介護職員として働いていると、食事介助や入浴介助と並んで更衣介助を行う場面に遭遇します。
「利用者さんの着替えをお手伝いする」というと簡単そうに感じられますが、手順やコツを知らないで手間取ってしまうと、介護する側の介護職員はもちろん、介護される側の利用者さんにも負担がかかってしまいます。
今回の記事では、「更衣介助」の具体的なノウハウについて、イラストを用いて解説します!
特に新人さんなどで「まだ着替えの介助に自信がないな……」と思う方は必見です。
目次
更衣介助とは?
更衣介助とは、ひとりで着替えるのが難しい方のために介助を行うことを指します。
頸髄損傷や加齢によって寝たきりになってしまっている方は特に、寝汗をかいたり食事や排泄によって衣服が汚れてしまったりするため、着替えを行う機会が頻繁にあります。
衣服を着替えることは、皮膚を清潔な状態に保って褥瘡を予防するだけでなく、利用者さんのQOLの向上にも役立ちます。
そのため、自分でできるだろう部分と介助が必要な部分を見極めつつ、適切なサポートを心がけるようにしましょう。
スムーズな着替えを行うふたつのコツ
簡単そうに見えて、意外と難しい更衣介助。それをスムーズにこなすコツはふたつあります。
「①着替えやすい衣類を選ぶ」こと、そして「②関節をしっかり支える」ことです。
これらを意識するとスムーズな介助が行えるようになるので、ぜひ覚えておきましょう。
①着替えやすい衣類を選ぶ
利用者さんに着てもらう服を選ぶ際は、「肌触りや通気性に優れていて、着心地がよい」「ゆったりしていて動きやすい」「着脱しやすい」という3つの条件を満たすかどうかで判断します。
上着の選び方
たとえば上着は、ひじや肩の通りやすさを考えて、伸縮性のあるものにするとよい
でしょう。
身体にフィットしすぎるものは着脱が難しいですし、無理やり脱がせたり着せたりすると利用者さんの負担も大きくなり、ケガにもつながってしまいます。
伸び縮みしない生地のものを着せる場合には、大きめのサイズを選ぶといいですね。
ズボンの選び方
ズボンを選ぶ際も、ウエストの締め付けを考慮してゆったり着られるサイズにするとよいでしょう。
大きめを選んでおけば、車いすに座った状態でも裾が上がらず、足全体を冷やさないで済みます。
ジーンズなど硬い素材のもの、ズボンの後ろにポケットやボタンがあるものは、褥瘡の原因になるのでNG。
「どうしても着たい」と利用者さんから要望があった場合には、ボタンやポケットを外すなどの改良が必要です。
下着の選び方
ゆったり履けるサイズを選びましょう。
ただし、尿取りパッドを使用している男性の場合、裾の広いトランクスタイプにしてしまうと、隙間からパッドが外れて落ちてしまうことがあります。そのため、ボクサータイプを選ぶのがおすすめです。
女性の場合は、おりもので下着を汚してしまわないよう、おりものシートを使用するとよいでしょう。
下着やズボンに関しては、「自分で排尿ができる状態の男性には前開きタイプを選ぶ」などの利用者さんの状態に合わせることも必要です。
靴の選び方
なるべく幅広で、少し大きめのサイズを選びましょう。
小さくて幅の狭い靴を履かせてしまうと、指が圧迫されて靴の中で曲がるため、褥瘡の原因となります。
靴底も含め、なるべく柔らかい素材のものにするとよいですね。
- 伸縮性のある生地
- ゆとりのある大きめサイズ
- 着脱が楽なつくりをしている
- ウエストがゴム製
②関節をしっかり支える
Tシャツの袖やズボンの裾に手足を通す際は、利用者さんの腕や脚の関節をしっかり支えるようにしましょう。
利用者さんに拘縮(関節の可動域が狭まってしまうこと)の症状が見られる場合、無理に腕や脚を引っ張って着替えさせようとすると、思わぬ怪我や事故につながってしまう恐れがあります。
そのためひじやひざ、手首や足首を支えて、関節を安定させてから介助するのがおすすめです。
更衣介助の基本は「脱健着患」
片マヒや拘縮のある利用者さんの更衣介助を行う上では、「脱健着患」(だっけん・ちゃっかん)は絶対に欠かせない重要なポイントです。
「脱健着患」とは、文字の通り、「衣服を脱ぐときは健側(=問題のない方)の腕や脚から、着るときは患側(=麻痺や拘縮がある側)から」という意味の言葉。
着患脱健と呼ぶ人もいますが意味は同じです。
脱ぐときは健康な側から袖を抜いていき、着るときはうまく動かせない方から袖を通していく。
これを意識するだけでも更衣介助がぐっとやりやすくなりますし、利用者さんも安心して着替えることができます。
