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利用者も介護者も無理せずスムーズに!「起き上がり介助」のポイントを理学療法士が解説

プロが教える起き上がりの介助技術

ベッドから移乗する前に必ず行う「起き上がり介助」。
寝ている人を起こすので、大きな負担がかかると思っている人も多いのではないでしょうか。

実はポイントを押さえることによって、介護者の負担を大きく減らすことができます。

腰痛や正しい介助方法がわからずに悩んでいる人は必見!
腰への負担と事故のリスクが少ない、起き上がり介助の方法を紹介します。

解説するのは、「写真でわかる 移乗・移動ケア」の監修を務め、全国の研修会や講習会で講師も行っている理学療法士・田中義行先生です。

腰への負担が少ない!移乗介助の方法を理学療法士がわかりやすく解説ベッドから車いすに移ったり、車いすからトイレに移ったりするときに、介助でサポートすることを「移乗介助」と呼びます。 介護職の人や在宅介...

【解説者プロフィール】

株式会社大起エンゼルヘルプ
理学療法士 田中義行先生

上川病院勤務、江戸川医療専門学校(現東京リハビリテーション専門学校)講師、介護老人保健施設 港南あおぞら勤務を経て、現職に至る。
認知症患者の身体拘束廃止活動を原点とし、現在は、障害者の身体構造・生理にかなった介護法や拘縮を防ぐ介護技術を全国の研修会・講演会で伝え、現場での指導に力を入れている。
著書・監修書に『潜在力を引き出す介助 あなたの介護を劇的に変える新しい技術』(中法法規出版)、『これから介護を始める人が知っておきたい介助術』(日本実業出版社)、『オールカラー 介護に役立つ! 写真でわかる拘縮ケア』(ナツメ社)、『オールカラー 写真でわかる移乗・移動ケア』(ナツメ社)などがある。

介助の前に知っておきたい、基本と準備

介護をしていると、腰が痛むことも多いのではないでしょうか。

まずは、自分の身体を守るためにも腰への負担を軽減する方法を知っておきましょう!
その方法とは、「長時間、20度以上の前かがみで作業をしないこと」。
前かがみのまま作業すると、腰への負担は大きくなり、腰痛の原因となります。
背筋を伸ばして、作業するようにしましょう。

声かけ・周辺整備などは重要な準備

起き上がり介助の準備では、下記の点を確認しましょう。

  • 介助の目的と介助内容がわかるような適切な声かけを行う
  • サイドレールやかけ布団を片付けたり、リハビリシューズを履いてもらったりするなど、利用者の周辺環境を整備する
  • 車いすのフットサポートを外したり、車いすをベッドの近くに寄せたりするなどの車いすの準備をする

介助時の手のカタチの基本

高齢者の身体は少しの力で触ったとしても、あざになったり、内出血したりするほど傷つきやすいです。
そこで、下記のふたつのポイントをおさえて、できるだけ利用者の身体を傷つけない触り方をマスターしましょう!

ポイント①:4本の指をくっつける

ポイント②:指の根もとを曲げる

基本と準備、手のカタチの詳細は、移乗介助の記事で紹介していますので、参考にしてみてください。

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起き上がり介助の前に!体位変換の方法

起き上がり介助をするときは、基本的にベッド上で横向き(側臥位)になってもらいます。
そのため、はじめに体位変換の方法(全介助)を紹介します。

1.利用者のうでを組み、ひざを曲げる

声かけをし、利用者のうでを組んで肩幅をせまくし、両ひざを曲げます。

ひざを曲げるときは、両手を使ってひざ裏とかかとを支えて、片足ずつ曲げます
前かがみにならないように注意して介助しましょう。

2.最初に、ひざを手前に倒す

介護者は前かがみにならないように腰を落として立ち、右手を利用者のひざに、左手を利用者の肩に当てます。
右手でひざを手前にゆっくり倒します。

3.肩の回転を左手でサポート

右手で両ひざを手前に倒した後に肩が浮いてくるので、左手でその動きをサポートします。

このとき、ひざと肩を同時に倒してしまわないように注意しましょう。
同時に倒すとねじれが起きないため、強い力が必要になります。基本的には、ひざを倒してから肩の回転をサポートします。

最初にひざを倒してから、肩をサポートする
→少ない力で介助できる

田中先生
圧迫骨折のある人の場合は、身体をねじると腰痛を起こす可能性があるので要注意!
身体をねじらずに、ひざと肩を同時に倒して体位変換しましょう。

起き上がりの全介助の方法

利用者を横向き(側臥位)にした状態からの、起き上がりの全介助を紹介します。

1.両足をベッドの外へ下ろす

利用者を横向きにしたら、両足をベッドの外へ下ろします。

ひざがベッドの外に出るように、両ひざがそろった状態のままひざ裏を抱えて下ろしましょう。

2.左手は頭の下、右手は骨盤に当てて起こす準備を

利用者の足を下ろしたら、介護者の両手の位置を確認しましょう。

首を少し前へ傾けてから、左うでを頭の下に深く入れ、ひじの内側で頭を支えるようにします。左手は肩あたりに添えましょう。
首を傾けたほうが介護者のうでで頭を支えやすくなり、軽く感じます。

