第5話「嵐のようなケアマネ」
【前回までのあらすじ】
いとこの和子に頼まれて、伯母の美佐子の介護を手伝うことになった主人公・有紀。
美佐子のオムツを替える場面を目撃してショックを受けつつも、有紀は退院する伯母に付き添って、彼女の家まで帰ってきた。
今日はこれから、ケアマネとヘルパーが訪ねてくるのだ。
目次
「おばさんとこの人は絶対に合わない!」
「この人は絶対に合わない」
末期がんと認知症を患う美佐子おばさんの家に現れた、ケアマネを名乗る女性を見た瞬間、私は直観的にそう思いました。
理由は、この女性が一見して「美佐子おばさんの苦手なタイプ」だったからです。
年齢は50後半でしょうか。きちんとスーツを着て化粧もばっちり。ネックレスも指輪もしています。そして元気溢れる大きな高い声。とにかくよくしゃべる。
約束の時間を大きく遅れてきたことの言い訳も、自分から面白おかしく話そうとしました。
理由は、この女性が一見して「美佐子おばさんの苦手なタイプ」だったからです。
年齢は50後半でしょうか。きちんとスーツを着て化粧もばっちり。ネックレスも指輪もしています。そして元気溢れる大きな高い声。とにかくよくしゃべる。
約束の時間を大きく遅れてきたことの言い訳も、自分から面白おかしく話そうとしました。
「いやあ、このうち新しくできたバイパスの隣でしょう。ナビで案内が出なくてね~。私、ナビがないと迷うんです~!おばさんだから~」
(笑えない……なんで素直に「遅れてすみません」って言ってくれないんだろう……)
同席していたおばさんの娘・和ちゃんが作り笑いをする横で、私はギュッと奥歯をかみしめました。けれどそのケアマネさんの漫談は続き、
(笑えない……なんで素直に「遅れてすみません」って言ってくれないんだろう……)
同席していたおばさんの娘・和ちゃんが作り笑いをする横で、私はギュッと奥歯をかみしめました。けれどそのケアマネさんの漫談は続き、
「ああ、お茶はいらないですから。で、おばあちゃんの今後についてですが~……あ、おばあちゃんじゃなくて、ええっとメモ……そう、美佐子さんでしたあ~あははは!」
私はすっかりこの女性に敵対心を抱いてしまいました。そして一人でどんどん話を進めていくその様子に、ベテラン臭が鼻につく保険の熟年外交員の姿を重ねたのです。
そういえば、おばさんは昔からこういう保険の外交員が大嫌いだったよな……と。
怒り狂うおばさんに、ケアマネは……
案の定、事が起こったのはしばらくたってからの事でした。
後から合流した訪問看護士と訪問ヘルパーさんたちを交えた話し合いの途中で、寝ていたはずのおばさんが、突然声を上げたのです。
「誰の許可を得て、そんな話をしているのお!!」
「お母さん!?」
和ちゃんが急いでベッドに駆け寄ると、おばさんは大きく目を見開いて、顔を真っ赤にして震えていました。そしてもう一度……
後から合流した訪問看護士と訪問ヘルパーさんたちを交えた話し合いの途中で、寝ていたはずのおばさんが、突然声を上げたのです。
「誰の許可を得て、そんな話をしているのお!!」
「お母さん!?」
和ちゃんが急いでベッドに駆け寄ると、おばさんは大きく目を見開いて、顔を真っ赤にして震えていました。そしてもう一度……
「誰があなた方の世話になるなんて言いましたか!!」
このあまりにもはっきりした物言いに、私も和ちゃんも驚きました。
さっきまで言葉を発することもできず、他人にしもの処理を委ねていたおばさんが、元気だった頃にも見せたことのない、強い怒りを人前で爆発させるなんて。
ケアマネも、どうにか場をとりなそうと席を立ちました。しかし……
さっきまで言葉を発することもできず、他人にしもの処理を委ねていたおばさんが、元気だった頃にも見せたことのない、強い怒りを人前で爆発させるなんて。
ケアマネも、どうにか場をとりなそうと席を立ちました。しかし……
