴの算定をしている事業所に対しては、早い段階で加算Ⅲ以上の算定を促すことになるようです。

どう受け取る?「介護職員処遇改善加算」

介護職員処遇改善加算は、介護職員のためにキャリアアップの仕組みを作ったり、職場環境の改善を行ったりした事業者に支給する加算。
この分のお金は、介護職員の処遇改善を行うための環境整備や、職員の賃金改善に充てることを目的として支払われます。

ここでは、具体的にどのような流れで介護職員処遇改善加算が支給されるのか、サービスごとにどのくらいの加算がもらえるのかを見ていきます。

届け出の流れ

介護事業所が介護職員処遇改善加算を受けるためには、まず「介護職員処遇改善計画書」を作成し、それを自治体(都道府県または市町村)に届け出る必要があります。
その上で国保連へ加算請求を行い、該当する区分の加算を支給してもらいます。

加算を取得した事業所は、その分の金額を支給された後、自治体に「介護職員処遇改善実績報告書」を提出する必要があります。
これにより、加算に相当する処遇改善がなされていなかったり、算定要件を満たしていなかったりした場合、加算分は不正受給と見なされて返還させられます。加算が取り消されることもあるので注意しましょう。

カイゴン
申請するときには「処遇改善を行う期間や対象の職員、加算や賃金改善の見込額」を記載した計画書を、支給後には「このような処遇改善の実績ができました」という報告書を出すのが決まりなんだゴン。
明美
加算を受け取ったら、給与額を向上させたり職場環境の整備に努めたりと、しっかり介護職員の処遇改善について取り組まなければいけないよ!

サービス別の加算率

介護職員処遇改善加算は、サービス別の基本サービス費に各種加算減算を加えた「1カ月当たりの総単位数」に、サービス別の加算率を乗じた単位数で算定されます。
このサービス別の加算率が以下の表です。

訪問介護や認知症介護、特養・老健など、利用者さんの介護度が重い傾向にあり、介護職員の業務負担が大きいサービスであるほど、加算率が高くなる傾向にあるようですね。

2019年度より実施される新加算「特定処遇改善加算」とは?

2019年10月からは、現行の制度に上乗せする形で「介護職員等特定処遇改善加算」が始まります。

特定処遇改善加算は、優れた技能や経験を持つ介護職員の処遇改善を目的として、介護報酬をさらに加算して支給する制度のこと。
内閣府が2017年に閣議決定した「新しい経済政策パッケージ」で提示された、「介護サービス事業所における勤続年数10年以上の介護福祉士について、月額平均8万円相当の処遇改善を行う」という方針に基づいた加算です。

現行の処遇改善加算との違いは、処遇改善の対象となる職員。
処遇改善加算は全職員に対する賃金改善を目的としていましたが、特定処遇改善加算はリーダー級の職員の賃金改善を目的として新設されました。
「長く働いても給料が上がらない」という介護業界のイメージを払拭し、人材不足の解消につなげるというねらいが背景にあります。

カイゴン
申し出の流れは現行の処遇改善加算と同じ。「介護職員等特定処遇改善計画書」を自治体に提出して申請を行い、加算の支給後は「介護職員等特定処遇改善実績報告書」を提出する必要があるゴン。

特定処遇改善加算の算定要件

特定処遇改善加算を取得するためには、以下の要件を満たしている必要があります。

  • 現行の処遇改善加算Ⅰ~Ⅲを算定している
  • 職場環境要件について、複数の区分で取組を行っていること
  • 賃上げ以外の処遇改善の取組について、ホームページに掲載するなどの「見える化」を行っていること(※2020年度から要件になる)

ただし、ここでひとつ気をつけなければならないことがあります。
それは、特定処遇改善加算の区分にはⅠとⅡの2つがある、ということです。
そしてこの加算Ⅰを取る場合、特定処遇改善加算の要件に加え、さらに「サービス提供体制強化加算(※)」のもっとも上位の区分をあらかじめ算定していなければいけません。
(※)サービス提供体制強化加算とは、サービス提供体制を特に強化して基準を満たした介護事業所に算定される加算です。訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハ、通所介護などで設定されています。

カイゴン
サービス提供体制強化加算を取っていない場合には、特定処遇改善加算Ⅱを算定することができるゴン。
明美
ⅠとⅡは加算率が違うから、それだけもらえる金額も変わるよ。でも、後述する「介護職員に対する賃上げのルール」は共通だから注意しよう!

サービス別の加算率

介護職員処遇改善加算は、サービス別の基本サービス費に各種加算減算を加えた「1カ月当たりの総単位数」に、サービス別の加算率を乗じた単位数で算定されます。
このサービス別の加算率が以下の表です。

特定処遇改善加算の「賃上げのルール」

現行の処遇改善加算と同じく、特定処遇改善加算も支給されたらすみやかに処遇改善が行われなければいけません。
そのためにはまず、賃上げのルールを把握しておく必要があります。

①賃上げの対象となる職員の範囲

どのくらいの職員に賃金改善を行うのか、加算を配分する範囲を決める必要があります。

まずは経験・技能のある介護職員を定義した上で、すべての職員を3つのグループに分けます。

A:経験・技能のある介護職員 勤続10年以上の介護福祉士が基本ですが、必須なのは介護福祉士の資格のみ。
他法人や医療機関での経験も含めて数えたり、事業所の能力評価で業務や技能を勘案したりすることで、同じ法人での勤続10年でなくとも対象とできます。
B:その他の介護職員 「A:経験・技能のある介護職員」以外の介護職員が対象です。
C:介護職員以外の職員 介護職員ではない、その他の職員を指します。

その上で、加算をAに該当する職員にのみ配分するのか、それともBやCの職員にも配分するのかは、事業所内で検討して設定します。

なお「A:経験・技能のある介護職員」については、介護職員間における経験・技能に明らかな差がない場合にまで設定しなければならないものではありません
介護福祉士の有資格者が事業所内にいない場合や、比較的新しい事業所で研修・実務経験の蓄積に時間が必要な場合は、BとCに分けて考えるようにしましょう。

②賃上げ額と方法

特定処遇改善加算による賃金改善では、「A:経験・技能のある介護職員」のうち1人以上は、月額8万円の賃上げまたは年収440万円までの賃金増を行う必要があります。

ただし、事業所の規模が小さくて加算額が少ない場合や、職員全体の賃金水準が低いためにすぐひとりの賃金を引き上げられない場合などは、この限りではありません。

また、ABCそれぞれのグループの平均賃上げ額については、「A= Bの2倍以上」「C= Bの2分の1以下」でなければいけません。

どのような形で賃上げのルールを守るのか、事業所内でよく検討するようにしましょう。

編集者より

厚生労働省が発表している「平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」によれば、介護職員処遇改善加算を取得している介護事業所は全体の91.1%にも上ります。また、そのうちの69.3%が加算Ⅰを取得しています。
介護職員の処遇改善について、多くの事業所が取り組みを行っていることがわかりますね。

2019年10月からは主任レベルの介護職員を対象に、さらなる加算を支給する制度も始まりました。
介護職員の待遇がこれからどう改善されていくのか、しっかりチェックしておきたいですね。

参考文献・サイト

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