介護職員にとっては基本的な原則として知られているキーワードですので、ぜひ覚えておきましょう。
実際にやってみよう!更衣介助【上衣編】
それでは、実際にどのような手順で更衣介助を行っていくのか見ていきましょう。
この記事では上衣と下衣に分けてやり方を説明しますが、どちらの着替えをサポートするにしても、まず注意しなければならないことがあります。
それは着脱を行う部屋の温度を快適な温度(22~25℃程度)に保つこと。
着替え中、利用者さんは外気に素肌をさらすことになります。そのときに部屋が寒かったら、利用者さんに負担がかかってしまいますよね。
薄着になっても大丈夫なくらいの、温かい環境で行いましょう。
着衣のやり方
Tシャツやトレーナなどの頭からかぶるタイプの服と、ボタンやジッパーなどで前開きタイプの服とでは、やり方が若干異なります。
大きい画像はこちら
頭からかぶるタイプの服の場合、まずは拘縮や痛みのある腕から先に袖を通します。このとき、できるだけ肩まで通しておくと後が楽です。
片腕を袖に通し終えたら、利用者さんには少しだけ頭を前に倒してもらって、頭を服に通します。そうしてもう一方の腕を袖に通します。
両腕と頭を服に通し終えたら、いよいよ仕上げです。
利用者さんの胸を片手で支えつつ、前屈姿勢を取ってもらいます。その状態で背中側の服を下ろし、最後に前や裾部分、腕周りを整えましょう。
大きい画像はこちら
前開きのシャツやジャケット、ジャージの場合は、片腕を通した後の動作のみTシャツなどのケースとは異なります。
拘縮や痛みのある腕に袖を通し終えたら、利用者さんの上半身を片手で支えつつ、反対側へ袖を回してもう片方の腕を通しましょう。
そのあとはまたTシャツなどと同じ。前屈姿勢の利用者さんを支えつつ背中を下ろし、衣服を整えて終わりです。
脱衣のやり方
大きい画像はこちら
上衣を脱がせるときの方法はTシャツタイプでも前開きシャツタイプでも大きく変わりません。
まず、片手で利用者さんの上半身を支えて前屈してもらいます。
背中の部分をまくり上げたら、拘縮や痛みが少ない方の腕から先に袖を抜きましょう。このとき、ひじを曲げて抜くようにするとやりやすいです。
鼻に引っかからないよう気を付けつつ頭から服を抜いたら、反対側の袖を抜いて完了となります。
実際にやってみよう!更衣介助【下衣編】
続いては、下着やズボンの更衣介助のやり方を説明します。
下衣の着替えを行う際には、利用者さんの身体の状態に合わせて、寝たままの体勢やイスに座った体勢で介助することを心がけましょう。
立った状態で着替えを行うのは、転倒のリスクがあり大変危険です。
この記事では、寝たままの姿勢での介助方法について説明します。
着衣のやり方
大きい画像はこちら
まずはパンツ・ズボンを両脚に通します。このとき、できるだけお尻の方まで引き上げておくのが望ましいです。
ある程度ズボンを引き上げたら、利用者さんの身体を横向きにして寝かせ、片側のパンツ・ズボンを腰まで上げます。ズボンの中心線がきちんとお尻の中央に沿うように整えるのも忘れずに。
そうしたら利用者さんの身体の向きを逆にして、反対側のパンツ・ズボンも腰まで上げます。
最後に仰向けの状態にして、パンツ・ズボンの中心線が身体の中央にきているか確認します。そのほか、「ズボンの裾が下がっているか」「ポケットの中袋が前にきているか」 などをチェックしながら整えましょう。
脱衣のやり方
大きい画像はこちら
まずは利用者さんの身体を横向きに寝かせ、パンツ・ズボンを下ろせるところまで下ろします。
身体を反対側に向けて同じように逆側も下げたら、最後に仰向けに寝かせて、パンツ・ズボンを脱がせましょう。
編集者より
更衣介助は毎日行う必要のあるもの。
介護職員にとっても利用者さんにとっても、できるだけ負担がかからないようにしたいですよね。
しかし、素早くやろうとして無理に着せたり脱がせたりする厳禁です。
利用者さんに怪我をさせてしまう恐れがありますし、うまくいかずお互いに消耗する羽目になります。
まずはゆっくりでも手順を覚えて、正確にこなしていくことが大切。焦らずにコツを覚えていくようにしましょう。
参考文献・サイト
- 別府重度障害者センター「「在宅生活ハンドブックNo.26」更衣介助の方法」(2015)
- カイポケ「着替えの介助について」(2019/09/24)
- 探しっくす「脱健着患っていったい何?高齢者の着替えを介助するときのポイント」(2017/05/10)