「でもね、おばあちゃん。これは娘さんがおばあちゃんのことを心配して……」
「結構です!帰ってください!私はあんたみたいな人の世話になりたくはない!」
「あら……!」
「帰りなさい!」
「私の方こそ、あんたみたいな人の世話なんかしたくないわよ!」
「結構です!帰ってください!私はあんたみたいな人の世話になりたくはない!」
「あら……!」
「帰りなさい!」
「私の方こそ、あんたみたいな人の世話なんかしたくないわよ!」
私は耳を疑いました。冗談にしては声のトーンが低すぎる。これは本気でキレている。
ケアマネの様子に、その場にいた看護士や介護士も大焦り。言葉をかぶせ、笑い合って、その一言をかき消そうとしました。我に返ったケアマネも、意味もなく笑っていました。
しかし、一度放たれた言葉はもう無かったことにはできません。
その後、看護士からの事務的な質問が終わると、一行は「一度、ご家族でお考え下さい」と書類のたくさん入った封筒を置いて、そそくさと去っていきました。
ケアマネの様子に、その場にいた看護士や介護士も大焦り。言葉をかぶせ、笑い合って、その一言をかき消そうとしました。我に返ったケアマネも、意味もなく笑っていました。
しかし、一度放たれた言葉はもう無かったことにはできません。
その後、看護士からの事務的な質問が終わると、一行は「一度、ご家族でお考え下さい」と書類のたくさん入った封筒を置いて、そそくさと去っていきました。
ただ、たった一人、去り際に丁寧に頭を下げてくれる人がいました。
末席に座っていた、若い女の子。彼女はメモを取るだけで、最後まで一言も口を開くことありませんでした。研修中の介護職員だったのでしょう。
「この人は、いい人かもしれない……」
そう思った私ですが、彼女を送る時、離れたところで憤慨しているあのケアマネの姿を見てしまったので、やはり心を開くことが出来なくなってしまいました。
まだ、自分たちでも頑張っていけると思った
部屋に戻ると、和ちゃんも同じ気持ちでいました。
そして二人で話した結果、週に一度の訪問診療のみを頼み、他は自分たちで頑張って行こうという話になりました。
この頃の私は、担当ケアマネを変えることが出来るのを、まだ知りませんでした。
そして二人で話した結果、週に一度の訪問診療のみを頼み、他は自分たちで頑張って行こうという話になりました。
この頃の私は、担当ケアマネを変えることが出来るのを、まだ知りませんでした。
「でも、さっきのおばさんすごかったね。あれだけはっきりしてるなんて、おばさんもまだ大丈夫だよ」
「違うのユウちゃん。お母さん、やっぱり分かってなかったのよ」
「え?」
「お母さん、あの人たちのこと保険の外交員だと思ってたの。小さな声で、なんで私が保険になんかってブツブツ言ってたのよ」
「そういうことか」
「違うのユウちゃん。お母さん、やっぱり分かってなかったのよ」
「え?」
「お母さん、あの人たちのこと保険の外交員だと思ってたの。小さな声で、なんで私が保険になんかってブツブツ言ってたのよ」
「そういうことか」
こうして、二人の介護が始まりました。
ただ予想外だったのは、このおばさんの「思い込み」「怒り」「拒絶」「叫ぶ」のループが、今後私たちに向けられるということ。
そしてそれが、娘である和ちゃんの「逃げ場のない心」を蝕んでいくということでした。
ただ予想外だったのは、このおばさんの「思い込み」「怒り」「拒絶」「叫ぶ」のループが、今後私たちに向けられるということ。
そしてそれが、娘である和ちゃんの「逃げ場のない心」を蝕んでいくということでした。
【つづく】
※この作品は、登場人物のプライバシーに配慮して設定を変えていますが、私が体験した事実に基づいた物語です。
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