右手は、ひざではなく、身体の軸となる骨盤あたりに当てます。
首とひざを抱えて起こす場合、介護者の手と手が大きく離れます。両手の間には利用者の関節がいくつも存在し、安定しづらくなります。
首と腰を支えて起こす方法だと、介護者の手と手の距離が近くなります。両手の間にある関節は少なくなるため、安定します。
そのため、ひざよりも腰に手を当てて介助しましょう。

田中先生
利用者にとっても首と腰を支えて起こしてもらったほうが、身体が縮こまらないので、負担が少なくなります。
実際に体験してみるとよくわかりますよ。

3.手前に弧を描くように上体を起こす

準備ができたら手前に弧を描くように利用者の上体を起こします。

人は横向きの状態から起き上がるとき、ベッドに手をついて、弧を描くように起き上がります。
そのため、真横に直線的に起こすよりも、手前に弧を描いて起こすほうがスムーズに介助できます。

起き上がり介助は以上です。
車いすに移乗するなど、安定した座位が保てるところに移るまで、利用者から手を離さずに支えておきましょう。

弧を描くように上体を起こす
→真横に直線的に起こすよりも負担が少ない

ギャッチアップを使用した起き上がりの全介助

ベッドの上半身側を上げる「ギャッチアップ」機能を使った起き上がり介助の方法を紹介します。

1.ベッドの曲がる位置に利用者の股関節を合わせる

ベッドの曲がる位置に利用者の股関節を合わせます

曲がる位置と股関節が合っていないと、利用者の背骨に痛みを与えてしまいます。
よけいな緊張も与えるため、介護者の負担が増える可能性も。必ず軸を合わせてから、ギャッチアップを行いましょう。

ベッドの曲がる位置に利用者の股関節を合わせる
→合っていないと、利用者に痛みや緊張を与えてしまう

軸合わせには…

ベッド上で上方移動もしくは下方移動を行います。
無理に引っ張ると褥瘡の原因にもなるので、スライディングシートがあるところは、できるだけ使用しましょう。

2.利用者を支えながら、ギャッチアップ

利用者を支えながらギャッチアップを行い、ベッドの上半身部分を上げます。
利用者の肩に手を添えて、身体がずり落ちないように気を付けましょう。

ギャッチアップの傾斜は、利用者や介護者の状況に応じて15~20度くらいをめやすにします。

田中先生
傾斜が低いと介護者への負担が大きくなり、傾斜が高いと利用者への負担が増します。
お互いに無理のない位置を見定めて行えるといいですね。

3.弧を描くように上体を起こす

ギャッチアップが終わったら、頭部と腰を支えて、上体を起こします。
左手を頭と首の下に入れ、頭部を支えます。右手は腰に当てて、弧を描くように上体を起こしましょう。

ギャッチアップを使用した起き上がり介助は、以上です。
車いすに移乗するなど、安定した座位が保てるところに移るまで、利用者から手を離さずに支えておきましょう。

田中先生
仰向けのままギャッチアップで介助をする場合は、背中とベッドの間に摩擦が起きるので、必ず背抜きを行いましょう

起き上がり介助の4つのポイント

ここで起き上がり介助のポイントを確認しましょう。
大きくわけると、ポイントは以下の4つ。

ポイント①:横向きにして、足を下ろす

起き上がり介助は、利用者を横向きにして足を下ろしたほうが、利用者にとっても介護者にとっても負担が少なくなります
横向きは、胸が開き気味の30度側臥位ではなく、完全に横向きの90度側臥位にしましょう。
胸が開き気味の状態だと、利用者の重心が介護者から遠くなって重く感じます。上側の肩が介護者の方へ十分に倒れているのを確認して、介助をしましょう。

ポイント②:ひざではなく腰に手を当てる

上体を起こすときは、ひざを抱えるのではなくに手を当てます。
ひざよりも腰に手を当てて起こすほうが、介護者の手と手の距離が近くなり、安定しやすくなります。
頭は、首に手を回すのではなく、ひじの内側でしっかり支えましょう

ポイント③:弧を描くように上体を起こす

起こすときは、手前にカーブを描くようにします。
真横に直線的に起こすよりも、スムーズに介助できます。

ポイント④:ギャッチアップの場合は、軸を合わせる

ギャッチアップを使用する場合は、ベッドの曲がる位置と利用者の股関節の軸を合わせてから行いましょう。
軸が合っていないと痛みや緊張を与えてしまうため、介護者への負担が増えます。
また、仰向けの状態でギャッチアップをする場合は、背抜きを忘れずに行いましょう。

どんな介助でも無理は禁物。「難しいな」と思ったら、すぐに上司や先輩などへ相談しましょう。
介護を続けていくためにも、介護者の身体も大切にできる技術を身に付けてほしいと思っています。

参考文献・サイト

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